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図書室から脱出した七人は、肩で息をしながら廊下を駆け抜けた。
第三の鍵は手に入れた。だが、耳に残るあの囁き――「ひとり置いていけ」――が心にこびりついて離れなかった。
「……次は、体育館だね」
理沙が短く言った。
「どうしてわかるの?」
穂乃果が尋ねると、理沙は無表情で鍵を握りしめる。
「この鍵の根元、うっすら“G”って刻まれてる。……Gym、体育館よ」
誰も反論できなかった。
彼女の冷静な推理は正しい。だが、その正しさが余計に不安を煽った。
重い扉を押し開けると、体育館の中は闇に沈んでいた。
月明かりが窓から差し込み、床に淡い光を落とす。
その床に――無数の赤い足跡が並んでいた。
裸足の足跡が、出入り口から中央のバスケットコートへ向かって続いている。
「これ……血……?」
里奈が青ざめ、足を止める。
「まさか……ペンキとかでしょ……?」
穂乃果が無理に笑ってみせたが、その声は震えていた。
七人は足跡をたどり、中央に立つ。
そこには、ロープで吊るされた古びたバスケットボールが揺れていた。
ボールの表面には白いチョークで大きく数字が書かれている――「4」。
「……第四の鍵」
香里が低くつぶやいた。
その瞬間、バスケットボールが勝手に揺れ、ロープを引きちぎって床に落ちた。
――ドンッ!
体育館全体に響く鈍い音。
続いて、赤い足跡がひとりでに動き出した。
足跡は床を叩くように走り、七人を取り囲む。
「な、なにこれ……!」
菜乃花が叫ぶ。
「囲まれてる……!」
瑞希が構えた瞬間、足跡の一つが里奈の足首に絡みついた。
「きゃああああっ!」
里奈が床に引き倒され、ずるずると闇へ引きずられていく。
「離してっ!」
瑞希が力任せに足跡を蹴り飛ばすと、血のような跡が霧のように弾けて消えた。
里奈は何とか解放され、震えながら瑞希にしがみつく。
だが、囁きが再び体育館に響き渡った。
「次こそ……ひとり……置いていけ……」
全員の表情が固まる。
穂乃果がついに声を荒げた。
「ふざけんな! 誰も置いていかない!」
しかし、理沙はじっと床を見つめたまま、冷静に言った。
「でも……この試練が“生き残りを減らす”ことを求めているなら……」
「やめて!」
真綾が叫び、理沙の腕を掴んだ。
「そんなこと言わないで……私たちは七人で帰るの!」
体育館の奥で何かが軋み、暗闇から再び足跡が迫ってきた。
その数は、最初よりもはるかに多い。
「考えてる暇はない! 鍵を探して!」
瑞希の叫びを合図に、七人は必死に体育館の中を走り回った。
そして――ステージの上に置かれた古い木箱の中で、彼女たちは「第四の鍵」を見つける。
真鍮の小さな鍵。首元には「4」と刻まれていた。
しかし同時に、赤い足跡がステージを覆い尽くし、逃げ道を塞ぐ。
囁きはもう叫びに近い声となった。
「七人では……出られない……!」
七人は顔を見合わせた。
恐怖と不信感が、今まで以上に彼女たちを追い詰めていた。