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「やはりお主だったか、ヴィオラ」
「うぬぬぅう~……
どうでもいいからこれを解け!
我ら白翼族にこんな真似をして、ただで済むと
思っているのか!」
山伏のような格好をした黒髪ショートの女性を
前に、金髪ロングのいかにもな天使といった
格好の女性が、跪いて対峙する。
その彼女の後ろには拘束した同族たちがいて、
「ヴィオラ様、落ち着いてください」
「と、とにかく話し合いを―――」
良かった。恐らくあのヴィオラという女性が
トップのようだが……
部下と思われる人たちの方はまだ話が
通じそうだ。
「いやそのっ、さぶいんですけどね?
もうワタシいらないですよね?
すぐ湯につかりたいんですけどー」
ガチガチと自分で自分を抱くようにして、
白装束の女性が訴えてくる。
「先にお風呂入れた方がいいんじゃない?
ウチのあのお風呂なら何とか入るでしょ」
「幸い、全員女性のようだしのう。
事情聴取もそこで済ませておこう」
アジアンチックな人間の方の妻と、
欧州モデルのようなプロポーションの
ドラゴンの方の妻が提案してきて、
「そうだな―――
今のところ、無効化はまだ解除していないし。
念のため魔法も封じてある。
危険は無い、か……
よし、話を聞いて来てくれ」
「某も見張ろう。
ヴィオラ、ついて参れ」
「どうでもいいから早く早く~」
そして私の妻であるメルとアルテリーゼ、
天人族のミナトさんと土蜘蛛のつっちーさんが
私の家に向かうのを確認すると、
自分は今回の報告のため、冒険者ギルド支部へと
足を向けた。
「おう、ご苦労さん。
連中はどうしたんだ?
公都に連行したところまでは見ているが……」
筋肉質のアラフィフの支部長室の主が、
私を出迎える。
「30人ほど、だったッスか」
「つっちーさん、ああいう事も出来るん
ですねえ」
続けて褐色肌の青年と、タヌキ顔の丸眼鏡の
女性が感想を口にする。
白翼族は飛行して中央地区まで連れてきた
からなあ。嫌でも目に入っただろう。
「今、お風呂に入れています。
それで、メルとアルテリーゼ、ミナトさんが
事情聴取するようで」
それを聞いたジャンさんが眉間に人差し指を
あてて、
「まあ、あの2人がついているのなら
問題は無いだろう。
それにお前さんの能力で無効化もしているん
だろう?」
「そうですね。
飛行能力と魔法は封じさせてもらいました」
そのやり取りを見てレイド君とミリアさんが、
「じゃあ今の白翼族は―――
ただの翼がついている亜人ッスか」
「まあ、シンさんがいる公都に来たのが
運の尽きですよ」
次期ギルド長夫婦はウンウンとうなずきながら
話す。
「正直、戦うよりどうやって保護するかの方が
問題でしたからね……」
「しっかし―――
ランドルフ帝国の件が片付いたってぇのに、
こっちで襲撃されるとは思わなかったぜ。
んでどうする気だ? シン」
そこでギルド長が私に話を振り、
「まあ一応、接待して帰そうかな、と。
嫌でもここの戦力を理解するでしょうし。
それに彼女たちが白翼族の中で一番の
武闘派みたいですから……
その人たちを納得させられれば、
向こうも落ち着くんじゃないかと」
その提案にレイド君とミリアさんは、
「妥当とは思うッスけど―――」
「またシンさん任せになってしまうようで……
申し訳ありません」
二人が気まずそうな表情になる。
「そこは仕方無いですよ。
ここが人外受け入れの最前線みたいに
なっているので……
そのへんはギルドでうまく支援してくれたら、
と思っています。
後どうもヴィオラさんという方が代表者みたい
なので、後々ウィンベル王国と交渉はすると
思いますし」
暗に、冒険者ギルド支部としても動いてもらう
事を期待する、と彼らに告げると、
「おう、そこは任せておけ。
今回の件は冒険者のお前さんが動いている
以上、ウチも関わっているしな。
レイドとミリアは後で書類をまとめて、
