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合宿の全日程が終了し、稲荷崎高校の部員たちを乗せた大型バスが、夕闇の高速道路を走り出した。車内は激闘の疲れで静まり返り、低いエンジン音だけが一定のリズムで響いている。
「……朱里、こっち座れ。窓際は冷える」
乗り込む際、治くんに手首を掴まれて誘導されたのは、一番後ろの座席だった。
彼は当然のように私の隣に座ると、自分のジャージのジャケットを脱いで、私の膝の上にバサリとかけた。
「治くん、自分の分は? 風邪引いちゃうよ」
「……ええねん。俺は朱里の体温で温まるから。……ほら、こっち来い」
治くんは私の肩を抱き寄せると、自分の肩をポンポンと叩いた。
逃げ場のない、最後尾の密室。
逆らう気力も湧かないほど疲れていた私は、吸い寄せられるように彼の広い肩に頭を預けた。
「……おやすみ。……合宿、頑張ったな」
耳元で響く、いつもより数段低い、優しい声。
彼のジャージから香る、微かな石鹸の匂いと、今日一日吸い込んできた体育館の匂い。
私は意識が遠のく中、彼が私の手を、自分の上着の下でギュッと握りしめるのを感じた。
「……朱里。……寝とる間に、俺の『印』増やしてもええかな」
銀髪が私の頬をくすぐる。
彼が私のこめかみに、ちゅっと熱い熱を落とした、その時。
「あーーーっ!! 見つけた! 治、自分だけ朱里ちゃんと『不潔な相席』しとるやんけ!! 死刑や、死刑!!」
前の座席から、おにぎりを喉に詰まらせたような声で侑くんが身を乗り出してきた。
後ろには、ナイトモードのカメラを構えた角名くんが「これ、ベストショットだわ」と楽しそうに続いている。
「……ツム。お前、ほんまに……死ね。……今、一番ええ『寝かせどき』やったのに」
「寝かせどきって何やねん!! 朱里ちゃん、こいつの肩には『治以外、見えなくなる呪い』がかかっとるからな!!」
「……呪いやない。……愛や。……角名、今のツムの『嫉妬に狂った顔』、全校生徒にライブ配信しとけ。……朱里、もう一度寝ろ」
治くんは侑くんを自分のスポーツバッグで押し戻して黙らせると、私の頭をさらに深く自分の胸元へと引き寄せた。
「……朱里。……バスが着くまで、俺以外に触らせへん。……俺の体温、全部お持ち帰りしてな」
帰還のバス。
眠りの中の独占。
おにぎりの具材よりもずっと深い、治くんの「添い寝」という名の執着が、私の夢の中までドロドロに支配していった。