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夜のピザ屋。
閉店後の静かな店内。
エリオットはカウンターに寄りかかりながら、半分眠そうな顔をしていた。
頬はまだ少し赤い。
「……チャンス」
「なんだ」
チャンスは腕を組んで立っている。
「帰る」
「そうしてくれ」
エリオットが立ち上がる。
でも。
ふらっ
「……」
チャンスが即座に腕を掴む。
「だから言った」
エリオットは笑う。
「大丈夫」
「全然大丈夫じゃない」
エリオットはふにゃっとした顔でチャンスを見る。
そして。
ネクタイ。
ぐい
「……」
チャンスがため息をつく。
「酔ってもそれか」
「チャンスのネクタイ落ち着く」
「変な癖」
エリオットはくすっと笑う。
「送って」
チャンスは眉を上げる。
「家どこ」
「歩いて10分」
「今の状態で?」
エリオットは肩をすくめる。
「転ぶ」
「だろうな」
チャンスは帽子を被り直す。
「行くぞ」
外に出る。
夜の空気は少し冷たい。
雨上がりの道路が光っている。
ネオンが水たまりに映っていた。
エリオットは隣を歩く。
少しふらふら。
そして。
また。
ネクタイ。
ぐい
「……」
チャンスが横を見る。
「歩きにくい」
「迷子防止」
「子供か」
エリオットは笑う。
「チャンス」
「なんだ」
「俺重い?」
チャンスは肩を貸して歩いている。
「普通」
「優しい」
「普通」
しばらく歩く。
静かな夜道。
エリオットはぼそっと言う。
「チャンス」
「ん」
「マフィア怖い?」
チャンスは少し考える。
「慣れた」
エリオットはネクタイをくるくるする。
「怪我したの」
「まあな」
「痛い?」
「少し」
エリオットは少し真面目な顔になる。
そして。
ネクタイを少し強く引く。
ぐい
チャンスが止まる。
「……おい」
エリオットは近い距離で言う。
「死んだらダメ」
チャンスは少し驚く。
エリオットは酔ったまま続ける。
「ピザ食べに来れなくなる」
チャンスは数秒黙って――
笑った。
「それ理由か」
エリオットも笑う。
「あと」
「?」
「ネクタイ引っ張れない」
チャンスは肩をすくめる。
「安心しろ」
「?」
「死なない」
エリオットは満足そうに笑う。
またネクタイ。
ぐい
「ほんと」
チャンスが言う。
「それ好きだな」
エリオットはにこっと笑う。
「うん」
そして。
少し歩いたあと。
エリオットがぼそっと言う。
「……着いた」
小さなアパート。
チャンスは入口を見る。
「ここか」
エリオットはドアの前で振り返る。
そして。
最後にまた。
ネクタイ。
ぐい
「……」
チャンスが言う。
「別れの挨拶か」
エリオットは笑う。
「また来て」
チャンスは軽く手を振る。
「ピザ食いに」
エリオットはドアを開けながら言う。
「チャンス」
「ん?」
「ネクタイ忘れないで」
チャンスは笑った。
「忘れない」
夜の街は静かだった。