テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
私は知っている。
彼の歩んだ道、彼の持つ『遡行』という異能。そこから分岐する数多の世界線で死んでは繰り返してきたのを、知っている。
妖術師でありながら、魔術師である私を生かし、自分の目的の為に仲間へと勧誘する人間。
傍から見れば妖術師としての役を真っ当しながら、救える者は片っ端から救い続ける聖人に見えるだろう。
けど、私は知っている。
その裏で見捨てざるを得なかった人が居る事、彼が人間に対して強い感情を向けていない事。
魔術師陣営に明確な殺意を抱いているが故に、魔術師である私たちを少しだけ避けている事も。
彼は聖人なんかじゃない。
『遡行』という苦行を繰り返しながらも、取れる選択肢を取り続けたが故に、人々に持て囃された可哀想な人間。
根っからの妖術師であり、妖と魔術師を殺す事を生業としながら、それに関することであれば一切の躊躇はなく使える手段は使う。
それを、私だけが知っている。
「私たちSaofaは、正式に君たちを社員として認めた訳だが、どうか疑わしい動きはしないでほしい。下手すれば、妖術師の手で君たちを殺すなんて事になりかねない」
決戦前夜にて永嶺 惣一郎が、魔術師となった私と創造系統偽・魔術師に向かって放った言葉。
優しく諭すように言っているが、その内容を分かりやすくすれば「もし変な動きを見せればすぐに処分する」ということだ。
そして恐らく、実際に妖術師が私たちを殺すとなった場合は、拒否したりする事はないだろう。
私は知っている。
表面上では全ての術師に平等な態度を向けているが、その心の奥底で魔術師を殺すという行動を優先しているのを。
故に、彼は私たちと戦う事になっても手加減はしない。生かす選択肢すら与えない。
―――だからこそ、私は素晴らしいと思った。
表では聖人としての立ち振る舞いをしながら、裏では魔術師の殺戮衝動を抑えられない哀れな人間。
初めて妖術師と出会ったあの日、鎌鼬の妖を討伐した瞬間の時から、私は彼に対して興味を抱いた。
妖術師の存在は聞いていたが、いざ実際に会えばそれはもう凄かった。
私に向けられた殺意の目。肌がビリビリと痺れるほどに鋭い眼光。
それでいて私という未成熟な偽・魔術師に囚われ、身動きが取れなくなっていた姿。
その姿を見て私は、“彼になら殺されてもいい”と思ってしまった。
いや、私を殺していいのは彼だけだ。そして彼を殺していいのは私だけ。それ以外の術師が彼を殺すのは赦さない。
と、言いたいのは山々だが、この意思をいざ妖術師に知られれば確実に仲間から外され、私は独りで歩む事になるだろう。
………それか、彼の性格上それを知った上で手元に置いておくかのどちらかになるが。
「それと、氷使い。妖術師へのアタックは程々にした方がいい。いくら君が彼に多大な感情を向けているとしても、それが邪な物であれば私は見て見ぬふりは出来ないからね」
これもまた、永嶺 惣一郎の言葉。決戦前夜の会議が終わった後に言われた一言だ。
どうやらSaofaのリーダーである永嶺 惣一郎に、私たち魔術師の隠し事はお見通しな様だ。
でもそれも―――、もう終わり。
永嶺 惣一郎は死んだ。実際にその場面は見ていないが、死ぬ瞬間を実際に『視た』。
私たちへ大きな首輪とリードをつけていた永嶺 惣一郎が死んだ今。妖術師と私を縛るモノは何も無くなる。
彼に何しようと咎める者は誰も居ない。私が彼にどういった感情を向けようと、止める者は誰もいない。
私の眼中には、妖術師しかいない。
私の目には、あなたしか見えない。
もう、あなたしか見えない。
私は、貴方の『特別』になりたい。
#一次創作
やわ
3,240
#恋愛
n217(エヌ・ニイナ)
1,753
コメント
1件
天ヶ瀬趙世さん、第48話拝読しました。 「私は知っている」という冒頭の一文から、もうこの語り手の視点に引き込まれました。妖術師の内面を「聖人なんかじゃない」と理解しながらも、むしろその歪さに惹かれていく心理描写が本当に細やかで…「彼になら♡♡♡れてもいい」という倒錯した感情の生々しさにゾクゾクしました。 永嶺さんの死で束縛が解けたラスト、妖術師だけを見つめる視線がもう狂気じみていて美しかったです。表面上は落ち着いているのに、内側で燃える執着の温度差が素晴らしかった。続きが気になります。