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俺、独華には、きっと、いいや。絶対に一生忘れられない光景がある。
俺はドールだ。だから、主も居る。
俺の主は二人だ。でも、一人はもう会えなくなっちまった。
私、独華には兄さんが一人いる。
何故か、兄さんは私を人々の前に出したり、人間のお偉いサン達に会わせたくないらしい。
此処はドイツ第三帝国。今は、第二次世界大戦の真っ最中。
ドイツ第三帝国の化身、ナチス・ドイツは私の兄さんの主で、今も戦場に出ている。
ドールは主と魂単位での繋がりがある。だから、兄さんは体調が何時も悪そう。ただでさえ、喘息持ちで兄さんはしんどいんだから無理だけは本当に、本当にしないで欲しい。
でも、兄さんは幾ら体調が悪くても私に「これから必要になるんだ」って言って政治の事とか、国の歴史だとか、世界地理だったりとかを教えてくる。
それが私には、まるで、まるで、兄さんが。
「もう、死ぬみたいじゃないか。そんなのは、嫌だなぁ」
ボソッと漏れた私の言葉は遠くから聞こえる敵国からの攻撃音がかき消していった。
チュンやらピヨやらの小鳥の鳴き声が聞こえて私は今日も目を覚ます。
兄さんの兄さんが造ったツリーハウスに私は住んでいる。
私は、兄さんの兄さんの記憶が無い、なんたって私が地球に生まれる前に死んだんだ。あるはずが無い。
このツリーハウスは昔、兄さんと兄さんの兄さんが秘密基地としてよく過ごしてたらしい。
此処は、木々に囲まれていて、本当に落ち着く。それは、『ドール神話』にも出てきた、いや、現実だけどな。私の故郷、天界のある場所に似ているからなのかもしれない。まぁ、詳しいのはよくわかんないけど。だって、ボンヤリとした記憶だし、仕方ないし。何て、自分に言い聞かせながら服に付いた木の葉を取る。
古っぽいブラシで、黒、赤、黄の独特のグラデーションになってる長い私の髪を梳く。
薄紅色のリボンで長い私の髪を後ろでポニーテールにして結ぶ。
何時も道理に左耳に金色のピアスを付ける。
このピアスは私が生まれた時から付けてるから大事な物だ。何でも、輪っかだから、過去、現在、未来を繋げるって意味もあるそうだ。
何だかんだ色んなことを考えてたらもう準備が終わった。これから私は兄さんの居る所に行くの。
兄さんの居る部屋は冷たい石畳で藁の布団だ。まともな部屋だとは到底言えない。
そんな部屋がちょっとだけ見える鉄格子があるこの国の中心位にあるちょっと古びてるけどとにかくデカイ館の裏庭に行って鉄格子の前に座る。
「兄さん、私、独華だよ。大丈夫?」
「独か?俺の事は気にするな。お前は元気か?」
嘘だ。私の事なんて気にしてられる様な状態じゃないくせに。
だって、だって、凄く弱々しい声だもん。辛そうな声じゃんか。何で、無理して頑張るのよ。
私は下唇をグッと噛んで、込み上げる感情を堪えた。
「うん、兄さん、私は元気だよ」
「言いつけどうりに山にあるツリーハウスで暮らしてる。人にも会ってないよ」
この言いつけの理由を兄さんはどうしてかは一切教えてくれない。
私は時々分からなくなってしまう。兄さんが本当に私の事を好きなのか、大切に思っているのか、全く分からなくなってしまう時がある。
兄さんには、笑ってて欲しい。普通の暮らしをして幸せそうにしてて欲しい。なのに、今はそれが叶わない。こんな、辛いだけの戦争なんて、早く、早く、終ってくれれば良いのに。
「今日は、ゲホッコホッ」
「兄さん!今日はもうお仕舞いにしよ。私は又 明日来るからさ。ね?」
いつもも以上に酷く咳き込む兄さんを見て、心底、心配で心配で、私は必死に今日の勉強は辞めて、明日に移すように兄さんを促す。
「いや、駄目だ」
威厳と強さに溢れた昔の格好良い兄さんの声が聞こえた。