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「グレムリン・ロードはシン殿が倒しました。
他のグレムリンどもも地上に落ちていき―――
少なくとも白翼族の住まう地に、あの魔物の
姿はもうどこにも見えません」
天人族であるミナトさんが、白翼族の長老を前に
見届けて来た事を報告する。
「ミナトの言う通り……
かつて奪われた住処は全て奪還しました。
もし生き残りがいたとしても、ものの数では
ないと思われます」
そして今回のグレムリン討伐隊のリーダー、
ヴィオラさんも、ミナトさんの隣りで跪きながら
続けて状況を追認した。
「グレムリン・ロードを倒したか―――
これで長年、白翼族の懸念であった問題は
解決したというわけだな。
礼を言わせてもらう、シン殿」
四十代くらいに見える白翼族の長老が、
ミナトさん・ヴィオラさんの後ろに控えていた
私たちに声をかける。
「い、いえ。
今回手出し無用と言われていたのに、
緊急事態と判断して戦闘に参加して
しまいました。
相手も疲れ果てていたゆえ、私たちの参戦が
無くてもいずれ倒していたとは思います」
どのような事情にしろ……
約束を破ってしまったのはこちらだ。
その件については詫びなければならないだろう。
すると討伐隊のリーダーである女性がこちらへ
振り向き、
「結果として、白翼族の脅威を排除出来たのだ。
確実に仕留めておくに越した事は無い」
「あのグレムリンどもには長年手を焼いて
来たのだ、やり過ぎという事はあるまい。
今後の交流については案じてみる。
ご苦労でした、シン殿」
長老はそう言って頭を下げ―――
何とか問題は避けられそうだと思い、こちらも
妻二人と共に頭を下げ、謁見の場を後にした。
「ふいぃ~、やれやれ。
これで肩の荷が下りたねぇ」
「まあ戦闘に関してはこれで終わりとして……
後は料理かのう?」
雲の上を歩くような何とも不思議な感覚で、
メルとアルテリーゼと一緒に今後の事を話す。
「そうだね。
取り敢えず天人族に渡したのと同じお土産を
用意したけど―――
今回はお正月用のお餅とかお汁粉とかも
あるから」
そこへ黒髪ショートの天人族の女性が
やって来て、
「シン殿。
おそらく、夕方頃に宴を開く予定だと
思うのだが……
疲れてはおらぬだろうか」
「あ、いえ。大丈夫です。
それよりミナトさん、白翼族についてですが、
食べてはいけないものとかあります?
タブーとか」
プライドの高い種族だからなあ。
確認しておくに越した事は無い。
「基本的には無いと思われます。
食べた事の無い物が多いと思われますが、
すでにヴィオラたちが食べた物なら、まず
問題は無いかと」
それを聞いた同じ黒髪の―――
セミロングとロングの髪を持つ妻二人が、
「あー、そうだね。
あの人たち公都で結構食べていたし」
「ふむ。では……
その時の料理をベースに出せばよいか」
そこで女性陣と献立を決め、厨房へと向かう
事にした。
「い、今の地上の種族はこのようなものを
食べておるのか!?」
「ううむ……!
天人族の食べ物もたまに食すが、
これはその数段上をゆく……!」
「すいません!
