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死にたい。ただその一心で車に乗る。家からほど近い山奥で、僕は今死ぬ準備をしている。
遺書は予め書いてきたけど、現場で書くのもまた乙だろうと思ったから別で用意した。車でどこかに突っ込んで死ぬのは痛そうだし壊れた車体から僕を出すなんて面倒事なので、きちんと近場に車を停めた。縄には疎くて何が使いやすいか分からなかった。皆商品レビューしてくれよ、と思ったが使った人にはそんな物すら書けないんだよな。まさに死人に口コミ無し、って事で適当なものを買った。車では最近ハマった曲を流している。何やっても上手くいかない男の子の歌。共感しかしないし、以前、これを聞きながら鼻歌交じりに運転していて人身事故を起こしたのである意味思い出の曲となった。
鼻歌交じりに手頃な木を探すと、原始時代、皿に使ってたみたいな葉っぱの生えたデカい木が生えていた。この辺りで他に植物は育っていないっぽいし、これでいいか。
なるほど、ほおの木って言うのか。ほぉーん。
……ごめんな、ほおの木。今から俺、お世話になるわ。穢すかもしれないけど、色々と養分として使ってくれ。
日が暮れてきたからそろそろ始めるか。
モアイ……じゃなかった、もやい結び。覚えてきたつもりだが、改めて調べてみる。
えーと、まずロープに小さな輪をつくる。次に、つくった輪っかにロープの端を通す、と。そしてその端をロープの固定した方の端の下にくぐらせる。したら、最初のループに動端をさっきとは逆方向に通す。相変わらず結び方って文字だとわかりにくいよな、っと。よし、出来た。
興も乗ってきたところで、遺書タイム突入。遺言とは違ぇんだよな?ま、どっちでもいいし渡す遺産も相手もいねぇんだがな。しかしこのために筆ペン買って上等な紙も用意したんだ。綺麗にしたためねぇとな。ところでこういうのって拝啓とか要らねえよな。
『遣書』
……ん?何か違う気がする。
あぁ、これ小遣いの方だ。
『遺書』
これだわ。よし。
『大事なことはもう一通の方に書いてあります。』
あれ?手紙って1通、2通って数え方だったよな?違ったかな。どっちでもいいや。
『これは死ぬ直前の気持ちです。読んでね。』
……なんて見切り発車で書いてるが、実際に死ぬとなると案外あっさりしてるな。特になんの感情も湧き上がらないし未練?もない。
『って書いたけど、特に何も思いませんでした。』
『皆、俺と関わってくれてありがとう』
『元気でいてね』
『俺の事を好きな人も嫌いな人も』
『皆が俺の事を忘れてくれれば嬉しいな』
『じゃあね。他の人はこっち側来ちゃダメだよ』
――はい完成。もっとロマンティックに書けるかと思ったんだったけど結局は俺ってこんなもんよ。でもカッコつけたいのが男の性ってもんなんよ。
ま、言われんでも皆死ぬようなタマじゃないか。
しかしあっという間だったな。ここに着いてから20分と経っていない。まぁ別に俺ドイツ人じゃねーから時間を決めて吊る訳じゃないし。暇つぶしにフェルマーの最終定理とかやらないよ?
よし、吊ろう。
今までの良かったこと、悪かったこと、苦しかったこと、楽しかったこと。全部ひっくるめて思い出してみたけど、人に恵まれたいい人生だったかな。
先立つ不幸をなんとやら。
踏み台に使ったスチール缶を蹴り飛ばしたところで意識が飛んだ。
最後に目に入るのは足元に飛び散った11円。……昔から自分で蹴り飛ばしてたのかもな。