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ゆうき あきや
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友ゴリラ
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第208話:狂気のオーディション発表〜アイドル募集のはずが自衛隊(レンジャー)だった件〜
北海道、帯広市。
家賃四万円、築三十年のボロアパート。
PCモニターの前に鎮座した俺——株式会社インフィニティ・ワン代表取締役社長、秋谷雪(40歳)は、コップに入った水道水で喉を潤した。
時刻は午後九時。
画面の中では、俺のVTuberアバターである『ルシフェル』が、待機画面で静かに息をしている。
『配信開始一分前です、ルシフェル様。塩昆布玄米の消化不良で吐かないように気をつけてくださいね』
ディスコードの裏回線から、我が社の冷徹秘書・結愛(ゆあ)の容赦ない声が飛ぶ。
「わかってる。エウリアンに騙されて背負った500万の借金を返すためだ。俺の残りの人生すべてを懸けて、絶対にこのプロジェクトを成功させる!」
俺は気合を入れ直し、配信開始のボタンをターンッと叩き込んだ。
「こんルシ! みんな、集まってくれてありがとう! スーパーボトム社長のルシフェルだ!」
画面が切り替わると同時に、数千人のリスナーたちが一斉にコメント欄に雪崩れ込んできた。
『待ってたぞ借金おじさんww』
『今日の夕飯も小麦粉ですか?』
『エウリアンのカモねぎ社長こんルシ!』
『借金500万のリアルな悲鳴を聞きに来たぞ』
前回の猫川まるきとのコラボで俺の極貧生活が全世界に晒されたため、コメント欄は俺の不幸を面白がる声で埋め尽くされている。
「お前ら、笑ってる場合じゃないぞ! 今日の俺は、ただの借金まみれの敗北者としてここに来たわけじゃない!」
俺は画面越しにリスナーたちを指差し、声を張り上げた。
「俺はインフィニティ・ワンの代表取締役社長だ! このまま終わってたまるか! 今日は、俺たちを次の次元へと引き上げる、超大型新規プロジェクトの発表を行う!!」
俺の宣言に、コメント欄の流れる速度が少し変わった。
『お? マジの発表?』
『借金返済のクラファンでもやるの?』
『自己破産報告じゃないのかww』
「ちがう! 俺たちが目指すのは、業界の覇権だ! 今、ネット界隈で一番熱いプロジェクト『う○む○め』を知っているな? あのような圧倒的なリアルとバーチャルの融合を目指し、うちの事務所も【ロケ特化型VTuberチーム】を設立する!」
その言葉に、リスナーたちがどよめいた。
『ファッ!? ロケ企画!?』
『う○む○め路線の事務所作るってマジか!』
『個人勢でロケなんて資金力的に無理だろ!』
『また見栄張って借金増やす気か社長ww』
「資金力なら問題ない! なぜなら、俺たちの拠点である北海道の雄大な大自然が、完全無料の特大スタジオになるからだ! そして、第一弾のプロジェクト名は……アウトドア特化型チーム『やまむすめ』だ!」
俺の合図と共に、画面にデカデカと『やまむすめ第一期生オーディション開催!』のバナーが表示された。
『おおおおっ!』
『ガチでプロデュースする気か!』
『山特化は面白そう!』
最初は半信半疑だったリスナーたちも、しっかりとしたバナーとコンセプトを見て、一気に期待の声を上げ始めた。
「そうだ! 綺麗なスタジオで歌って踊るだけのVTuberはもういらない! 大自然の中で泥まみれになりながらサバイバルする、最強の女の子を募集するぞ!」
俺は不敵に笑い、結愛に用意させたスライドを次のページへと進めた。
「それでは発表しよう! これが『やまむすめ』の、オーディション募集要項だ!!」
ドォォォンッ! という効果音と共に、画面に箇条書きのテキストが表示される。
・手のひらサイズの虫を素手で掴んで投げ捨てられる方。
・10キロの荷物を背負って急勾配を3時間歩ける体力オバケ。
・三日間風呂に入れなくても泥まみれで笑える方。
・ヒグマに遭遇しても泣かずにクマスプレーを構え、威嚇できる方。
※歌唱力、ゲームスキル、アイドル性は一切不問。
数秒の、完全な静寂。
そして。