詰め所を通してドーン伯爵家へ伝えろ。
ライの野郎には俺から連絡を入れておくよ」
そこで若い男女はホッとした表情となる。
「そういえば人外はともかく―――
最近じゃ盗賊が出たとか聞きませんね?」
ふと話の方向を変えてたずねると、
「盗賊かぁ……無くはねぇぞ?」
「えっ!?」
ジャンさんの言葉に思わず声を上げると、
「いや、そりゃ出るには出ますが、少し前とは
規模や被害が全然違うッスよ」
「何せ今はワイバーンたちが空を巡回して
いますからね。
大人数で行動すればたちまち見つかりますし」
レイド君とミリアさんから視線をギルド長に
戻すと、
「今の盗賊は―――
デカい木や何かの茂みに隠れて、
待ち構えるやり方をしているんだ。
それも少人数でやらなきゃいけないから、
盗賊稼業はあがったりだろう」
「やめるって選択肢は無いんでしょうか……」
私が呆れるように話すと、彼は首を左右に
振って、
「そもそも普通に生活出来てりゃ、盗賊なんぞに
身を落とす事もねぇだろうし。
うちで捕まえりゃ、まだ更生させてやる事は
出来るが―――
たいていのところはそんな余裕はねぇ。
そうなると即処刑した方が早いってワケだ」
だとすると、公都近辺で捕まった犯罪者は
いろいろな意味でラッキーなんだなあ。
「まあこの近くだと……
何かあったら俺の範囲索敵で発見、
その後ハーピー族に、って流れッスねえ」
「?? どうしてその種族に?」
レイド君に聞き返すと、
「その、圧倒的に男性が少ない種族
ですので―――
犯罪者が男だったら、好きにしていいと
王国から許可を得ています」
「そのまま犯罪奴隷にして、一生飼うって
感じだなあ。
あと人魚族も欲しいって言ってたから……
結構な数が『輸出』されているぞ」
ミリアさんに続いてジャンさんが説明する。
何というか、私の知らない間にいろいろ
適応しているようで何より。
まあ彼らとしても処刑されるよりは、
人外といえど女性に飼われるのだから、
その方が幸せなのかも知れない。
「あれ? ラミア族は?
確かあちらも男が少ないって話でしたけど」
「あー、あの連中は比較的早くこっちに
来ただろう。
もう誰かしら相手が出来ちまっているらしい。
何かあれば捕獲に協力する、程度にとどめて
いるってよ」
確かにラミア族はこちらと交流して長い。
それに、今さら犯罪者を入れるのは抵抗が
あるだろう。
「つーかまた女だらけの種族が来たんだろ?
ハーピー族の連中、もうウィンベル王国内には
獲物が少ないってんで―――
各国を飛び回っているんだが……
そのうち、それに参加するかもなあ」
ギルド長が苦笑すると、それにつられて
みんな笑い出した。
「うむぅ、まあ……
こうまで歓待されては、話を聞いてやらぬでも
無い……」
西側の富裕層地区にある自宅へ戻ると―――
ヴィオラというトップらしき人は、すでに
かなり酔っぱらっており、
「うはぁ……とろけるぅ♪」
「モチうめぇ♪」
「酒も料理も美味し過ぎる……
ここが天国か……♪」
と、他の白翼族もすっかり出来上がっている
ようだった。
「まったく。
最初から話を通しておれば、さっさとこうして
美味い酒と料理にありつけたものを」
ミナトさんがたしなめるように話し、
「あれ? 土蜘蛛さんは?」
糸で白翼族をキャッチしてくれた亜人の姿が
いない事に気付いてたずねる。
「任務かんりょーって言って、お風呂から出たら
中央地区に戻って行ったよ」
「まあ飲み食いするなら、ツケはウチに
回しておけと言ったがのう」
メルとアルテリーゼの答えにうなずく。
確かに、彼女はこの場にいなくても問題は
無いだろう。
「ところでラッチは……」
「ピューイッ」
返事のようにすぐ声が返って来て、そちらの方を
見ると、
「ドラゴンの赤ちゃん、可愛い~♪」
「これだけでもここに来た甲斐があるわぁ♪」
すっかり動物の子供接待に落とされている、
白翼族たちがいて、
「お酒は飲ませないよう、見張っているから」