次は天ぷらうどんとやらを―――」
宴に出した料理は特別という事もなく、
普段公都で食べている麺類、丼もの……
そしてお餅を絡めたものなどだ。
厨房である程度の調理器具はあったので、
料理そのものはそれなりにあると思ったが、
どうもそれは天人族由来のもののようであり、
それに、子供の頃は何か食べ物を食べないと
生きていけないというのは、白翼族も同じな
ようで―――
(大人は魔力操作出来るようになれば、
その魔力を生命維持に回す事で最低限生きて
いける)
では彼女たちが普段何を食べているのかと
いうと、
「マナ、ですか?」
「うむ。我らは魔力操作に長けている種族
ゆえな。
魔力を固定化した粉のようなものだが、
それさえあれば、少しの食料でも満足に
食べられるようになる」
ヴィオラさんに見せてもらったのだが、
そのマナというのは、少々荒い小麦粉の
ようなものであり、
白翼族はその辺りにある魔力を固定化させ、
それでマナを作り食べるのがメインであり……
主食なのだという。
「でも助かりました。
持ってくる量にも限界がありましたし」
「あれお餅に使ったらすごかったもんねー」
「あんな物、我が人生でも初めて見たわ」
私と妻二人でその時の感想を漏らす。
パウダー状のマナとやらをお餅に混ぜたら―――
あっという間に三倍ほどに膨らんだのだ。
肉も魚も同様であり、白翼族たちはそれを主に
交易品として、天人族の食料や日常品と取引
しているらしい。
「まだ先の話とは思いますが、マナをこちらとも
取引してもらう事は可能でしょうか」
「断られはしないと思うが……
そういう事なら、わたしからも長老たちに
進言しておこう」
ヴィオラさんに話すと、そのまま彼女は
この場を離れていった。
言葉通り、長老たちのいる場所へ行ったのだろう。
そこで私はミナトさんに小声で、
「正直、貢ぎ物をくれる種族にこのマナを与えて
あげるだけでも、相当感謝されたでしょうに」
「そういうところが考えが足りないというか……
まあ、そんな種族ですから」
すると、あちこちでお代わりを催促する声が
聞こえてきて―――
宴のための追加料理を作りに、私とメル・
アルテリーゼは再び厨房へと向かった。
「今日はここで一泊、か。
でも木造の普通の家に入ると、空の上って
感じがしないな」
宴は夜更けまで続き、結局帰りは翌日にして、
用意された布団の中から天井を見上げる。
「まあ最初から2・3日は想定していたし」
「ラッチは今回公都に置いて来たから……
早く帰りたいのだがのう」
そこで妻たちととりとめのない会話へと
移行する。
「そういえば男性はいたけど―――
子供の頃に救出したんだっけ?」
あの後、他の白翼族とも顔合わせをしたが、
当然結婚している女性もおり、
特に人間の方は幼い頃、迷子かどこかで
行き倒れていたところを……
白翼族が保護したのだという。
当人たちもその頃の記憶はほとんど無いと
言うし、また白翼族もよほどの高山でなければ
見つける事は無かったというから、
そんな高い山を子供の足で登っていたと
いう事は―――
口減らしで置き去りにしたか、もしくは
捨てられたというところだろう。
「まあいいんじゃない?
今は幸せそうだし」
「運が良かった、という事であろう」
それもそうか……
それに、今さら故郷に帰りたいかと聞いても、
記憶はあいまいだし、白翼族も困惑するだけ
だろう。
改めて異世界の厳しさを認識し―――
私は妻たちと眠りに落ちた。
「では長老、行ってまいります」
「うむ、気をつけるのだぞ」
翌朝、白翼族の方々と別れの挨拶をする。
ヴィオラさんと数名の部下は代表として、
このまま私たちと共に公都へ……
ミナトさんはいったん天人族の里に戻り、
この事を報告、改めて使者を寄越すという
話になった。
「公都までの道のりは某がわかっているゆえ、
数日後にお邪魔させて頂く事になると思う」
そして一礼すると私たちは、アルテリーゼの
『乗客箱』に乗り込み―――
少し浮上した後、下へ向かって飛び始めた。
「しかし、『マナ』ですか。
これがあるから食料が少量でも住んで
いたのでしょうが……
何ていうか、不思議ですねえ」
『乗客箱』の中で、私は白翼族から提供された
『マナ』を前につぶやく。
餅や小麦、そば粉など練った穀物類はもちろん、
パンも大きくなったのだが―――
調理された麺類や料理、お酒や飲み物などは
使っても増加しなかった。
加熱や加工されたものはダメなのかとも
思ったが、肉や魚は焼いたものでもちゃんと
巨大化したのでそれも違う。
何より餅やパン、炊いたお米もきちんと増量
されたし。
「パックさん夫妻に見てもらったら?」
『そうよのう。
あの2人なら喜んで研究・分析して
くれるであろう』
メルと、伝声管からアルテリーゼの声が
伝えられる。
「王都の研究機関にも送るか……
どちらにしろ、扱いは慎重にならざるを
得ないけど」
「む? どうしてだ?
あれだけ美味しいものが増えるのだぞ?」
白翼族の代表が疑問を口にするが、
「それで商売している人もいるからね。
緊急事態ならまだしも、少しの量でいいと
なれば、売れなくなるだろうし―――
それに市場が混乱する」
「ショーバイ?」
「シジョウ?」
翼を持った亜人の面々は、意味がわからない、
という表情できょとんとする。
まあ長い間同一種族として暮らして来て、
交流は天人族くらいしかいなかったのだ。
市場経済なんてものはわからないだろう。
「えーと……
要はこの『マナ』というものは、非常に貴重な
存在になるという事です。
そうおいそれとは使えない、とても高価な
ものとなるでしょう」
「ふっ、当然だ!
