テラーノベル
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財務省の帰り。
スーツ姿の耕一。
完璧で、隙がなくて、感情を出さない男。
横断歩道の向こう。
小さなライブハウス。
雨宿りしてる男が一人。
金ない感じの服。
でも目だけ、やけに真っ直ぐ。
それがタクマ。
「すみません」
急に声かけられる耕一。
「傘、壊れちゃって。駅まで一緒に入れてもらえません?」
図々しい。
でも笑顔が無邪気。
一瞬迷う。
断る理由もない。
「……どうぞ」
距離、微妙に近い。
タクマ、勝手に喋る。
「仕事帰りですか?」
「ええ」
「かたそうな仕事っぽい」
「あなたは?」
「夢追ってます」
即答。
少しだけ目を細める。
現実を知ってる目。
でも否定しない。
「そうですか」
駅に着く。
タクマが振り向く。
「名前、聞いていい?」
普通なら無視。
でもなぜか答えてしまう。
「笹野耕一」
「耕一くん?」
距離近い。
「下の名前で呼ぶな」
「じゃあまた会えたらね、耕一くん」
勝手に笑って走ってく。
連絡先も交換してない。
なのに。
なぜか、忘れられない。
同じライブハウス前。
なぜか立ち止まってる。
自分でも意味わからない。
中から音楽。
荒削り。
でも熱がある。
ステージにタクマ。
汗だくで歌ってる。
必死。
あの軽さとは違う顔。
ライブ後。
タクマが気づく。
「あ!傘の人!」
覚えてる。
「来てくれたの?」
少し間。
「通りがかりです」
嘘。
タクマがニヤッと笑う。
「嘘つくの下手そう」
初めて、耕一が少しだけ笑う。
ほんの一瞬。
それをタクマは見逃さない。
「笑うんだ」
それが、はじまり。
まだ恋じゃない。
ただ、気になる。
住む世界は違う。
安定と無鉄砲。
理性と衝動。
でも。
雨の日の傘みたいに。
少しだけ、重なった。
3度目の夜。
小さな居酒屋。
ライブ終わり。
タクマ、ビール片手に上機嫌。
「今日さ、ちょっとだけ客増えたんだよ」
「そうですか」
耕一はウーロン茶。
スーツのまま。
場違いなくらい整ってる。
タクマがじっと見る。
「耕一くんってさ」
「なんです」
「なんで俺に構うの?」
不意打ち。
耕一、少し考える。
「……興味がある」
タクマがくしゃっと笑う。
「俺に?」
「ええ」
その一言が重い。
空気が、少し変わる。
タクマが視線を逸らす。
急にトーン落ちる。
「でもさ」
「はい」
「俺、彼女いるよ」
さらっと。
本当にさらっと。
でも。
耕一の指が、止まる。
一瞬だけ。
表情は変わらない。
「そうですか」
それだけ。
声はいつも通り。
でも喉が少しだけ硬い。
タクマが気づく。
「あれ、ショック?」
冗談っぽく笑う。
耕一が目を上げる。
「あなたが誰と付き合おうが、私には関係ありません」
正しい。
完璧に正しい。
でも。
タクマの胸が、なぜかちくっとする。
「……そっか」
沈黙。
さっきまで軽かった空気が、少しだけ重い。
帰り道。
また同じ距離。
傘は今日は一つじゃない。
それぞれ持ってる。
でも。
歩幅が、合う。
タクマがぽつり。
「でもさ、」
耕一を見る。
「耕一くんといると楽なんだよね」
やめとけばいいのに。
言わなきゃいいのに。
前を向いたまま。
「それは光栄です」
でも心の奥で。
初めて。
“欲しい”と思った。
彼女がいると知った夜に。
コメント
1件
どっちだこれ‼️🩷🤍なのか、🤍🩷なのか‼️次回も楽しみにしてます😊