「我らがいれば問題はなかろう」
そこで私も席に着き、彼女たちと話し合う
事にした。
「交流か。
本来なら地上の種族となれ合う事は
許されないのだが―――」
「まだそんな事を言っておるのか」
ヴィオラさんの言葉に、ミナトさんが呆れながら
対応し、
「まあ、長年そうして来たのであれば、
すぐに切り替えは出来ないでしょう。
しかし、そちらはずいぶんと女性が多い
種族のように見えますが……
男はいないんですか?」
ここで一つ確認に入る。
「あーねー、お風呂に入っている時に
それ聞いたんだけど」
「女性しかいない種族らしい。
よって男は、他種族の者を連れてくるのが
通常だそうな」
ラミア族のように男が珍しい、ではなく……
完全に女だけで構成されている種族か。
「では、男性も地上ではなく、空を飛ぶ
種族から?」
「出来ればそれが一番いいのだがな。
最も多い相手はミナトのところ―――
天人族から受け入れている。
だが別段、他がいないというわけではない。
人間の男と結婚する者も多いぞ」
なるほど。そこまでNGではないという事か。
「ですが、その……
あなた方は、空を飛べない種族を
見下しているとか」
するとヴィオラさん始め白翼族の表情が
険しくなり、
「それは仕方なかろう。
我らは誇り高き白翼族なのだ。
その昔は地上の種族の方から見目麗しい青年や
少年を、定期的に差し出して来たくらいだ」
それは生贄や人身御供という類のものでは……
と思っても口には出さず。
「今はどーなの?
もう差し出してこないの?」
メルが彼女に聞き返すと、
「地上の種族はしょっちゅう争いごとを
しているからな。
いつの間にかそんな風習も廃れたのだろう」
ヴィオラさんの話を聞いていたミナトさんの
表情が険しくなり、
「そういうところだ。
向こうだって貢ぎ物を差し出しているのに、
いざという時何もしてくれないのでは、
やる意味がなくなって当然だ」
「なぜ地上の種族の諍いに我らが巻き込まれねば
ならん!
見逃してやるだけでも望外の扱いであろう!」
あー……なるほど。
あちらさんとしては男を差し出す代わりに、
守ってもらえる事を期待・想定していたわけだ。
しかも神への捧げものや祈りとかではなく、
実体・現実としての彼女たちを相手に『交渉』
していたつもりだったのに、
一方的に差し出して終わりなら―――
そりゃ継続する意味は無いか……
「しかし、ミナトの天人族といったか?
そちらは別に、圧倒的に男性が多いという
わけでもないのであろう?
となると白翼族の婿となるにも、
絶対数が足りないのではないか」
アルテリーゼの指摘に天人族の女性が、
「それはそうです。
それに、やはり同族で結婚する者も
多いので……」
男女比がそれほど無いのであれば―――
同族同士が良いと考えるのが普通か。
「貴様ら天人族は地上種族相手でも良いので
あろうが!
ならば、男は全て白翼族に寄越せい!」
「そういう無理難題を百年ほど前に言ってきて、
危うく関係断絶になりかけたであろうに。
お前たちもいい加減、その古い考えを
何とかせい」
白翼族と天人族の代表が言い争っていると、
「まー、確かにハードル上げ過ぎ
なんですよね……
それで何人か天人族の里に逃げちゃって
いますし」
「この屋敷に来るまでの間にも、結構
イイのいたと思いますよ」
「てかお風呂に入っている間に聞いたじゃ
ないですかぁ~……
ココ、同意さえあれば人間とも人外とも
結婚していいところだって。
もうそうしましょうよぉ~」
部下であろう数名の白翼族が、ぼそぼそと
グチのように語り始める。
それを聞いたヴィオラさんの表情は
『ぐぬぬ』と言わんばかりになって―――
「あ、そういえばですね。
冒険者ギルド支部で小耳にはさんだん
ですけど」
そこで私は、ハーピー族の事や盗賊の件、
またウィンベル王国と交流するつもりなら、
等の事を話す事にした。
「犯罪者の男を捕まえたら、好きにしても
いいだと……!?
却下だ却下!!