我ら白翼族が作るものなのだからな!」
貴重・高価というワードに満足したのか、
彼女たちは満足気にうなずいた。
「つまり―――
そのヴィオラとやらが白翼族代表として、
他数名と共に王都・フォルロワへ行く予定。
また近いうちに、ミナトを始めとする
天人族の使者が来る、と」
公都『ヤマト』の冒険者ギルド支部で、
私はその代表に会って報告する。
筋肉質のアラフィフのギルド長に続き、
褐色肌の青年と丸眼鏡の女性が、
「年明けでいろいろ忙しくなりそうッスねえ」
「確か今春は……
ランドルフ帝国との合同軍事訓練も
控えているんですよね?」
レイド君とミリアさんの言葉に、改めてその
忙しさを予感する。
「んで、えーと―――
白翼族の取り扱い説明書はこんなもので
いいか?」
「間違ってはいませんけど言い方が」
ジャンさんが差し出した書面に、思わず
苦笑で返す。
実際、とてもプライドの高い種族だという事は
わかったので、注意事項としてあちらに予め
情報共有しておくという事だ。
これはこちらのギルドメンバーと相談の上
決めた事で……
・地上の種族、極論すれば飛べない種族を
下に見ている。
・実際に彼女たちの住処は空の上である。
・ただこちらも空を飛ぶ種族や人外を擁して
いるのと、あちらの脅威であるグレムリンを
片付けた事で交渉は、スムーズにいくと予想。
・『マナ』や浮遊島の技術は非常に有用であると
考えられる。
といった内容の事を、先に王都へ送っておく事に
したのだ。
「戦力としてはどうなんだ?」
「グレムリンたちとの戦闘を見ましたが、
接近戦もかなりの腕で、それと風魔法も
当然のように使っていました。
グレムリン・ロードさえ出て来なければ、
白翼族だけで全部片付ける事が出来たで
しょうね」
実際、彼女たちはランスのような武器を手に
戦って―――
五十人ほどの部隊で十倍近いグレムリンの群れを
討伐している。
集団戦を覚えたら、ドラゴンやワイバーンが
相手でも無ければ……
ほぼ無敵と言っていいだろう。
「そんなに強かったッスか?」
「メルさんやアルテリーゼさんは何と」
次期ギルド長夫妻の問いに、
「メルの見解は、身体強化もかなり強力だ
そうで―――
しかも飛ぶ事が前提の戦い方だから、
対空・対地では手が付けられないんじゃ
ないかと言ってました。
アルテリーゼも、1人1人の機動力が
高いので、ドラゴン1体につき白翼族が
10人もいたら厳しいと」
私の答えに、彼らは両腕を組んだり
眉間にシワを寄せる。
「天神族の……その、ミナトとやらは」
「やはり戦闘に関しては、白翼族の方が一段
上回るそうです。
天人族も自力で浮遊出来ますが、羽団扇を
使って移動を制御しているそうなので、
どうしても後れをとるとの事」
ギルド長の問いに答えると、彼はソファに
腰を掛け直し、
「敵に回すと厄介そうだな」
「それは同感ですが、地上の種族を見下して
おりますので―――
支配や侵攻に興味は無いかと。
あちらの立場を立てて交渉すれば、
問題は無いんじゃないかと思います」
それを聞いたレイド君とミリアさんが一息つき、
「しかしメンドイッスねえ。
こんなにいろいろ考えなきゃならないなんて」
「当たり前でしょ!
あなたもゴールドクラスになれば、国の命令で
戦場に出るかも知れないんだからね!
真剣にやりなさい!」
姉さん女房の妻に怒られ、夫は肩をすくめる。
「上の立場ってのはそういうモンだからな。
常に治安や危険は見ておかなきゃならん」
「まあまあ。
『敵を知り、己を知らば―――』です。
こちらと相手の情報さえわかっていれば、
何とかなるものですよ。
彼もまだ若いんですし、経験を積んでいけば」
レイド君を擁護すると、ジャンさんは呆れた
ような表情で、
「他人事のように言うがなあ。
俺が最も警戒したのは、お前さんが
来た時だぞ、シン。
正直死を覚悟したわ」
「その節は大変すいませんでした!」
初めて会った時の事を思い出し、思わず
頭を下げる。
「あー……
つまり最大の危機はギルド長が対応して
くれたって事ッスよねえ。
俺の代じゃなくて良かったッス」
「本当よ。
シンさんを怒らせていたら今頃―――
うどんもソバも、マヨネーズもソースも
スイーツ類もお酒も無かったかと思うと」
「え? そっちなの?」
するとギルド長もうなずきながら、
「あー、確かにそりゃ困るな。
俺もあの風呂が無けりゃ疲れが取れた気が
しねぇし」
「それに天人族とも交流が広がれば、
もっと美味しい物や生活が便利になりそうな
気がするッス!」
「今後も期待してますよー、シンさん」
「努力します」
私とギルドメンバーでひとしきり笑った後、
支部長室を後にした。
「シン殿、我らが里まで来て頂いて感謝
いたします」
「いえ、事情が事情ですから……
ですが、見てみない事にはわかりませんよ?」
「重々承知しております!
