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「へぇ……クラッシックとか好きなのか?」
「昔、ピアノ習ってて、その影響ですね。いいなと思った曲は、ジャンル問わず聴きますよ。以前、豪さんとドライブした時に聴いたノリのいい曲も好きですし。音楽は雑食かもしれないですね」
「雑食って……」
豪が、吹き出しそうにククっと笑った。
互いに想いを通わせてから、彼がこうやって笑う事が増えた気がする。
「それより、気に入ったCDあったんだろ? 買わないのか?」
奈美の手元を見やった後、眼差しを向けてきた。
「三枚あって、どれを買おうか迷ってて……」
彼女は、ジャケットを見ながら思案していると、持っていたCDを彼が全て引き抜き、レジへ向かっていった。
「えっ? ごっ……豪さん?」
「まぁ……これは、俺から奈美へのプレゼント……って事で」
会計を済ませた彼が奈美の所に戻り、柔和な笑みでショップの袋を手渡してくれた。
「すみません、ありがとうございます」
中を見ると、綺麗にギフト包装されている。
「うわぁ……本当にありがとうございます! 大切に聴き倒します!」
その心遣いが、奈美は嬉しくてたまらない。
袋を胸元に抱え、満面の笑みを浮かべた彼女に、彼が頭を撫でてくれる。
「いつか、奈美がピアノを弾いているところ、見てみたいな……」
豪がスルリと手を奈美の肩に回して、CDショップを出た。
その後、立川駅のファッションビルに入り、昼食を摂った後、ウィンドショッピングしたり、カフェに入ってお茶したり、ありふれた時間を過ごす二人。
気付くと、そろそろ夕方になりそうな時間。
ファッションビルを出た後、奈美と豪の足取りが、無意識に駅の改札へと向かっていく。
改札内コンコースで立ち止まり、四方八方から人が流れて交差する中、二人は向かい合った。
「豪さん、昨日の夜から一緒にいられて楽しかったです。ありがとうございました」
買ってくれたCDを胸に抱えて会釈すると、奈美の様子を黙ったまま、豪は、切なそうな面持ちで見下ろしていた。
「…………名残惜しいな」
虚ろな声色で呟きながら、彼女の腰を引き寄せる。
多くの人が行き交う中、奈美と豪だけが向かい合い、視線を絡ませていた。