そんな下賤な者を白翼族に差し出すなど」
ヴィオラさんからは、当然といえば当然の
反応が返って来るが―――
「す、好きにしてもいい、だと……!」
「奴隷として飼い殺しにしてもいい、
という事か……それは」
やや乗り気な声が他の白翼族からいくらか
聞こえてきて、
「まーそれは極端だとしても」
「他にもいろいろな形で、『かっぷる』は
成立しておるしのう」
メルとアルテリーゼが公都の住人として語る。
「例えばどのような?」
ミナトさんの言葉には私が、
「そうですね、例えば―――
ラミア族の女性ですが、虐待を受けていた
人間の子供を専属奴隷として保護して……
将来的に結婚するのでは、と見ています」
(■61話
はじめての しゅうきょう参照)
その説明に彼女たちはざわつき、
「い、いいのかそれは?」
「両親や一族公認の仲ですし、お互い合意して
いるのはわかっていますからね。
人間同士でも、病気の子供を引き取って
専属奴隷にした貴族の女性がいますが、
この二人も近いうちに結婚するでしょう」
すると白翼族の女性陣は顔を紅潮させ、
互いに顔を見合わせる。
「他には、魔狼やワイバーンの相棒同士で……
そのまま恋人に昇格、なんてのもあるし」
「そういえば、ここの児童預かり所だが―――
施設におった子供が成長した後、職員と
良い仲になったというのも聞いておるな」
それを聞いた彼女たちは、より熱気を
高めていく。
「そ、それも1つの手ね……!」
「自分好みに育てる事も出来るし、
いっそその方が……!」
なんだか、モラル的にどうなんだろうという
意見が出て来て、注意しようとしたところ、
「何はともあれ、まずはこちらと和解してから
だろう。
いきなりお前たちは襲い掛かったんだぞ。
まずは謝罪したらどうなんだ」
ミナトさんがジロリとヴィオラさんをにらむが、
彼女は目をそらす。
「そこは別段気にしなくていいですよ。
初顔合わせがトラブル、というのもよくある
事なので。
それより―――
交流するにあたって障害とか条件とか
あるのなら、こちらで聞きますが」
「むむ……そうか。
ならば使者を寄越すがよい。
その件について話し合おう」
プライドが高い種族というのであれば、
先に向こうの要求や望みを聞いた方が―――
話は通しやすいだろう。
こうして里に帰る彼女たちに使者を同行させ、
要求を聞いてくる事で話はまとまった。
「すごー!!
本当に空にあるんだ!」
「なるほどのう。
これじゃ、ドラゴンやワイバーンも
知らないのは無理も無い」
あれから五日後―――
私たちは白翼族の里へとやって来ていた。
時間がかかったのは、まずミナトさんに
戦闘が回避された事を天人族に伝えて
もらい、
また彼女はヴィオラさんと顔なじみの
ようなので、交渉の仲介役として同行
してもらうようにしたからだ。
その間、王都と公都でワイバーンによる
連絡が行き交い……
『シンに一任する』というあまりありがたくない
指示を受けた後、私たちが使者として一緒に
来たのである。
もっとも一番時間を要したのは『ある事』に
ついてであり、もとより私も同行するつもりで
いたのだが―――
「浮遊島、ですか
文字通り、雲の上にいるみたいです」
「驚いたか。
白翼族の住まう地は、当然『空の上』
なのだからのう」
ヴィオラさんが得意げに語る。
最も種明かしはミナトさんから聞いている。
この島を構成する土は、宙に浮く性質の鉱物を
含んでいるらしく、
それを白翼族の技術により、自在に固定・
制御しているとの事だ。
「シャンタルが来たら、絶対一部持ち帰るで
あろうなあ」
アルテリーゼが、研究バカの同族の名前を出す。
「では長老と話をつけよう。
シン殿に教わった『秘策』を試す許可を
頂かなければな」
そしてヴィオラさんを先頭に、私たちは
歩を進めた。
「何だと!?
我ら白翼族の長年の懸念―――
グレムリンどもを一掃するだと?」
一階建てだが広い屋敷についた私たちは、
長老と呼ばれる女性との謁見の場を設けられた。
年齢は四十代後半ほどに見えるが……
彼女は顔色を変え、とがめるように
ヴィオラさんをにらむ。
「何を言っているのかわかっているのか?