そもそも、こちらからお願いしている事で
ありますゆえ」
数日後―――
ヴィオラさんたち白翼族の使者を王都・
フォルロワへ向かうのを見届けた後、
入れ替わるように天人族の使者として、
ミナトさん他数名がやって来た。
だが、切り出されたのはとある依頼。
どうも白翼族の脅威であるグレムリンの群れを
一掃した件を、ミナトさんが里に帰って話した
ところ、
グレムリン・ロードを倒したのが私だという
事で……
そのような人物がいるのならと、呼ぶように
依頼されたのだという。
なんでも現在、彼らの里では異常事態が
起こっているらしく、
その解決を―――
という事のようだ。
「しかし、見事な水路ですね」
「先祖から引き継がれております。
何でも、陸路より輸送量が増すそうですので」
そしてメル・アルテリーゼと共に彼らの里へ
到着したのだが、
鬼人族の里を村や集落とするなら……
こちらは京の都という感じ。
まるで碁盤の目のように直線・直角で水路が
張り巡らされており、
その水上を荷を載せた船が行き交っていた。
「水路ならシンも作ったけど、ここまで
規模が大きいのは見た事ないねー」
「これもシンの故郷にはあったのか?」
メルとアルテリーゼも、一度上空から
見たからか、その大きさに驚く。
五百メートル四方の四角い町、その中に
縦横に本格的な水路が走っているのだから、
無理も無いだろう。
「一昔前ならあったね。
船が交通の主流だったし。
しかし、水路沿いに植えられている木も綺麗に
揃っていますね。
ここまで持ってくるのは大変だったでしょう」
白翼族のように雲の上、とまではいかないが、
ここ天人族の里も結構な高度にある。
恐らく標高にして千メートルほどある山の頂上、
といった立地だ。
「あの水路の水は全て魔法で?」
「はい。さすがにここには川は流れて
おらぬので―――
水魔法で満たしております」
メルの質問にミナトさんが返す。
聞くところによると、天人族の先祖……おそらく
天狗だろうけど、空から降臨したという伝承が
あるらしい。
そしてこの世界の他種族と結婚し、子孫は魔法が
使えるようになり―――
そこは鬼人族と似たような経緯をたどっている
ようだ。
「ここの長や長老たちの話では……
先祖がかつていた地を再現しようとした、
と言っておったが。
小さいながらも整頓されていて、
美を感じるのう」
「恐縮にござります。
しかし、今が冬だというのが残念―――
春ともなれば、あの水路沿いの木々が
いっせいに花開き、白翼族すら我らが里に
降りて来て、鑑賞していくのだが……」
彼女の言葉に耳が反応し、歩みが止まる。
「も、もしかして―――
あの木は『桜』という名前では
ありませんか?」
「おお! さすがは万能冒険者。
博識だと伺っておりましたが、
そんな事までご存知だとは。
『サクラ』は特に先祖の思い入れが
あったらしく、故郷……
つまり天の国にあったと言われていたとか。
春が来る度に、『サクラ』の下で宴を
開いていたとの事」
それはわかる。
おそらく桜が咲く度に、それを見て望郷の念を
なぐさめていたのだろう。
「それじゃなおさら、その水路にいる
魔物とやらを突き止めないとね」
「そんなものがおっては、おちおち宴も
出来ないであろう」
妻二人が水路の水面を眺めながら話す。
そう、天人族の依頼というのは―――
水路に関するもので、その近辺で怪物が
出たという噂があるので、
その原因調査と、解決を求めて来たのである。
「ただの噂であればいいのですが、現に
水路にいた魚や生き物が激減しております。
食い散らかされた死骸も確認されました
ので……
だが、誰もその姿を見た事が無いというのだ。
文字通り雲をつかむような話でな。
水路は輸送はもとより、この里に住む者に
取っては交通路でもある。
ここを止められるというのは血を止められるに
等しい」
先ほどまでの表情とは打って変わって、彼女は
沈痛な面持ちで語る。
「そこでシン殿が、白翼族の長年の懸念を
解決したという話が出て―――
是非とも依頼を、という事になったのだ。
白翼族の頼みを聞いたのだから我らも、
という不届き者もいたがな。
無論、報酬は可能な限り意に沿うつもりだ」
確かに、これから交流を図ろうとするところ。
ここで印象を良くしておけば、というこちらの
事情も加味されているに違いない。
とにかく私たちはミナトさんの案内で、水路を
見回る事にした。
「しかし魚、ですか……
もちろんどこからか調達して来たとは
思いますが」
この水路は人工なのだ。
当然、魚が自然発生するはずもなく。
となるとどこから連れて来て放流したと
考えるのが妥当だろう。
するとミナトさんは首を横に振り、
「いえ、それが―――
いつの間にか生息していたのだと聞いて
おります。
年寄りの話では、ここまで飛んでくる水鳥の
足に水草か何かがくっついて……
そこに魚の卵があったのではないかと」
「へー」
「ほほう」
彼女の説明にメルとアルテリーゼが、
興味深そうに答える。
なるほど。
卵からこの水路で生まれ、育ったとなると
ここが故郷。
それなら繁殖する可能性はあるか。
「……!
