テラーノベル
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日曜日の朝、空はいつもより少し曇っていた。
風も少しひんやりしていて、夏の終わりが近いことを感じさせる。
すみれは、カレンダーの「友引」と書かれた日に、
なぜか少し胸がざわついていた。
今日は、みくと“はじめての場所”に行く日だった。
前に一度だけ、電車の中でチラッと話題に出た小さな神社。
誰もあまり知らないけれど、願い事が叶うと噂されているという。
美玖:「ここ、すごく静か……でもなんか落ちつくね」
すみれ:「うん……ねえ、みく。お願い事、なににする?」
美玖は少し考えてから、にっこりと笑った。
美玖:「すみれと、これからもずっと友達でいられますように」
すみれ:「……わたしも、同じこと思ってた」
ふたりは同時に手を合わせ、
心の中で、同じ願いをそっと唱えた。
その瞬間、境内の風鈴がふわりと鳴った。
どこからともなく吹いた風が、ふたりの髪をそっと揺らした。
帰り道、近くの公園でベンチに腰を下ろしたふたり。
すみれは、小さな紙袋をそっと差し出した。
すみれ:「これ、みくにあげたくて……手作りのしおり。絵、描いたの」
美玖:「えっ、うれしい!……わたしも、ちょっとだけど」
そう言って、美玖はすみれのリュックに、
小さなキーホルダーをつけてくれた。
小さな星がついた、透明なビーズのキーホルダー。
美玖:「すみれは、わたしの大切な人だから。
この星みたいに、ずっとそばにいてくれる気がするの」
すみれは、思わず胸がぎゅっとなるのを感じた。
嬉しくて、でも少しだけ、胸が痛くなるような感覚。
それが、
ふたりが最後に一緒に過ごした“ふつうの日曜日”だった。
あのあと、すみれの前から、突然みくは姿を消した。
学校にも来なくなり、連絡も取れなくなった。
先生は「家の都合で転校した」とだけ言った。
でも、すみれには、言葉ではうまく言えないけれど、
“何か”が起きたのだと、どこかで分かっていた。
すみれは今も、大事にそのしおりを手帳に挟んでいる。
星のキーホルダーは、色が少しあせてしまったけれど、
リュックにちゃんとつけたままだ。
――そして、時々思い出す。
「また来てもいい?」と笑った、みくの顔を。
「もちろん」と返した、自分の声を。
その日、すみれの願いは、まだ叶っていない。
でも、あの日のことは、今も心の中に――
光のように、残っている。
つづく
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