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ある程度買取専門店をピックアップしたところで、俺は家を出た。
正直どこがいいのかわからなかったから口コミで決めたが、家からは二駅離れていて近くもなく丁度良い感じだ。
そして大学の友人からメッセージが来ていた。
『最近見てないけど遂に辞めたのか?』
っざけんなっ!!
全然心配してなさそうなので、もちろん返していない。
やたら派手な看板の宝石買取専門店に着いたが…どこもこんな感じなのか?
そして、もしサファイアではなかったらショックなので、売値は調べていない。
「すみません。買取の鑑定をお願いしたいのですが」
店に入り店員に声をかけた。
「はい。そちらにお掛けください」
店員はカウンターを挟んだ所にある椅子を勧めてきた。
俺はそこに腰を下ろし、鞄から例のブツを取り出した。
「こちらなのですが」
取り出したサファイアの指輪を、カウンターの上にある赤い布で覆われたトレーに乗せた。
「では、拝見します」
祖母の遺品とか言い訳を考えていたのに、すぐに鑑定に入った。まぁ、順調だからいいんだけど……
すぐに鑑定は終わったようで、トレーに乗せられて返ってきた。
「こちらのサファイアの指輪ですが、土台の銀細工も素晴らしいですね」
褒められたがそんな事よりも金額が知りたいんじゃー!
「うちの買取ではこちらになります」
そう言って店員が見せてきた電卓には……
一十百千万十万…
「260,000円…」
黙った俺に渋ったのかと思った店員が、真剣な眼差しで口を開いた。
「適正価格だと自信があります」
「ああ。違います。他にもあるのでそちらも鑑定出来ますか?」
俺は残りのブレスレット、ネックレス、ブローチを取り出した。
これも祖母の遺品という言い訳が通りやすいように、セットにした。言い訳は必要無かったが……
無事(?)アパートに帰った俺は、コタツテーブルに乗せられた封筒を凝視していた。
「ついにやったぞぉお!!」
ドンッ
ボロアパートで大声を出したら壁ドンされるよな……
しかし、今の俺はそんなことではへこたれない!
ついにやったんだ!
テーブルの上にある明細を見ると……
「1,584,000円…見たことも持ったこともないな…」
とりあえず、引き落としのことを考えて、200,000程を通帳に入れよう。
後は月の神様にお供物を買うか。
そんでもって!久しぶりの晩酌だな!
意気揚々と出かけた俺は、用事と買い物を済ませて家へと帰ってきた。
「ルナ様。あんたのおかげでこんなにだらしない俺でも、何とかやっていけそうだ」
月の神にお供物をして、いつも通り月を見ながら酒を飲んだ俺は、眠りへとついた。
翌朝目覚めた俺はすでに月が出ていないことにガッカリしながらも、今後の事を考えていた。
とりあえずサファイアは原価の10倍以上になったけど、そればかりじゃな。
ギル→円に、そこまで効率を求めてないんだよな。
円→ギルは砂糖や胡椒。後は嵩張るけど、大量生産の工芸品でかなりの利益が見込めるから心配はないんだが。
やはり宝石とか大物をお金を貯めて買うしかないかな。
ルビーやダイヤなら多分向こうとこっちで差が少ないんじゃないかな?むしろ向こうのほうが高いまであるな。
ギル→円では逆に少しくらい損しても良いんだ。
とりあえず近場でサファイアは売らずに、これからは遠くで売ろう。
出所を疑われることはないと思うけど、用心に越したことはないからな。
旅費は必要経費だし。
考えが纏まると現実が見えてきて、この部屋の汚さが目につく。
これは一念発起して引越しでもするか?
夜の間に外で転移できるかこっそりと確認したから、場所が変わっても問題ないしな。
「よし!広いところに引っ越そう!」
決断したら早いのが俺の良いところだ。
早速このアパートを借りた時の不動産屋に行くことに。
親は最初の引っ越しと入学式の時以来、このアパートに来ていないから大丈夫なはずだ。
それにいずれ大学を辞めることを伝えなくてはならないし…。はぁ。億劫だなぁ……
「では、こちらの1LDKの物件は如何でしょうか?