シン殿、あれを」
ミナトさんがそう言って指差した先―――
そこには、頭だけになった魚が浮かんでいた。
元の全長は六十cmくらいだろうか。
かなり大きな……
とはいえ、最初から水魔法での水で育成して
いるのだから、わからなくもない。
問題はそんな魚を、食い千切る何かが
いるという事。
「でもおかしいね、アルちゃん。
これ一口でやられたんだろうけど」
「うむ、メルっち。
それだけの大きさのものが目撃情報が無い、
というのは妙だ」
水は水魔法で出しているだけあって、
透明度はかなりある。
深さは一メートルから二メートルほどだと
思われるが、底が見えないほどではない。
つまり姿を隠す事など出来ないのだ。
「見えない……
いつぞやの透明な巨大ガニのように、擬態でも
しているのかな?」
(■95話 はじめての みそ参照)
「心当たりがおありで!?」
天神族の女性が声と一緒に顔を近付けてくる。
そこでその透明なカニについて説明すると、
「何と、そのような魔物が―――
だとすれば何としてでも倒さねば
なりません!
今は魚だけですが、いつ人にも被害が
及ぶか……!」
確かに、魚が激減しているという事は、
次は住人がターゲットになる恐れがある。
しかし透明というだけで無効化が出来るか
どうか。
実際、水中生物なら透明な生き物はいなくも
ないんだよなあ。
せめてどの生物に近いかくらいわかれば、
と思っていると、
「んっ!?」
「むっ!?」
妻たちの声に反応し振り返る。
水路の水面がゆらりと揺れたかと思うと、まるで
水路全体が生き物のように、一つの大きな波が
通り過ぎていった。
しかし、水中には何も見えず―――
「あー、これ何かヘビっぽい」
「あの細長い魚ではないのか?」
アルテリーゼがメルに聞き返すが、
「うんにゃ。水飛沫からおおよその全体の形が
わかったけど……
アレ、ヘビだった。
とゆーわけでシン、何とかなる?」
私は彼女の言葉にうなずく。
ヘビにも擬態する種類がいるにはいるが、
完全に周囲の光景に溶け込む、もしくは
透明になるヘビなんて私の常識の範囲内には
いない。
「よし、やるぞ。
メルとアルテリーゼは構えてくれ。
毒持ちかも知れないから、十分気をつけてな」
「な、何を……?」
状況が飲み込めないミナトさんが、
私と妻二人の間に視線を行ったり来たり
させるが、まずアリテリーゼがドラゴンの
姿となってそちらに注目が行く。
私はその間に、
「体が細長く、四肢は無く―――
そのような形状の爬虫類が、完全な擬態
もしくは透明になるなど、
・・・・・
あり得ない」
そう小声でつぶやくと、
「ああっ!?」
水路とほぼ同じサイズのヘビが突然出現し、
天神族の女性が声を上げる。
「どっせい!!」
すかさずメルが飛び込んで尾っぽをつかみ、
水路から引きずり出すようにぶん投げ、
「よし来た!!」
いきなり水中から飛び出た巨大なヘビの
首根っこに、ドラゴンのアルテリーゼが
キャッチするように噛みつく。
「こ、これは……
こんな魔物がいたなんて」
その光景を見ていたミナトさんは、その場に
へたり込んだ。