テラーノベル
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人の心の内側はわからなくて当たり前。
それぞれが大小様々な悩みを抱え、不安を抱え、不満を抱えている。
人から見れば些細なことでも、自分にとっては大事件だったり、自分が絶望を感じることも人によっては楽観視されるのだろう。
あの日私が感じたのは
絶望、失意、失望、落胆、悲観、幻滅、沈痛、悲痛、沈鬱……
どれにも当てはまりそうで、一言では言い表せないかな。
一度にたくさんのことが当てはまったのかもしれないし、ただただ深い悲しみだけを感じていたのかもしれない。
美味しいコーンパンを食べながら冷静に振り返ることができ、そしてほんの少しあの時の気持ちの輪郭がぼやけているのは時間の為せる業か、それとも周りの皆の優しさのおかげか……どちらもだろうか。
食べ終わったタイミングでスマホが震える。
見ると三岡先生からのメッセージだ。
‘良子さんと颯佑くんの半年間の頑張りが実る日です。本当によく進んで来られました。もしまた後退することがあっても、それは不思議なことでも悲観することでもありません。良子さんを支える手はたくさんある。今日はただ楽しんで来て下さい’
頑張りが実る日。
その言葉を心の中で繰り返しながら午後の業務に取り掛かる。
そして5時半になると、少しの緊張感を持ち事務所を出た。
待ち合わせの駅まで行くのだけれど、帰宅ラッシュのこの時間に探せる?
電話がいるかな、と手探りでバッグの中のスマホに触れた時
「リョウ」
顔も見ぬまま、でも声は間違いなく颯ちゃん…に強く抱きしめられた。
雑踏に紛れ込むはずの場所で颯ちゃんと私だけ……二人だけしかいないような異空間を私の意識が漂い始め、少し怖くなり慌てて颯ちゃんの上着を握る。
「…リョウ……」
颯ちゃんの掠れた声が頭の上から聞こえ、体を包み込んでいた彼の腕の片方が私の頭を抱えた。
「リョウ…やっとだ……やっと会えた……」
彼の静かでありながら、叫びにも聞こえる声に胸が熱くなる。
「…ごめんね……」
「ごめんはいらない」
「来てくれて…ありがと……手紙もありがとう」
そう言った私の髪を撫でた颯ちゃんは
「髪、伸びたな」
この半年を噛みしめるかのように呟いた。
「颯ちゃん…私、まだ颯ちゃんの顔見てないんだけど……」
「もったいなくて見せられない」
ほんの僅かに震える声を隠すかのように彼は続けた。
「見たい?」
「…うん……」
「カッコいいって思うぞ」
「ふふっ…絶対?」
「絶対」
「いつもカッコいいでしょ?って…むかーし、こんなやり取りしたよね?」
「したな……何か、俺の写真を見せる見せないって言いながらな」
そしてゆっくりと腕を緩めた彼は、両手で私の頭を包み込むようにして
「おかえり…リョウ」
真っ直ぐに私を見下ろす。
ここで…ここにいるのに……ただいまでいいのかな?
「ただいま、は?」
「……いいの?」
「場所は関係ない。お前が俺の目の前にいる。それだけで十分だろ?」
颯ちゃんは手のひらを私の頭に当てたまま、10本の指でポンポンとした。
「うん…ただいま、颯ちゃん!」
コメント
1件
ダメだよぉ〜涙が止まらないじゃん! 三岡先生の言葉にうるうるしちゃってたし、2人ともがんばってよくここまで進んできた!おかえりなさいっ!ただいまっ! 今日は今を楽しもう!そして次へと進める何かを2人で見つけて欲しい🥹