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#誕生日
かんすい
山川――通称りばーは、今日も指先でスマホを滑らせていた。
「……またおすすめかよ」
画面に並ぶのは、“あなたにぴったり”と勝手に選ばれた動画たち。考えるのは好きだが、考えさせられるのはあまり好きじゃない。りばーは少し苛立って、無造作に一つの動画をタップした。
タイトルはこうだ。
『あなたの今日を、もう一度。』
「は?」
短気な彼は、すぐ閉じようとした――その瞬間。
視界が、暗転した。
◇
「……は?」
気づくと、りばーは自分の部屋に立っていた。
いや、“さっきの自分の部屋”だ。
机の上には、ついさっきまで悩んで買ったばかりの漫画。封も切っていない新品。レシートもそのまま。
そして――
もう一人の自分が、そこにいた。
「……おい」
声をかけると、“もう一人のりばー”は、スマホをいじりながらぼそっと言った。
「……またおすすめかよ」
同じセリフ。
同じ動き。
同じ苛立ち。
りばーは一歩後ずさる。
(これ……動画だ)
理解した瞬間、背筋が冷えた。
目の前の自分は、完全に“再生されている”。
巻き戻しも、停止もない。ただ流れていく。
「……マジかよ」
思わず笑ってしまった。
こんな非日常、漫画でならいくらでも見てきた。むしろ金をつぎ込んできた側だ。なのに、いざ自分がその中にいると、妙に現実感がある。
――いや、あるからこそ面白い。
りばーは、少しだけ目を細めた。
「じゃあ、変えてみるか」
“再生されている自分”に近づき、肩に手を置こうとする。
だが――
すり抜けた。
「……は?」
触れられない。
干渉できない。
完全に“観る側”だ。
そのとき、ふと気づく。
机の上に、見覚えのないものがあった。
小さなリモコン。
ボタンは一つだけ。
▶(再生マーク)
「……おいおい」
嫌な予感しかしない。
でも、りばーは躊躇しなかった。
考えるのは好きだが、試さないのはもっと嫌いだ。
ボタンを押す。
カチッ。
◇
次の瞬間。
「……またおすすめかよ」
りばーは、自分の部屋でスマホを見ていた。
――さっきと同じ状況。
だが、違う。
“知っている”。
このあと何が起きるかを。
「来るな……来るなよ……」
動画をタップしないよう、必死に親指を止める。
しかし、指は勝手に動く。
画面に触れる。
再生。
暗転――
◇
その外側で。
もう一人のりばーが、それを見ていた。
「……なるほどな」
腕を組み、冷静に呟く。
「これ、“俺が俺を観る動画”か」
リモコンは、まだ手の中にある。
ボタンは一つ。
▶
つまり――
「何回でも再生できるってことか」
口元が、わずかに歪む。
新しい漫画を開封する瞬間みたいな、あの高揚感。
未知に触れる感覚。
金じゃ買えない体験。
「……いいじゃん」
りばーは、もう一度ボタンを押した。
カチッ。
◇
――そして動画は、終わらない。
観る側と、観られる側が、入れ替わり続ける。
誰も止めない。
止められない。
ただ一人だけが、それを理解している。
最初にボタンを押した、“最初のりばー”だけが。
だが彼もまた、どこかの再生の中にいる。
――そうと知らずに。
スマホの画面には、今日も新しいおすすめが並ぶ。
『貴方にぴったりの体験を。』