確かに連中は1匹1匹なら白翼族の相手では
無いが……
その数が厄介なのだ。
悔しいが、白翼族は数が少な過ぎる。
それでどれだけの住処を手放した事か」
これはヴィオラさんから、公都にいる間に
聞いていた事で―――
雲の上を住処として彼女たちはその地を
作ってきたのだが、時折そのグレムリンという
魔物が襲いかかってくるのだという。
もちろん白翼族も迎撃にあたるのだが……
多勢に無勢で、住処を奪われる事も多く、
さらにグレムリンは繁殖力が強く、それに
白翼族がいなくなればその地は維持出来ず、
いずれ落ちてしまうとの事。
そこでグレムリンたちはまた群れて、
白翼族の地へと攻め寄せる。
この繰り返しの歴史なのだという。
これを何とかする、というのが要望であり要求。
しかも、知恵は借りるが他者の手は借りない
という事を言って来た。
白翼族だけで、そのグレムリンとやらの群れに
勝てる方法を―――
というのが提示された条件なのである。
ただこれは……
私にとっても望ましい事でもあった。
緊急事態ならともかく、基本方針として―――
私がいない、もしくは死んでいなくなったら
対処出来ない方法は残しておきたくないからだ。
そういう意味では、白翼族と私の考えは
一致していた。
「わたしを含め33名、ここにいるシン殿より
『秘策』を授かりました。
もしこの件が成功しましたら、白翼族との
交流を望んでいるとの事。
どうかご許可を願いたく」
彼女の言葉に、長老は両目を強く閉じて
眉間にシワを寄せていたが、
「……ミナトよ。
この者は信用出来るか?」
「はっ! 天人族の名にかけて」
跪いたまま、ミナトさんが深々と頭を下げる。
「わかった。
ではまず、奪われた住処から取り戻してみよ。
その働きを見て決めよう」
「必ずや!!」
こうして私たちは見届け役として、ヴィオラさん
率いる白翼族のグレムリン討伐部隊に参加する
事になった。
「ここらでいいかな」
「だね。
あまり近付くとこっちに来るかも
しれないしー」
アルテリーゼの『乗客箱』の中で、
私とメルが話し合い、
「公都でハーピー族やワイバーンたちを相手に
した、模擬戦を見ましたが……
あの戦法は確かにすごかった。
グレムリンどもの知能であれば、問題に
なりますまい」
ミナトさんが窓の外を見ながら語る。
『そろそろだのう。
では、拝見するとしようか』
伝声管でアルテリーゼから声が伝わり、
みんながそれを見守った。
「グギャ!?」
「グギギッ!?」
見た目は背中に翼の生えた魔物―――
ガーゴイルというのがイメージに近い生き物、
体長は一メートルほどだろうが。
その群れが、接近した一人の白翼族に反応する。
「ギャギャギャ!!」
「ギーーーッ!!」
そして白翼族は逃げ―――
その一名を、およそ五十匹ほどのグレムリンの
集団が、飛んで追いかける。
「今だ!!」
「四方から囲め!!
1匹も逃がすな!!」
ある程度追いかけたところで、地上や上空で
待機していた白翼族たちが一斉に群れへと
突っ込む。
「ンギャ!?」
「ギッギィイ!?」
取り囲んだ白翼族たちは十名ほどだが、
三次元で取り囲まれたグレムリンたちは
混乱し、
また密集していた事もあり……
中心部にいるグレムリンは当然戦闘には
参加出来ず、
外部から皮を剥かれるように削られ―――
もともと機動力と戦闘力に長ける白翼族に
なす術なく、
ほんの十分ほどで、グレムリンの群れは
全滅した。
「グレムリンの群れがあんなあっさりと……
公都で、シン殿の『秘策』による模擬戦は
見ておりましたが―――
こうまで一方的になるとは」
ミナトさんが目を丸くして語る。
私が公都でヴィオラさんを始め、白翼族たちに
させた訓練は……
『囮』、『誘因』、そして『包囲』だ。
グレムリンにはそれほどの知能が無いと聞いて
いたので―――
仮装敵としてハーピー族やワイバーンに協力して
もらい、
そのシミュレーションを通して、彼女たちに
体得してもらったのである。
ただ空での作戦になるので、白翼族たちには
目立たないよう、距離を取って点在・待機して
もらい、
囮に引っかかったら、スタンバイしていた
十名ほどでボコり……
もし万が一苦戦するようなら、交代要員として
次の二十名が動くようになっていた。
戦力の逐次投入は下策だと言われているが、
相手の総数がわからない以上、交代要員を
待機させておく必要はあるだろう。
「おっ、次の隊が動くようだね」
「もしかすると―――
今日で白翼族とグレムリンどもの因縁に
決着がつくのかも知れません」
そして私たちは、次の彼女たちの戦いを
見届けるため、移動した。
「ハァハァ……
キリが無いね、もう何匹倒した?」
「もう数えていません。
全員で、千匹はやったんじゃないですか?」
「逃げていったヤツもいるし―――
いったい全部でどれだけいるんだか」
三時間ほどの戦闘の後、ヴィオラ率いる
白翼族の討伐隊が荒い息を吐く。
「しかし、これで拠点を十ヶ所以上潰した。
残りはもうそんなに無いはずだが……」
「……!
