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篠原愛紀
#ギャップ
時計を見るともうすぐ約束の時間。
脱衣所に行き、浴衣に着替えて髪の毛を乾かした。
休憩所に行くと、瑞希くんはもう座っていた。
あっ、浴衣の瑞希くん、すごくかっこ良い。
紺色の浴衣姿に思わず、見惚れてしまう。
私が呆然と立っていると
「どうした?」
不思議そうに彼が私に声をかけた。
「ううん、なんでもない」
部屋に帰ってから伝えよう。他のお客さんもいるし。
部屋の中に入り、二人で窓際の椅子に座る。
「瑞希くん。浴衣、すごくかっこ良い。いつもかっこ良いけど」
いつもと違う雰囲気にドキドキしちゃう。
「いや、葵も綺麗だよ。すごく色っぽいな。でも……」
でも?やっぱり似合わないとか……かな。
「今すぐその浴衣を脱がして、抱きたいって言うのが俺の本音」
あ、夜の顔になってる。
「もうすぐご飯だし、我慢するけどな」
「変なこと言わないで!」
意識しちゃうじゃん。
「ごめんごめん」
瑞希くんは苦笑いを浮かべている。
しばらく窓際で景色を見ながら話をしていると、部屋をノックする音が聞こえた。
「お食事の準備をさせていただきます」
次々に机の上に並べられていく料理。
うわっ、あのお肉、霜降りだ。高そう。食べたことない。
あれっ、アワビかな?ご馳走すぎる。
声に出して騒ぎたい気持ちを必死で堪えた。
「では、失礼します。デザートは後程お持ちしますので……」
仲居さんが部屋から出て行く。
「すごいね、瑞希くん!写真撮っていいかな?記念に」
「いいよ」
めったに食べられない、こんなご馳走。
すごいすごいとはしゃぐ私を見て、彼は笑っている。
「あっ、ごめん。私だけテンション上がってて」
「ううん。すごく嬉しそうで、楽しそうで。喜んでもらえて良かったなって思ってただけ」
二人で乾杯をする。
お酒は控えめにと思いながらも、一口ビールを飲んだ。
なんかいつもと違って何十倍もおいしく感じる。瑞希くんも今日はお酒飲んでる。家ではあまり飲まないもんね。
「美味しい―」
鉄板で焼いたお肉が、口の中でとろける。
「美味いな」
瑞希くんも箸が進んでいるみたい。
「あっ、ご飯おかわりする?お酒注ごうか?」
両方とももうすぐ空になりそうだ。
「ん、ありがとう。お願い。ていうか……」
「どうしたの?」
「普通にそういうところ気配りできるのすげーわ」
そんなこと思ったの?
「普通だよ。これくらい。私だってもうすぐ三十歳だよ?」
「普通にできるところがすごいなって思った。意外にできない子の方が多いんだよ」
そうなのかな。女の子に接する機会が多い瑞希くんが言うなら、そうなのかな。
考えてみれば、なんだっけ?
例えば、尊を騙してた優亜って子が普通にこんなことするとは思えない。
「良いお嫁さんになれるかな?」
あっ。ダメだ。こんなこと言っちゃ。
発言に後悔をする。
そんなこと言われたって、瑞希くん困るよね。
「ごめっ、調子に乗っ…」
「なれるよ」
即答の瑞希くんに少し困惑したけれど、そう言ってくれて、ただただ嬉しかった。
「お腹いっぱい」
そう思っていたら、デザートが運ばれてきた。
デザートは別腹って言うけど、ホントそう思う。
「美味しいー」
冷たいバニラアイスの隣に、小さいガトーショコラが添えられている。
「良かった。一時、本当に顔色悪かったから心配した」
「ごめん。心配ばかりかけて」
瑞希くんには本当にお世話になってる。
「葵の美味しそうに食べる姿、久しぶりに見た気がするから安心した」
いつも気にかけてくれて大切に想ってくれている人が近くにいて、本当に私は幸せ。
「葵、夜の海辺とか商店街、少し歩く?近くだったら、浴衣でも良いみたいだし。腹いっぱいで歩きたい」
そう言えば、近くのお土産屋さんとか見てなかったな。
「うん、行く」
二人で手を繋いで歩く。
ここにはきっと知っている人もいないし、彼氏・彼女みたいに歩けて嬉しい。
東京に帰ったら、こんな風に歩けることなんてあまりないだろうし。今は彼を独占したい。私は彼の腕に掴まった。
「どうした?」
「瑞希くんに……。今だけならくっついていられると思って」
私の言葉の意味を理解してくれたのか、一言彼は「ごめん」とだけ呟いた。
その時、ドンっと大きな音と共に、花火があがった。
思わずびっくりして、瑞希くんの腕にさらに強くしがみ付いてしまった。
「綺麗だったけど、一発で終わりかな?」
「んー、そうだな。家庭用の花火かな」
続けてあがらないところを考えると、家庭用の花火だったのかな。
「葵、すごく言い辛いんだけど」
えっ?私、なにか悪いことした?
「なに?」
「胸が当たってる」
えっ?あっ、全然意識してなかった。
「ごめん」
慌てて彼から離れる。
「俺は嬉しいんだけど、こんなところで発情するわけにもいかないしな。そろそろ帰ろうか。露天風呂入ろ?」
露天風呂か。
「うん。帰ろう」
歩いたせいか、お腹も苦しくなくなった。
部屋に戻り、お風呂に入る準備をする。
ドキドキする。瑞希くんが手をケガした時、一緒に入ったことがあるような気がするが、こんな形で入るのは初めて。
「葵、俺、先に入ってるから。あとから来て」
私が部屋でウロウロしていると、私の緊張が伝わってか、彼が配慮してくれるような言葉をかけてくれた。
「うん。ちょっとしたら行く」
一緒に浴衣を脱ぎながら……。なんて無理!
いつもベッドの中では脱がされているが、なんか違う恥ずかしさがある。
瑞希くんがお風呂に向かって五分後、あまり遅くなってもいけないと思い、
露天風呂へ向かった。
脱衣所で浴衣を脱ぎ、外に向かって話しかける。
「瑞希くん、行っていい?」
「うん、もちろん。おいで」
外に出てみると、瑞希くんは普通に頭を洗っていた。
下半身を見ないようにして、隣でシャワーを身体にかける。
「葵。バスタオルつけたまま入るの?」
「お風呂に入る時は、ちゃんと取るよ」
私に巻かれたバスタオルを見て
「恥ずかしいの?」
瑞希くんに言われた。
「うん」
「いつもあんなことしているのに?」
あんなことって言われると、余計恥ずかしくなる。
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