コメント欄が、これまでにないほどの凄まじい勢いで爆発した。
『は?????』
『ちょっと待てwwww』
『アイドル募集じゃなくて自衛隊の募集か何か??』
『ガチすぎるだろwwww』
『虫素手で掴むってレベルじゃねえぞww』
『ヒグマ前提は草生える』
『クマスプレー構えられる方(アイドル)』
『タレントじゃなくてマタギ募集しろやwwww』
怒涛のツッコミの嵐。
画面が「wwww」と「草」の文字で完全に埋め尽くされる。
「笑うな! 俺は本気だ! 北海道の山を舐めるなよ! クマが出た時にキャーキャー泣いて逃げ出すような奴は、一瞬で背後を取られて食われるんだぞ!」
俺が必死に弁明すると、さらにリスナーからのツッコミが加速する。
『お前が戦えよww』
『社長が身を挺して守れww』
『女の子にクマスプレー構えさせて社長は逃げる気かww』
「逃げるわけないだろ! いいかお前ら、ロケの経費を極限まで削るため、現場のロケバス運転手、重い機材の運搬、そしてカメラマンは……俺が全部一人でタダ働きするんだよ!!」
俺が堂々と宣言すると、コメント欄はさらなる熱狂の渦に巻き込まれた。
『ファッ!?www』
『社長がカメラマン!?』
『完全なブラック企業で草』
『女の子より社長が一番過酷じゃねーかww』
『荷物持ち兼カメラマン(40歳)』
『社長死ぬぞwwww』
『労基仕事しろ(※社長だから適用外)』
『ルシフェルさん、心拍数が危険域に達しています。落ち着いてください』
ジェミニ先生の冷静な合成音声が配信に乗るが、俺の興奮は止まらない。
「俺は元・陸上自衛隊の需品科だ! 重い荷物を背負って山を歩くのはプロだ! 機材は俺が背負う! だからこそ、俺がバテてぶっ倒れた時に、俺を引きずって下山できるくらいの体力オバケが必要なんだよ!!」
『やっぱり社長が一番危ないんじゃねーかww』
『遭難前提のロケ企画ww』
『命懸けのエンタメ最高すぎるww』
ドカンッ、ドカンッ!
【労災保険の足しにしてくれ】——¥5,000
【ヒグマ対策のロケット花火代】——¥2,000
【腹痛いww最高のオーディションだなww】——¥10,000
リスナーからのスーパーチャットが、次々と画面に飛び交う。
俺の無謀すぎる挑戦と、常軌を逸した募集要項は、間違いなく彼らのエンタメのツボを完全に突き刺していた。
裏回線で、結愛が氷のような声でポツリと呟く。
『リスナーの皆様。ルシフェル様が万が一山でヒグマに食べられて遭難した場合、会社には多額の生命保険金が下りるシステムを構築済みですので、ご安心ください』
『秘書が一番サイコパスで草』
『社長の命より利益ww』
『完璧なリスクヘッジww』
「おい結愛! お前マジで俺に保険かけてるのか!? 勝手に殺すな!」
俺の悲鳴と、リスナーの爆笑が交差する中、配信の盛り上がりは最高潮に達していた。
「というわけで! 腕に覚えのある野生児たち! 虫が大好きで、山を駆け回りたい体力オバケたち! 我こそはという猛者は、今すぐ特設サイトから応募してくれ!」
俺はカメラに向かって、全力で呼びかけた。
「綺麗なスタジオはない! あるのは北海道の過酷な大自然だけだ! だが、絶対に最高の景色を見せてやる! 『やまむすめ』第一期生オーディション、今ここから開幕だぁぁぁっ!!」
配信を終えた後、俺は四畳半の畳の上に大の字になって倒れ込んだ。
喉はカラカラで、全身は汗だくだ。
だが、胸の奥にはこれまでにないほどの熱い高揚感が渦巻いていた。
『お疲れ様でした、ヒモ社長。リスナーの反応は上々ですね。オーディションの応募フォームも、現在正常に稼働しています』
結愛の報告を聞きながら、俺はニヤリと笑った。
さあ、果たしてこんな狂った条件に、応募してくる命知らずはいるのだろうか。
500万円の借金返済と、会社の未来を懸けた、前代未聞の面接サバイバルが、今、静かに幕を開けようとしていた。
コメント
1件
おお、これめっちゃ笑ったわw アイドル募集かと思いきやまさかの自衛隊レベルの体力オバケ条件で草。ルシフェル社長の極貧生活とやる気のギャップがたまらんし、結愛のサイコパス秘書っぷりも安定の面白さ。ヒグマに遭遇した時に泣かずにクマスプレー構えられるアイドル募集って発想が頭おかしくて好きw 次、どんな化け物が応募してくるのか超気になるわ🔥