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奈美は昔、ピアノを習っていた。
実家近くのピアノ教室に通い、幼少の頃から高校を卒業するまで、十年以上習っていたと思う。
今は全然弾いてないけど、たまに実家へ帰ると、オブジェと化したアップライトピアノに触る。
その影響か、街中で過去に習ったピアノ曲や好きなピアノ曲が流れていると、旋律を耳で追いかける癖が付いてしまった。
クラッシックのコーナーには、ドビュッシーの『夢』が低いボリュームで流れている。
(またピアノを弾いてみたいなぁ……)
朧気なアルペジオと幻想的な旋律に癒されながら、次は隣のイージーリスニングのコーナーへ向かった。
「あ……!」
カラフルなジャケットたちを見ながら、奈美は声を上げる。
アンドレ・ギャニオンと並んで、彼女の大好きなピアニスト兼作曲家の中村由利子のCDを見つけた。
しかも、初期三部作と言われている『風の鏡』『時の花束』『絹の薔薇』のCDが一枚ずつ売っている。
彼女は、ソロベストアルバム『ディア グリーン フィールド』しか持っていない。
この三枚のCDを店頭で見かけるのは奇跡のよう。
(初期三部作のCDが店頭にあるなんて……!)
ご本人様の美しい姿のアルバムジャケットに、奈美のテンションは一気に上がってしまう。
三部作のCDを手に取り、気付くとニヤけていた。
「奈美」
背後から聞き慣れた声音に、彼女が振り返ると、豪はCDを購入したのか、ショップの袋を下げている。
車に積むアルバムを購入したのかもしれない。
クラシックやイージーリスニングのコーナーに奈美がいた事を、彼は意外と言いたげな表情を見せた。