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フルーディアの街より戻ってから3日後の夜。
俺とテオはトヴェッテ王室御用達のレストランにて、ネレディ、ナディ(&スゥ)、それにトヴェッテ王国の現国王・トヴェッタリア27世というメンバーと食事を共にすることとなった。
勇者の功績を残したいというトヴェッテ側の希望と、あまり自分の正体をバラしたくないという俺の希望とを合わせた結果。
『勇者がフルーユ湖を浄化するところを、たまたま見かけた目撃者』という架空の存在を作りあげ、その証言内容はなるべく事実に沿ったものにしつつ、俺の容姿等といった肝心な情報を混ぜないようにする案が良いのではないかという結論に。
ネレディの情報によれば既に「霧が消えた日、強く白い光がフルーユ湖辺りで輝くのが1度だけ見えた」という目撃証言が各所から上がってきているらしく、それに合わせるように架空証言の話も流せば、うまくトヴェッテと俺達の双方に都合が良い噂として広まってくれるだろうとのことだった。
証言内容からすると、おそらく「『勇者の剣《つるぎ》』に魔力を注ぎ、真の姿を解放した時の光」だろう。
目撃証言の中には、トヴェッテ王国首都を囲む塀の上から見張りをしていた兵士のものもあったらしい。
首都とフルーユ湖とは、ゆっくり馬車で移動して半日ほどの距離。
まさかそんなに遠くまで光が見えるとは思わなかったのだ。
今後、剣の真の姿を解放する際は気を付けなければ……と、俺は肝に銘じておくのだった。
情報交換をしたり、決定すべき事項について話し合ったりが一段落した頃。
ナディはデザートのシャーベットを喜んで食べ、大人達は食後酒を味わいつつ他愛もない世間話に花を咲かせる中、国王が俺へたずねる。
「……そなた、魔王を倒した後のことは考えておるかの?」
「魔王を倒した後ですか?」
「うむ。現在は魔王を倒すため、日々懸命に努力しておることであろうが、討伐後について当てや希望はあるのかね?」
「そうですね……今のところ、決めかねています」
神様からは「勇者としてリバースさえ救ってくれれば、召喚されたその瞬間その場所まで魂が戻してやる術をかけてやる」と言われている。
それもあって俺は当初、魔王討伐後は元の世界に帰るつもりだった。
だが、かつて夢に見たような日々――日本であのまま暮らしていては絶対に体験できない、剣と魔術の世界で過ごす毎日――を送るうち、最近では、このままこのリバースという世界に残るのもありかもしれないな……とも考えるようになっていた。
その理由の1つが、先代勇者の存在だ。
ゲームでは『ある一族』と仲良くなると、実はその一族の祖先が『500年前の先代勇者』であることを、こっそり教えてもらえる。
なんと先代勇者も異世界の人間であり、なんと魔王討伐後、元の世界に帰らずこの世界へと残る選択をしたらしい。
ゲーム通りであるならばという前提付きだが、神様に交渉すれば、自分も先代勇者と同じ選択肢を選べる可能性が高いのではないかと俺は考えている。
「ならばそなた、トヴェッテ王国に永住する気はないかね?」
予想外な言葉に驚く俺。
その後も国王は、畳みかけるように提案を続けていく。
「フルーユ湖浄化という偉大な功績に対し、透明魔石ごときでは褒美が釣り合わぬ。本来ならばそれ相応の褒美を授け、栄誉を称えなければ末代までの恥。しかしそなたは魔王討伐の足枷となるから目立ちたくないとのこと……であれば魔王討伐後ならば問題なかろう?」
「ええ、まぁ――」
「そこでだ! 魔王討伐後、我が国の領地と、最高の爵位である『公爵』をそなたに授けたいのだよ!」
「公爵ですか?」
「うむ、公爵ともなれば毎年かなりの額の手当金が国から支給されることとなろう。領地を経営していくための手腕に長けた部下も国から派遣可能であるからして、そなたが希望とあらば、働かずとも暮らしていくことも可能である!!」
国王の一方的な熱弁を聞きながら、そんな暮らしもいいかもしれない……うっすらそんなこと思い始めたときだった。
いきなり直球な質問をぶつけられ、俺はしどろもどろになってしまう。
「いや……あの……まだですけど……」
「今のところ……全くないです……」
「み、見合い?!」
ここでネレディも会話に加わる。
思わずゴクリとつばを飲み込んだ俺が、心を決めて「よろしくお願いします」と言おうとした瞬間、バッとテオが遮った。
「いや、俺は――」
キョトンとした俺が、反論しようとしたところ。
こうなった時のテオは、決して敵に回してはいけない。
それを察した俺は、国王の提案に後ろ髪を引かれつつも、改めて後日返事をさせてほしいとやんわり答えたのだった。
会食も終わり、俺とテオはネレディ達と別れていったん宿屋へ戻る。
あてがわれた客室でようやく2人きりになったところで、俺が不満げに言う。
「なぁテオ、なんでさっき邪魔したんだよ!」
「ん、何が?」
テオはマイペースに答えつつ、ソファーに腰かける。
「何がって……あれだよ、み、見合いとか……」
「あのさー、それ本気で言ってる?」
「あ、当たり前だろ?」
テオは大きく溜息をつき、真顔になった。
「考えてもみろよ。タクトは勇者なんだぞ? この世界の誰もが“その凄さ”を知ってる“伝説の勇者”が、一国に腰を落ち着け、しかも最高位の公爵なんて地位についたとする……これ、どういう意味だと思う?」
言われて初めて思い出す。
異世界系のゲームやアニメで「娘をやるから王位を継げ」とか「領地やるから国を守れ」等の似たようなシチュエーションや、それを巡り渦巻く思惑の数々が存在していたことを。
冷静になった俺は、一呼吸おいてからゆっくり言った。
テオは笑顔に戻り答える。
「そーいうこと! 今まではあんまり勇者だってバレないように気を付けてたからよかったけどさー、今後はそうもいかないかもだぞ?」
「そうだな……」
深くうなずく俺。
「ま、変に利用されたりしないよう気をつけるんだなー。特にタクト、ハニートラップとかに弱そうだし!」
「な?! そんなことは――」
「うっ……」
俺は、何も言い返すことができなかった。