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テラーノベル(Teller Novel)
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フルーディアの街より戻ってから3日後の夜。

俺とテオは「ネレディが帰ってきた」との連絡を受け、待ち合わせ場所であるトヴェッテ王室御用達のレストランへ向かった。

先日も連れて行ってもらったその店は、ネレディいわく「国家レベルの内密の商談や会談にも使われる」ほど、機密性が高いとのこと。


相変わらずの高級そうな店構えの入口で俺達が名前を告げると、すぐに最奥の個室へと案内された。




「待ってたわ! さぁ座って座って!」

部屋に入るなり、ネレディが声をかけた。

俺とテオは案内された席へと座る。


待っていたメンバーは、円卓に座るネレディとナディ、壁際に控える執事服のジェラルドとメイド服のイザベル。

顔ぶれだけなら先日のフルーユ湖への遠征時と同じだが、ネレディ親子が華やかな色のドレスや豪華なアクセサリーで正装しており、印象が全然違って見えた



席へついた俺が気付く。


「椅子がもう1つあるんですが、どなたかいらっしゃるんですか?」


円卓に座るのは俺から時計回りにテオ・ナディ・ネレディの4人。

そして俺とネレディの間には、誰も座っていない空の椅子が1つ置かれていたのだ。



「ええ。そろそろ来るんじゃないかしら――」



――コンコン。



ネレディが言い終わらないうちに、ドアをノックする音が聞こえた。



「……噂をすれば。ジェラルド、開けてちょうだい」

「かしこまりました」


ジェラルドが一礼してから扉を開けると、そこにいたのは、上流階級っぽい紺色の上着を羽織った年配の男性、執事服の青年、ローブを着た魔導士風の男性、そして金属鎧で武装した兵士が2人。



この年配男性……どっかで見た気がするけど誰だったかな?

そんなことを思いつつ、椅子から立って挨拶でもしようとした瞬間。


「おじいさまぁ~っ!」

「おぉナディ、今日も可愛いのう!」

「えへへっ」


いち早く椅子から飛び降りたナディが、年配の男性へと駆け寄った。

男性は満面の笑みでナディを抱き上げて、その頭を優しく撫でる。





俺とテオは顔を見合わせ首をかしげた後、年配男性の正体に気付き同時に叫ぶ。


「「こ、国王様ッ?!」」



目の前の彼は、ナディの祖父かつネレディの父親、そしてトヴェッテ王国の現国王トヴェッタリア27世』本人だった。


ゲームではフルーユ湖浄化後にトヴェッテ王城で開かれる『浄化祝賀パーティー』イベントで会えるのだが、その際は王冠に深紅色のマントと、いかにも王様だといわんばかりの服装で、しかも祝賀パーティー以外には姿を見る機会は無いため、俺はナディの呼びかけを聞くまで彼の正体に気付かなかったのだ。



慌ててお辞儀をする俺とテオ。


「あ~、別にかしこまらんでもよいぞ? 今日はあくまでプライベートなお忍びという扱いでのう……」


国王は困ったように言うのであった。






国王は同行者達に全員部屋の外で待つように命じると、空いた席へ腰かける。

変わらずガチガチに固まっていた俺だったが、国王の気さくな態度に、だんだんと緊張をほぐしていった。



運ばれてきた豪華なコースディナーを食べながら、ネレディがメインとなってフルーユ湖に遠征した際の状況などを国王に説明。

俺の正体――勇者であるということ――に関しては、俺自らが打ち明ける。おそらくこの国王ならば、正体を明かしても悪いようにはしないだろうと思ったのだ。


なお説明の流れでネレディに言われ、ナディがポシェットからスライムのスゥを取り出した時には、それまで動じなかった国王もさすがに動揺し頭を抱えていた。

ネレディ同様、最終的には何とか無理やり自分を納得させたようだが。




「……で、ここからはタクト達がフルーディアの街を発ってからの話なんだけど。冒険者達に依頼した調査ではフルーユ湖周辺の霧が晴れた後、このエリアでのモンスターの発生は確認されていないわ。霧のエリアは狭いから、残った魔物も冒険者総出ですぐに全滅させることができたし……数日後にはフルーユ湖の安全宣言を出せるんじゃないかしら」

数日後?! そんなに早く安全宣言を出してしまって大丈夫でしょうか?」

「大丈夫よ。『小鬼の洞穴』を担当するエイバス冒険者ギルドとも密に連絡を取っているけれど、あちらでもタクト達がダンジョンボスを討伐後、1ヶ月経った現在も魔物の再発は1度たりとも確認されていないって話だもの」

「そうなんですか!」

「それに我が国としても念のため、フルーユ湖近辺の警備体制等の強化を視野に予算や人員を調整しているわ。例え宣言後に万が一があったとしても、即座に国が動けば大きなトラブルにはならないはずよ!」

