七人は荒い息を整えながら廊下を駆け抜け、三階の図書室に辿り着いた。
扉を開けると、昼間とは違う異様な静けさに包まれる。
本棚が迷路のように立ち並び、無数の本がこちらを見下ろしているように感じられた。
「次は……ここで“試練”があるってこと?」
瑞希が声をひそめる。
「そうね。放送に出てきた“次の場所”は……確かに図書室だった」
理沙が頷き、机の上を懐中電灯で照らす。
中央の長机には、一冊の大きな本が置かれていた。
表紙には赤いインクで「第三の鍵」と書かれている。
「またこれか……」
穂乃果が肩をすくめながら本を開いた瞬間――。
――ひそひそ、ひそひそ……。
本棚の奥から、無数の声がささやき出した。
それは人間の言葉のようでいて、何を言っているのかはっきりわからない。
だが耳を澄ますと、確かに自分の名前を呼んでいるように聞こえた。
「な、菜乃花……」
小柳菜乃花は肩を震わせる。声は確かに彼女の名を呼んでいた。
「落ち着いて! 幻聴だ!」
瑞希が叫んだが、その声も囁きに飲み込まれていく。
理沙が本をめくると、中はびっしりと暗号のような文字で埋め尽くされていた。
ただし、ところどころに“数字”と“ページ番号”が挟まれている。
「これは……図書室の本と対応してる?」
香里が眉をひそめる。
「指定された本を探して、正しい順番で読むんだわ」
だが問題は――図書室の本棚は何百冊、何千冊もあるということだった。
「全部探してたら夜明けまでに間に合わないよ……!」
里奈が半泣きで訴える。
そのとき、真綾が耳を押さえながら言った。
「……声が……“こっちだ”って導いてる気がする……」
全員が息を呑む。
怖さを振り切って、七人は囁きの導く方へと足を進めた。
本棚の影を縫うように歩き、囁きが強くなる場所を探す。
やがて――一冊の埃をかぶった古典全集がひときわ不気味に光っているのを見つけた。
菜乃花が震える手でその本を引き抜くと、中から小さな紙切れが落ちる。
そこには大きく「3」と書かれた真鍮の鍵が挟まれていた。
「やった……これで第三の鍵……!」
穂乃果が歓喜の声を上げた。
だが、その瞬間。
――ガシャァァンッ!
本棚が突如として倒れ、通路をふさいだ。
そして残った本棚の隙間から、影のような黒い手がにょきりと伸びてきた。
「キャアアアアア!」
里奈が叫び、瑞希が即座に引き寄せる。
囁きは次第に大声となり、やがて叫びへと変わった。
「次は……ひとり……置いていけ……」
七人は顔を見合わせた。
恐怖と疑念が、胸を締めつける。
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