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ゆうき あきや
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友ゴリラ
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第209話:書類選考のバグ〜集結する猛者たちと、震えるヒモ社長〜
北海道、帯広市。
家賃四万円、築三十年のボロアパートの四畳半。
「……もぐっ、もぐっ……まじぃ」
俺——株式会社インフィニティ・ワン代表取締役社長、秋谷雪(40歳)は、部下から配給された最安値の玄米に徳用塩昆布を乗せただけの『ヒモ飯』を無心で咀嚼していた。
エウリアンに騙されて背負った総額500万円の極悪ローン。
月給10万円の役員報酬。
手取り残金は1日あたり約330円。
この絶望的な極貧生活から抜け出し、再び栄光を掴むための起死回生の一手。
それが、北海道の大自然を完全無料のスタジオとして利用する、アウトドア特化型VTuberチーム『やまむすめ』の立ち上げである。
『ルシフェル様、聞こえますか』
ディスコードの着信音と共に、我が社の冷徹秘書・結愛(ゆあ)の氷点下ボイスが四畳半に響いた。
「おお、結愛! どうした! もしかして『やまむすめ』の応募状況か!?」
俺は箸を置き、前のめりになってPCモニターを覗き込んだ。
昨晩の生配信で、俺は狂気に満ちた募集要項を全世界に叩きつけた。
『虫を素手で掴める』『10キロの荷物を背負って山を駆け上がれる』『ヒグマが出ても泣かずに威嚇できる』という、およそアイドル募集とは思えないサバイバル条件だ。
リスナーからは「自衛隊の募集か」「労基仕事しろ」と爆笑されたが、話題性だけは抜群だった。
『はい。先ほど、第一期生の書類選考のエントリーを締め切りました。その結果をご報告します』
「ど、どうだ……? 狂った条件ばかり並べたから、さすがに数人しか来てないか? いや、一人でも見込みのある原石がいれば御の字なんだが……」
俺が緊張で生唾を飲み込むと、結愛はカタカタとキーボードを叩き、信じられない数字を告げた。
『結論から言います。エントリー総数……【342名】です』
「さ、さんびゃく……!? 342人だとぉっ!?」
俺は三万円のゲーミングチェアから跳び上がった。
「やったぁぁぁっ! 大豊作じゃないか! 342人もいれば、その中からキャンプ好きの可愛いアニメ声の女の子をじっくり選べるぞ! 借金完済の道が見えたぁぁっ!」
俺は四畳半の畳の上で、歓喜の小躍りをした。
さすがはスーパーボトム社長のプロデュース企画。時代は完全にアウトドアを求めているのだ。
『……社長ぉ、喜ぶの早すぎっすよぉ……』
通話ルームに、海外スタッフのヨモが相変わらずの気だるげな声で入ってくる。
『……ルシフェルさん、心拍数の急上昇を検知しました。深呼吸をしてから、共有フォルダにアップロードした【応募者の履歴書データ】を開いてください』
ジェミニ先生の無機質な合成音声に促され、俺はウキウキ気分でPCのマウスを握った。
「なんだよ、みんなしてテンション低いな。どれどれ、未来のインフィニティ・ワンを背負って立つ可愛い原石ちゃんたちは……」
カチッ。
共有フォルダ内の、書類選考トップ通過者のPDFファイルを開いた瞬間。
俺の全身の血の気が、サァーッと音を立てて引いていった。
「…………は?」
画面に表示された一枚目の履歴書。
年齢は21歳。女性。
だが、添付されている自己PR写真が、明らかにおかしかった。
迷彩服を着た小柄な女の子が、満面の笑みでダブルピースをしている。
そこまではいい。
問題は、彼女の足元に【首から血を流して倒れている、巨大なエゾシカの死骸】が転がっていたことだ。
俺は震える手で、彼女の自己PR文を読み上げた。
「『初めまして! 実家がマタギの家系で、中学生の頃から罠猟の手伝いをしています! ヒグマが出ても威嚇できる方、という条件を見て運命を感じました! 私は第一種銃猟免許を持っていますが、配信中はコンプライアンスを守ってクマスプレーで対応可能です! 獲物の解体には自信があります!』……って」
俺は絶句した。
「ガチの猟師(ハンター)じゃねーか!!」
俺の悲鳴に、結愛が淡々と答える。
『ええ。彼女なら、社長がヒグマに襲われても冷静に急所を狙ってくれるでしょう。素晴らしい即戦力です』
「即戦力すぎるわ! VTuberのオーディションにエゾシカの死体の写真送ってくる奴がいるか! 逆に俺が解体されそうだよ!!」
『あー、社長ぉ。次は二枚目のファイル、開いてみてくださいよぉ……』
ヨモに促され、俺は泣きそうになりながら次のPDFを開いた。
