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かんすい
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志村――通称ままむは、黒板の前でチョークを止めた。
「……はい、ここ。なんでこうなるか分かる人」
教室は静まり返る。
誰も手を挙げない。
「はぁ~……だから言ったじゃん、途中式ちゃんと書けって」
少し苛立った声。けれど、その目はどこか面倒見がいい。
母親みたいだ、とよく言われる理由だ。
そして同時に――
「ままむ先生、こわ~」
「誰が先生だコラ」
短気な一面も、しっかりある。
◇
その日の放課後。
ままむは机に突っ伏していた。
「……ねむ……無理……朝は人間の活動時間じゃない……」
完全にだらけモードだ。
机の上には、開きっぱなしのノートと、こっそり持ち込んだ漫画。
数学は得意。でも、それ以外はわりとゆるい。
そんな彼女の視界に、ふと“何か”が映った。
ノートの上。
さっきまでなかったはずの、式。
きれいに整った数式が、勝手に書かれている。
「……は?」
体を起こす。
確かに自分は書いていない。
でも、その式には見覚えがあった。
「これ……さっきの問題の続き……?」
黒板で止めた、あの問題。
誰も答えられなかったやつ。
その“続き”が、勝手に書かれている。
しかも――
「……違う」
ままむは眉をひそめた。
「これ、私の解き方じゃない」
もっと無駄がなくて、もっと美しい。
まるで“正解に最短でたどり着くためだけ”の式。
ページをめくる。
次のページにも、また式。
さらに次。
さらに。
「ちょっと待って……」
ノートは、まるで未来を知っているみたいに、次々と“解答”を書き出していく。
まだ出されていない問題。
まだ習っていない範囲。
それすらも、全部。
「……なにこれ」
ゾクッとした。
でも同時に、少しだけワクワクした。
まるで、先の展開を知っているアニメを一気見するみたいな感覚。
結末が分かってるのに、途中が気になる。
「……試すか」
ままむは立ち上がり、黒板へ向かった。
チョークを持つ。
ノートに書かれていた式を、そのままなぞるように書く。
すると――
「……は?」
書いた瞬間、式の一部が“消えた”。
黒板から、勝手に。
まるで、「違う」と言われたみたいに。
「はぁ!? 何それ!」
思わず声が大きくなる。
もう一度書く。
また消える。
少し式を変える。
今度は残る。
「……あぁ、そういうこと」
ままむは、ゆっくり笑った。
「“答え”じゃなくて、“正解への道”を選べってことか」
ノートは未来を見せる。
でも、それをそのまま使うと否定される。
自分で考えて、たどり着いた形だけが残る。
「……性格悪っ」
誰にともなく呟く。
けれど、その目は楽しそうだった。
◇
翌日。
「はい、昨日の続きやるよー」
ままむは黒板に向かう。
「ちゃんと考えな。答えだけ見ても意味ないから」
いつもより、少しだけ優しい声。
そして少しだけ、楽しそうな声。
チョークを走らせながら、彼女は思う。
(この先に何があるかは、知ってる)
でも。
(どうやって行くかは、まだ決めてない)
黒板に、式が残る。
今度は消えない。
それを見て、ままむは小さく笑った。
「……よし、これ正解」
教室の後ろで、誰かがぽつりと呟く。
「ままむ、今日なんかノリいいね」
「うるさい。やるときはやるんだよ」
短気な声。
でもその裏に、少しだけ混ざる高揚感。
机の中のノートは、今日も静かにページをめくっている。
未来を知っているくせに、何も教えないまま。
――まるで、続きが気になる漫画みたいに。