テラーノベル
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教室の空気が、少しずつ乾いていく。
──それに、椎名先生はもう気づいていた。
この教師は、そういう“変化”には異様に敏感だ。
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「最近さ、先生に聞かれたんだけど……」
帰り道、何気なく隣にいた女子が言った。
「片倉さんって、村瀬くんと仲良かった?って」
(……やっぱり)
先生は私に直接聞くのではなく、別の生徒を通して探っている。
「答えたの?」
「んー、適当に。てかさ、あの先生って変に詮索好きっていうか……」
その言葉に、私は軽く笑ってみせた。
「先生も人間だし、いろいろ知りたいんでしょ」
でも、心の奥では確信していた。
(このままだと、やっかい)
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椎名先生は、空気の違和感を感じとる。
空気の“わずかな狂い”を、他人よりも早く察知する。
つまりこのまま放っておけば、
私の仕掛けを見抜く可能性がある。
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夜、スマホに匿名掲示板の通知が来る。
《最近の担任、なんか探ってきてない?》
《正義ヅラしてるけどさ、実はただの詮索魔じゃん?》
《言ってないことまで勝手に読み取ってきてウザいわ》
その文面に、私は指一本動かしていない。
けれど――こうなるよう、
空気を少しだけ整えておいた。
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翌日。教室。
椎名先生は、目を見て話さなくなっていた。
視線は常にどこかに彷徨い、生徒同士の会話に不自然な反応を見せる。
生徒の間に走る微かな空気の変化に、
“気づいてしまった”教師の行動が、ますます浮いていく。
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《西園寺》
《先生って、生徒の小さな変化にすぐ気づくよね》
《それ、優しさだと思ってたけど……違ったのかも》
まるで、見ていたように。
まるで、ずっと前からこの空気を知っていたかのように。
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教師は、信じた空気に裏切られる。
正しさが正しさでいられなくなるとき、
人は一番醜く、脆くなる。
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(この人は、もうすぐ壊れる)
私は、静かにそう確信した。
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