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「……長い時間の旅だったね」
十度目の【時戻り】をして、ぼんやりとした意識がはっきりとしてきた。
オリバーの声が聞こえる。
この言葉――。
「エレノア? おい、おーい」
「オリバー……、さま?」
目の前にふくよかな体系の男性がいる。
赤ちゃんのほっぺたのように柔らかなほっぺた。はちきれんばかりに膨れたお腹。
ふわふわした金髪に、丸く愛らしい碧眼。
そして、心地よい声音。
私の目の前にいたのは、ソルテラ伯爵のオリバー・ソレ・ソルテラだ。
「あ、ああ。オリバーさまだ」
私は五年前に【時戻り】したんだ。
五年ぶりにオリバーに再会し、私は膝から崩れ落ちた。
「そ、その……、君は何回【時戻り】をしたんだい?」
異変を感じたオリバーは【時戻り】の回数を問う。
今のオリバーは九回目だと思っているはず。
「十回目……、です」
私はオリバーに【時戻り】の回数を伝えた。
直後、私の頭にぽんとオリバーの手が乗せられる。
「そうか。君は結末を知っているんだね」
「はい。ここへ戻ってくるまでに五年かかったんです」
「五年……」
頭を撫でてもらい、気持ちが落ち着いた私は、その場から立ち上がる。
オリバーは私が五年の年月をかけて【時戻り】をしたと聞き、ぽかんとした顔をしている。
突然【時戻り】の回数が一度増え、その間五年過ごしていたのだと告げられても、すぐに理解してもらうのは難しいだろう。
「本当に、エレノアは長い時間の旅をしてきたんだね」
「お会いできて良かったです」
「好きに使ってくれてよかったのに。それでも君は僕に会いに来てくれたんだね」
「もちろんです。私はオリバーさまのメイドですから」
オリバーはため息をつく。
今の私は【時戻り】の水晶に残したオリバーの言葉を聞いている。
だから彼がどんな思いで私にそれを託したのか知っているのだ。
当時のオリバーは『秘術がある限り、僕は兵器として生かされる』と国家の思惑に振り回されて疲れていた。
力を手放すなら、と【時戻り】の力を私に託してくれた。
百年間失っていた二つの秘術を蘇らせてくれたお礼として。
けれど、私は家族ではなくオリバーを選んだ。
私はオリバー・ソレ・ソルテラ伯爵に仕える新米メイドだからだ。
「【時戻り】の力は、オリバーさまの運命を変えることに使いたいのです」
これが悩んだ末に見つけた私の答えだった。
自身の思いを告げ、私は晴れやかな気持ちになる。
私の主張を聞いたオリバーは、にこっと微笑んだ。
「エレノア。早速、僕が秘術を放ったらどうなったのか、教えてくれるかい?」
「承知いたしました」
「あー、でも、僕、戦場に行って兵士たちの激励をしないといけないんだったな……」
オリバーは自身の行動によって何が起こったのか、私の長い五年間の話をせがむ。
しかし、今は戦地へ向かう直前。
私とここで長話はできない。
それに気づいたオリバーは、うーんと悩んでいた。
私が結論を手短に伝えればいいだけなのだろうが、話すことが沢山あって優先順位がつかない。
「あっ、そうだ!!」
二人、悩んでいたところでオリバーが何かを閃いた。
「エレノアを馬車に入れちゃえばいいんだ」
「えっ」
「それだったらいくらでも話を聞けるよ」
「ええ!?」
「そうと決まれば、僕の部屋から【時戻り】の水晶と手記を取りに行こう」
オリバーに手を引かれ、私は彼の私室へと連れていかれた。
そして隠し部屋に入り、【時戻り】の水晶と初代ソルテラ伯爵の手記が入った肩掛けバックをオリバーから託される。
私はそれを肩にかけた。
「さあ、屋敷の外へ出よう」
「オリバーさま、本当に私を戦場へ連れてゆくのですか?」
「うん。エレノアの長い話も馬車の中だったらいくらでも聞けるからね」
「メイド長が許してくれるでしょうか?」
「そりゃ、僕が連れて行くって言ったら、メリルもそれに従うしかないよね」
「……」
私が不安視していることをオリバーが一つずつ潰してゆく。
一番はメイド長のメリルだ。
彼女とグエルは私をマジル王国へ連れ戻すことを父に指示されている。
私がオリバーと戦地へ向かうことを彼女は拒むのではないだろうかと私は心配していた。
私の不安をオリバーは笑って吹き飛ばす。
「君が十回目の【時戻り】をしたってことは、僕は作戦通りに行動したけど、マジル王国の反撃にあって、カルスーン王国が戦争に負けたんだろうね」
「えっ、私、まだ何も――」
移動中、オリバーは自身の展開を私に告げる。
九回目の【時戻り】の時点で、オリバーはそこまで予知出来ていたとは。
答えを知っている私がオリバーにまだ何も伝えていないのに。
私とオリバーは屋敷の外へ出た。
そこにはオリバーの出立を出迎えようと、メイドと使用人がずらりと並んでいる。
オリバーが出立するための二人乗りの大きな馬車もあり、二頭の黒毛の健康そうな馬が繋がれ、それらを操る御者が搭乗していた。
「さあ、行こう」
オリバーが私に手を差し出す。
私はその手を取り、共に馬車へ向かう。