今と同じで大学まで一駅の距離です。
駅からも近く立地はかなり良いですよ」
「100,000か。わかりました。お願いします」
「入居はいつにしますか?来月の初めから入れますよ」
「じゃあ、それでお願いします。今のところは来月一杯までの契約でお願いしますね」
家賃100,000円という、俺からしたらかなりの高額物件だが、立地はかなり良いし何より部屋が広い。
今の住んでいるところを長めに借りたのは、この能力が失われた時の保険だ。
流石に無収入で100,000円の家賃を払い続けることは出来ないからな。
敷金と礼金を払い契約書にサインした後、不動産屋を後にした。
することを本格的に見失った俺は、いつの間にか大学へと足が向いていた。
目的もなく大学の構内をフラフラしていた俺に、声を掛けてきた人がいた。
「おい!聖!待てよ!」
あれは…同じ学部の須藤 智也だ。
「よう。須藤。久しぶりだな」
「久しぶりってなぁ…お前、最近どころかこの半月も見掛けなかったけど、どーしてたんだよ?」
どうやら本気で心配を掛けていたようだ。
メッセージを無視してすまん。
「悪かったな。少し色々あってな。まだ先だけどそのうち大学を辞めるよ」
「…そんな気はしてた。大丈夫か?相談に乗るから何でも言えよ?」
こんなどーしようもない俺にも、助けてくれようとする友人がいたんだな。
「はははっ!相談は大丈夫だ!というか、今から時間あるか?
飯でも食いに行こーぜ!」
「次の講義は外せないからな…それが終わってからならいいぞ。
聖はその間に髪でも切ってこいよ。鬱陶しいぞ?」
そう言われて、前髪がかなり伸びていたことに気がついた。
「わかった。じゃあ、終わったら連絡くれ」
そう告げて、俺は散髪に向かった。
久しぶりに髪を切ったら頭が軽くなった。
スッキリしたし、後は須藤の講義が終わるまで待つだけだな。
それまではまた構内をうろつくか。
『終わった。さっきのところで待ってる』
須藤からメッセージが来たので、待ち合わせ場所に向かうと、そこに居たのは須藤だけではなかった。
こういうのがあるから面倒臭いんだよな。
須藤はいい奴なんだけど……
「よう。待たせたか」
「いや、今来たところだ」
須藤と言葉を交わしていたところ、こちらを窺う視線を感じた。
だけどあえてそれを無視して、須藤に話を振った。
「川崎さんも行くのか?もしかしてデートの邪魔をしたか?」
須藤の彼女の名は川崎 奈々だ。
「違うわよ。東雲くんが久しぶりに来てるって、智也から聞いたから来たの。
この子は覚えているでしょ?」
何故か須藤ではなく俺の言葉に答えた川崎さんが、横の女性を指した。
大学生活に夢を見ていた一年の頃に所属していたサークルの同期だ。
もちろん覚えている。
「長濱です。聖くん久しぶり。よかったら私も食事について行っていいかな?」
彼女の名前は長濱 聖奈だ。以前在籍していた同人サークルで一緒だった女の子。
ただその時の俺は、同人サークルというものを知らずに入ったので、ただ漫画やラノベを読むだけだと思っていた。
そんな俺はオタクたちについていけず、半年後にフェードアウトした。
俺がサークルにいた時から長濱さんは美人で有名だったが、ボブだった黒髪も今はロングの黒髪になり、美人度に拍車がかかっていた。
「ああ。構わないけど…どこに行くんだ?」
俺が問いかけたのはもちろん須藤へ、だ。
「私行きたいところがあるんだけど、そこでもいい?」
答えたのは川崎さんだ。
そういうのが俺は苦手なんだよな。別に川崎さんは悪くないんだけど、単純に俺が苦手なんだ。
「聖、長濱さん、いいか?」
「私はどこでも…」
「俺も構わない」
須藤も断れないタイプだからな。
というか、そんな須藤だからこんな俺のことも心配してくれるんだよな。
「じゃあ、行きましょう」
川崎さんと長濱さんを先頭に、俺たちは後ろからついて行くことになった。
道中、こっそりと謝ってきた須藤をみて、こいつはずっと苦労するんだろうなと思った。
そんなことを話しながら着いたのは、俺が入ることはないだろうと思っていた、おしゃれカフェだった。