コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
◻︎聖の告白
「あ、あのさ…それで、俺も話したいことがあるんだけど」
聖が、話しにくいことを話したそうにしている。
なんかややこしいけど。
「なぁに、珍しいね。大事なこと?」
「ん、うん…まぁ、大事…かな?」
なんとなく、歯切れが悪い。
「え?聖、話すのか?」
「うん、今じゃないと言えない気がする」
なんだかいつもと違う聖。
「おいおい、一体なんの話をしようとしてるんだ?」
夫も気になるようだ。
「はい、あんたの父母はちゃんと話を聞く準備ができました。だから、ほら、話して」
私と夫はきちんと息子の正面に座った。
「あの、俺も、自分探しに行きたい」
「は?」
「ん?え?えーっ!あんた内定出てるんでしょ?」
「うん、でも、なんとなく違う気がして」
「内定、断るとか?」
「…悩んでる」
ふぅーと夫婦でため息が出る。
「聖は、柚月君が自分探しをしたいという話を、私らに聞いて欲しかったんでしょ?それがなんで聖もそうなるの?」
「なんていえばいいか…柚月の話を聞いてからの父さんと母さんの反応を見てたというか。そしたら、特に反対もしなかったし」
「それって、聖はズルいよ。そうならそうと最初から言いなよ」
「そうなんだけど…」
「あ、あの、それは俺のせいなんです」
柚月が割って入る。
「俺が、聖のことを好きだって言ったから」
_____ん?
その場が一瞬で、シーンとした。
「やっぱりおかしいですよね?俺は一応男だし、聖も男だし。自分でもわからないんですよ、なんでこんな気持ちになったのか…。それで自分で自分のことをわかるために自分探しをしようかな?なんて考えて、その話を聖にしたら、なんか一緒に…その…」
「聖も柚月君のことを…?」
“好きなの?”とはストレートに聞けない、人間性ができてない私。
「一緒にいて楽しいし、女の子よりずっと気楽でいい。でも、それ以上はよくわからないんだ…」
ヘラヘラと言う聖に、少し苛立った。
「あんたは昔っからそう!なんですぐ周りに流されるのかな?そして、よくわからないのに内定も断ろうとしてるし」
「だって、それはなんか違うって思いながら働いても、やる気が出ないと思うし」
「じゃあ、なに?あんたは、自分にピッタリの仕事じゃないとやらないの?それって、どんな仕事?いつみつかるの?」
「それは…」
「仕事ってね、自分のやりたいことをやれてる人って、ほんのひと握りだよ。ちょっとくらい違うなって思っても、なんとかやっていこうとしてみんな頑張ってるんだよ。みんながみんな、やりたい仕事に就けるわけがない。内定をもらった会社も、自分で探した会社でしょ?企業側もね、新入社員を入れるのに一人当たりどれくらいの経費がかかるか、知ってる?50万かかることもあるって言われてるんだよ。それを簡単に断るとか言って」
「そうなの?!」
夫が驚いて答える。
「え?パパは知らないの?まぁ、いいけど。とにかく内定を断るのかどうかはよく考えなさい。それから、大学を卒業したら自分で生活しなさい。社会に出て、いろんな波に揉まれてたらそのうち、自分ってものが見えてくるから。そうしていれば柚月君とのことも見えてくると思うし」
話しながら、考えていた。
_____まさか息子からのこんなカミングアウトがあるなんて…実感はないけど