年齢27歳。女性。
自己PR写真には、吹雪の中でピッケルを突き上げている、完全な雪山登山のフル装備の人物が写っていた。ゴーグルとネックウォーマーで、顔すら1ミリも見えない。
「『先日、ヒマラヤの未踏峰ルートから帰国しました。10キロの荷物という条件に笑ってしまいました。私は普段、40キロの歩荷(ぼっか)トレーニングをしています。VTuberというものが何かはよく分かりませんが、北海道の山に登って給料がもらえるなら何でもやります』……」
俺は頭を抱えた。
「こっちはガチのアルピニストだ! VTuberが何か分かってないじゃねえか! ただの登山のスポンサー探しだろこれ!」
『ですが、社長の提示した「10キロの荷物を背負って急勾配を歩ける体力オバケ」という条件は完璧にクリアしていますよ?』
結愛が意地悪く笑う。
「俺が求めてた体力オバケは、せいぜい部活で陸上やってましたレベルだよ! 40キロ背負ってヒマラヤ登るバケモノじゃねえよ! 俺が機材背負ってついて行けるわけないだろ!」
俺は元・自衛隊の需品科だが、今は塩昆布と玄米しか食べていない40歳の貧弱なオッサンだ。そんな超人と山に入ったら、開始十分で心臓が破裂する。
「三枚目! 三枚目はどうだ!?」
俺はすがるような思いで、次のファイルを開いた。
年齢19歳。女性。
写真は、ジャングルのような場所で、何か黒くて節足のある巨大な生物を、串焼きにして笑顔で齧っている女の子。
「『食費を浮かすために、普段から昆虫食でタンパク質を補給しています。タランチュラはカニみたいな味がして美味しいです。北海道の虫は食べたことがないので、ロケが楽しみです!』……」
「サバイバル愛好家だぁぁぁっ!!」
俺は四畳半の畳の上を転げ回った。
「どこ行ったんだよ、可愛いアニメ声のゲーマー女子は!? なんでうちの応募者は、猟師と登山家とサバイバリストの【傭兵部隊】みたいになってんだよ!」
『原因は明白です、ルシフェル様』
結愛が、氷のような冷徹さで事実を突きつけてくる。
『貴方が「アイドル志望はお断り」「虫を素手で掴める」「ヒグマに遭遇しても泣かない」などという、常軌を逸した募集要項を出したからです。結果として、普通の女の子は全員ドン引きして逃げ出し、代わりに【本物の野生児たち】が匂いを嗅ぎつけて集結してしまったのです』
「そ、そんな……」
俺は自分の浅はかさを呪った。
奇をてらって尖った条件を出せば、面白い逸材が来ると思った。
だが、集まったのはエンタメの枠を完全に超えた、ガチの猛者(ヤバいやつら)ばかりだったのだ。
『ジェミニ先生、現在の応募者のデータを元に、ルシフェル様がロケに同行した場合の【社長の生存確率】を再計算してください』
結愛の指示に、ジェミニ先生のAIが即座に反応する。
『……計算完了。応募者たちの異常な身体能力に社長の体力がついていけず、山中で過労により滑落、または遭難する確率は……【92パーセント】。社長の生存確率は【8パーセント】に低下しました』
「死ぬ!! 俺、確実に山で死ぬじゃねえか!!」
『まぁまぁ、社長ぉ。万が一社長が遭難したら、適当にドキュメンタリー映画っぽく編集して海外向けに売り出しときますから安心してくださいよぉ……ふわぁ……』
ヨモの気だるげで無慈悲な言葉が、トドメとなって俺の心をへし折った。
壁に飾られた300万円の美少女版画たちが、ガクガクと震え上がる40歳のスーパーボトム社長を見下ろしながら、「自業自得ね」と残酷に微笑んでいる。
「ど、どうすんだよ結愛……。こんなバケモノたちを相手に、明日からオンライン面接をしなきゃいけないのか……?」
『当然です。貴方が蒔いた種でしょう。さあ、ヒモ社長。借金を返すために、命懸けの面接サバイバルの準備を始めてください』
結愛の冷酷な宣告が、四畳半に虚しく響き渡る。
塩昆布玄米で生き延びる限界社長の前に現れた、342人の猛者たち。
インフィニティ・ワンの存亡と、俺の命を懸けた狂気の面接試験が、いよいよ幕を開けようとしていた。
コメント
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えぇ…待って、これ、めちゃくちゃ笑ったわww 最初のマタギの家系の子のエゾシカ倒した写真、ヒマラヤ帰りのアルピニスト、タランチュラ齧ってる子…っていうかこれ、Vtuberオーディションじゃなくて完全に傭兵部隊の募集やん!w 社長の生存確率8%って数字が全てを物語ってる…塩昆布玄米で生きてる40歳のオッサンがヒマラヤ帰りの超人に付いていけるわけないって冷静に突っ込むゆあも好きよw 「俺が求めた体力オバケは陸上部レベル」って叫ぶシーン、めちゃくちゃウケた。これは次回のオンライン面接、まじで楽しみにしてるわ🔥