「よかった……」


ネレディの言葉に、俺はホッと胸をなでおろす。

同じく安心したようにテオが言う。


「この感じなら小鬼の洞穴の安全宣言も近いかもな!」

「ああ、そうだな!」


以前浄化した小鬼の洞穴は、フルーユ湖と違って敷地が広い上、また本当に浄化が完了したかどうかとの経過もみたいことから、調査に時間がかかるとのことだった。


あれから約1ヶ月。

ネレディの情報も合わせると、「ダンジョンに巣食う闇魔力を、勇者の光魔力で相殺するというダンジョン浄化方法はゲームでも現実でも共通のようだ。

これが分かったのは俺達にとって収穫であり、今後の旅にも影響してくることだろう。




「タクト、テオ。改めて御礼を言わせてちょうだい。フルーユ湖を解放してくれて、本当に……本当にありがとう!」

「余も心の底から礼を言うぞ」

「あのね、スゥをたすけてくれてありがとー!」


ネレディ、国王、ナディが口々に改めて礼を述べ、スゥはナディの頭の上で嬉しそうにぷるぷる震えた。



俺が恐縮しつつも「どういたしまして」と答えると、深々と頭を下げていた国王がゆっくりと顔を上げてから言う。


「ところでのう……褒美を取らせたいのだが、何か希望の物はあるかの?」

「え、希望の物ですか?」


急に言われて戸惑う俺。

国王は言葉を続ける。


「うむ。本来ならば国を救った勇者を称え、大々的に祝賀の宴を催したいところなのだが……そなた、あまり目立ちたくないのであろう?」

「申し訳ないです……」

「謝る必要はないぞ。そなたの正体を知れば、良からぬ者共が放ってはおかぬだろうからの……隠すというのも賢き選択である。して、褒美は何がよいかの?」



俺が横をチラッと見たところ、テオは「自分で決めていいぞ」とでも言うように深くうなずいた。

ならば遠慮なくと、悩み始める俺。


お金は頑張れば何とか稼げるし、せっかくなら滅多に手に入らないレアアイテムのほうがよいだろう。

ただ、あまりにも高価過ぎる物を望んでも印象は良くないだろうし……書きためた『欲しいアイテム一覧』を思い出していると、俺の頭に1つの候補が浮かんだ。



「……可能であれば、最高級の透明魔石をいただけないでしょうか? 作ってみたいアイテムがありまして、その材料として必要なんです」




俺が作りたいと考えているアイテムの最有力候補で、行ったことがある場所ならどこでも一瞬で行ける魔導具『自由転移扉《テレポーテーションドア》』。

これに必要な材料の1つが、超激レアアイテム『最高級透明魔石』である。


本来であれば、フルーユ湖のボス・ヒュージスライムを倒した際、その確定ドロップ品として、最高級透明魔石が手に入るはずだった。

しかし想定外の事態――ヒュージスライムがナディの使い魔になった――が起きたため倒すことができず、したがってドロップ品が入手不可となってしまった。


後になって俺はその事実に気付いたが、最高級透明魔石はスラニ湿原などの通常出現スライムからも低確率でドロップする可能性があり、どこかでまた籠もってスライム狩りに専念するか、販売ルートをあたるかすれば入手可能だろうと割り切った。



だがどちらの入手ルートでも、相応の時間か金銭が必要となる。


スラニ湿原を管理するトヴェッテ王国の国王なら、他の国よりも魔石は手に入れやすいだろうし、そこまで無茶な要求と思われないんじゃないか?


そう思った俺は、ダメ元で頼んでみることにしたのだ。




「最高級の透明魔石とな……」

呆気にとられたような国王。

俺が慌てて補足する。


「あの、あくまで可能であればなんで――」

「安心せい、そんなもんでいいのかと驚いただけである。そなた欲が無いのう、はっはっは!」


楽しそうに大きく笑う国王。


「は、はぁ……」


“あの最高級透明魔石”を、そんなもん扱いで軽く片付けるとは……大国トヴェッテの財力の凄まじさの片鱗が垣間見えたような気がした。







ちなみにボスとの戦闘中に入手した『ヒュージスライムの欠片《かけら》』も『自由転移扉《テレポーテーションドア》』に必要な材料だ。


スライムを武器などで物理攻撃し半透明の体の一部を切り離すと、スライムが持つスキル【合体】の効果で、切り離された体は自動で本体――核がある場所――へ戻ってくっつこうとする。

この時、切り離された体が本体へ戻る前に、スキル【アイテムボックス】やマジカルバッグで収納すると、『スライムの欠片』として入手できる。


ただ本体スライムが生きている限り、スライムの欠片を【アイテムボックス】やマジカルバッグなどから取り出すと、自動で本体へ戻ってくっつこうとしてしまうため、入手していても使うことができないのだ。



フルーディアの街からの馬車での帰り道。

そのことに気づいた俺がスゥに確認してみると、本体スライムが“欠片の所有権”を放棄しさえすれば、スキル【合体】は効力を失うとの答えが返ってきた。

念のために実験し、スゥの言葉が正しいことも証明済だ。


ただ本体が生きているのに体の一部を勝手に使うのはどうなのか……と思った俺がたずねたところ、スライムにとっての本体はあくまで『核』であり、半透明の体は『人間にとっての服』のような感覚であるため、助けてもらったお礼として遠慮なく俺に使ってほしいらしい。


むしろもっと体を切り取っていいとまでスゥは申し出てくれたが、何となく気が引けた俺は「必要量は十分足りてるから、気持ちだけ有難く」と丁重に断った。

ブレイブリバース~会社員3年目なゲーマー勇者は気ままに世界を救いたい

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