ヴィオラ様、あれを!!」
部下の一人の声に反応すると、その視線の
先には―――
「な、何だアレは!?」
「もしかして群れのボス!?」
「く……っ!
総員、戦闘態勢を!!」
指揮官であるヴィオラの号令を元に、
討伐隊は構えるが、
「くそっ、最後の最後で」
彼女はその巨大な影を見て吐き捨てた。
『むう、我が夫よ。
アレはちとマズくないか?』
「そろそろ体力も限界だと思うよー。
そこであんな大物が来ちゃ」
メルとアルテリーゼが言う通り―――
すでにグロッキーになっている白翼族たちに、
ドラゴンほどもある巨大なグレムリンの
登場は、荷が重そうに見えた。
「どうして、あの程度の知能のグレムリンが
白翼族の住処に執着するのが謎だったの
だが……
率いるボスがいたというのであれば納得
出来る。
しかしこのままでは」
ミナトさんの目からも、あれはまずい存在だと
理解しているのだろう。
白翼族だけで、という条件を破る事になるが、
今回は仕方が無い。
見殺しにするのも後味が悪いし。
しかも混戦になっている現状、白翼族のみ
被害を出さずに済ませるのはやはり―――
「アルテリーゼ、接近してくれ!
私があれを止める!」
『わかったぞ!』
そして戦闘の最中、ドラゴンが突入していった。
「!? 手出し無用と言ったはず……!」
『そんな事を言っている場合か!!
やせ我慢もたいがいにしろ!!』
反発するヴィオラさんに、ミナトさんが
対応し、
一方で私の方は『条件設定』に頭をフル回転
させる。
無効化させる条件によっては―――
白翼族やアルテリーゼを巻き込んでしまう
恐れがあるからだ。
しかしどうしたものか。
ガーゴイルもある意味亜人、人型だ。
前回のような条件なら、白翼族が引っ掛かって
しまう可能性がある。
さりとてシッポや翼を条件にすれば、
ドラゴンのアルテリーゼも含まれてしまう。
何か違いは無いか、違いは……
気ばかり焦って良い条件が思い浮かばない。
そこでメルがトントン、と肩をつつき、
「もー、また1人で悩んでる!
ここに妻がいるんだから話なさい!」
「あ、ああ。ゴメン。
白翼族ともドラゴンとも違う特徴―――
それがグレムリンにあるのか無いのか
考えていた」
『ああ、そういう事か。うーむ』
私の能力を知っている妻たちは、すぐに
言いたい事を理解して考える。
そして十秒ほどの時間が経過した後、
「アルちゃん!
グレムリンに、白翼族のような翼を持っている
ヤツはいないよね!?」
『む……! そういう事か』
「いやいや、グレムリンの翼はアルテリーゼの
それに近くないか?」
私が聞き返すと、
「そうじゃなくってー、シン」
『何も双方と共通して違う必要は無いのだ』
「……あ」
そこで妻たちが言いたい事を察する。
そうだ、何もどちらとも違う特徴を探す
必要は無い。
要はグレムリンにしかない特徴を条件に
すればいいのだ。
そしてそのまま伝声管に向かい―――
『人の姿をしてコウモリのような翼を持ち……
それで自在に空を飛ぶなど、
・・・・・
あり得ない』
そう私が伝声管を通して宣言すると、
「グオアァアアッ!?」
まず一番の大物が落ちていき―――
次いで、その周囲にいた通常サイズの
グレムリンも、続いて落下していった。