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18 責任
さーてと…と、先生が小さな声で呟いた。
この状況で、「さてと」と来れば理想は、「この後どうする?」「まだ時間ある?」「もうちょっと話す?」
でも現実は、
「そろそろ帰るかー。」
ですよねー。ケチ……って心の中では文句言って
『はい』
表向きには素直にベンチから立ち上がった。
「お前は、駅の方?」
『はい、電車通勤なので』
「じゃ、逆だな」
オレ、あっちって先生は駅とは反対の方向を指差す。
『そうなんですか』
「うん」
『……』
何か変な間が空いた。
その間を埋めるように、先生がウウンって咳払いをした。
「明日も仕事?」
『あ…私は休みです。』
「そっかぁ、いいなー。」
『先生は今日休みだったじゃないですか』
「日曜日って独特な空気だよなー」
『……ですね』
クスッて笑った先生が「じゃ、明後日から仕事頑張れよー」って軽く手を挙げて背を向けた。
『……先生っ!』
猫背の背中に声を掛けたのは、無意識だった。
だから、ちょっと驚いた顔で振り返った先生よりも、
きっと私の方が、驚いた顔をしてたと思う。
「ん?どうした」
『あの…どうして…』
「うん」
『私と…桜を見たんですか』
「お前が言い出しっぺだから。」
『言い出しっぺ?』
先生は、当然だろ?って感じの表情で話す。
「桜、もう散るって、オレに言っただろ?」
『……はい』
「そしたら、ちゃんと見とかなきゃ勿体ないかなーって思ったの。」
『そんなモン…ですか』
「そんなモンなの。惜しくなるモンなの。」
もう1度、桜を見て「うん、見てよかった。」って満足そうな笑顔で微笑んだ。
「でももうすぐ30の男が一人で桜見てんのもねー、寂しいよなぁー」
『それで、私を?』
「責任とって貰ったのよ」
私の方が、先生にとってもらいたい責任、いっぱいあるのに。
やっぱり、今でもズルい人。
私が望んでる言葉なんて、一言もくれない意地悪な人。