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あれから一週間――
謙杜は、すこしずつ「変わり始めていた」。
以前のようにムリにテンションを上げることも、みんなを笑わせることも減った。
代わりに、自分の気持ちに正直になることを、ゆっくりと始めていた。
たとえば、学校から帰ってきて真理亜にこう言う。
謙杜:「今日、ちょっとしんどかった。……人の輪に入れへん感じがして、疲れたわ」
真理亜は笑って言った。
真理亜:「それ、ちゃんと口に出せてるだけで、偉いよ。謙杜くん」
またある日は、駿佑にボソッと。
謙杜:「最近、俺のこと“うるさくない”って言われるけど……それも寂しいなって思ったりする」
駿佑は肩をポンッと叩いて返す。
駿佑:「ええやん。たまには“静かな謙杜”もアリやで。ギャップ萌え狙っていこ!」
謙杜:「うわ〜!またそうやって茶化す!も〜っ!」
――けれど、声は自然に笑っていた。
夜のリビング。
シェアハウスの面々がテレビを囲んでいる中、謙杜はふと立ち上がった。
謙杜:「なあ、ちょっとみんなに話してもええ?」
全員の視線が集まる。
謙杜は、ゆっくりと深呼吸してから話し出した。
謙杜:「俺な、最近まで“明るく元気で、おもろいキャラ”じゃないと、ここに居場所ないって思ってた。でも、それって自分が勝手に決めつけてただけやったんやって、ようやく気づいた」
「謙杜……」と和也が小さく呟く。
謙杜:「本音言ったら、笑われるんちゃうかってずっとビビってて。ほんまは、“怖い”“寂しい”“しんどい”って、言いたい時めっちゃあってん。でも、みんながそれ聞いて受け止めてくれたこと、今も奇跡みたいやと思ってる」
目に少しだけ涙を浮かべながら、謙杜は続けた。
謙杜:「これからの俺は、“無理して元気な謙杜”やなくて、“素直な謙杜”で生きていきたい。しんどい時はしんどいって言うし、笑いたい時は心から笑う」
全員が静かに聞いていた。
そして、一番最初に立ち上がったのは――丈一郎だった。
丈一郎:「おう、ええやん」
駿佑:「無理して明るいより、素直で正直な方が、ずっとカッコええわ」
と、駿佑。
和也:「俺も、謙杜に何回助けられたか分からへんしな」
と、和也。
真理亜:「謙杜くんの笑顔が、“嘘じゃなくなる”なら、それが一番やと思う」
と、真理亜。
最後に、流星が優しく微笑んで言った。
流星:「俺、あの日、“助けて”って言えたことで変われた。謙杜も、そうしてくれて嬉しい。……ありがとう」
みんなの声が、謙杜の心に沁みた。
謙杜:「……ほんま、ここが俺の居場所や」
泣き笑いのまま、謙杜はみんなに向かって手を広げた。
謙杜:「ちょ、全員ハグしよ! 全員!! こういう時ぐらい、ええやろ!?」
大吾:「お前が言い出すんかい!」恭平:「謙杜、やっぱうるさいわ〜!」
駿佑:「でも、そういうとこ戻ってきたの、嬉しいわ」
シェアハウスのリビングには、あたたかな笑い声が満ちていた。
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