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※ これは猿山受毛です
オメガバnk猿
「運命の人に会ったんです」
そう相談を受けたのはつい先週のこと。毎月あるカウンセリングの最後に相談されたその言葉はなかむの情緒を揺さぶるのに十分なものだった。
「あ、、それは、良かったですね」
皮の上に笑みを浮かべながらそう返す。精神科医且つ猿山の担当医であるなかむにとって猿山との関係は、医師と患者という関係をとっくに昔に超越していたものへと変貌を遂げていた。
ちょうど次の患者も居ないので、と猿山を再び椅子に座らせ詳細を聞き出すとどうやら相手は職場の同僚のΩだと血色の薄い頬を桜色に染めながら話してくれた。
それからも初めて会った時とは比べ物にならないほど、けれど普通の人よりは抑揚のない声で幸せそうに話していた。それだけは脳に染み付いていたが、肝心の内容は脳を素通りするだけだ。悪心が強くなってきた頃、ひとつの思いつきでスマホを手に取って耳に当てた。
「いきなりですけど、ベッド、空いてるらしいですよ」
スマホを机に置いたなかむから出された言葉に素っ頓狂な声を上げた猿山をなかむは医師という立場を最大限に生かし説得していく。精神科でのベッドが空いたという報告は入院が可能という報告なのだ。それは猿山にとっても周知の事実だった。
「ーーーー、なのでサインしてください。心配なんです。」
そう言って情に訴えかけると猿山は想像以上に大人しくサインをしてくれた。長いカウンセリングで培った信頼が確実に背中を押してくれたのだろうとなかむは昔の自分に誠心誠意の感謝をした。
そして、この出来事が1週間前、時間軸は現在に巻き戻る。
時刻は丁度昼頃、個室開放病棟の中でひとつの高い声が響いた。
「猿山さーん?変化ないですかー?」
「全然大丈夫です」
そう言って病室の扉を開けるなかむを青い鉱石が見る。ベッドの上に設置されているテーブルに持ってきた昼食を置き、猿山を腕の中に閉じ込める。
髪に隠れた項に鼻を押し付けて匂いを深く吸い込むと僅少だが焼きたてのクッキーのような美味しそうな匂いが肺に入り全身を回る。撫でていた手を猿山の後頭部に移動させ猿山にも自身の匂いを嗅がせるように誘導する。すると匂いが更に強くなった。うっとりとした顔で白衣に顔を埋める猿山が愛おしくたまらなく思えてくるのはいつもの事。今日はこのくらいだろうと腕から解放してやり、なかむはベッドに腰かけた。
「はい、終わりです」
猿山の頬は薄く赤で染まっていると同時にどこか物足りないと言いたげな表情を浮かべている。”治療”という名目でこれを初めてから、初めて見ることが出来たその表情に口角が無意識に上がる。
「もっと欲しかったですか?」
薄い笑いを含ませた声でそう問うと更に頬の赤を濃くしてコクリと小さく頷ずく。1週間前と比べても間違いなく効果が現れてきている証拠だろうとなかむは心の中でガッツポーズを決めた。
けれど
「先にご飯食べちゃいましょう」
気づいてしまったら全てを溝に捨てることになるということを心に決め、スプーンを手に持つ。”摂食障害と会食障害をもっていて1人の時か自分の前以外では食べてくれないから”と周りの看護師に伝え、患者の元に通っても怪しまれない立場を手に入れることが出来たためこんなことも怪しまれずにできる。
食べやすいようにと普通より細かくかつ柔らかく煮た魚の煮付けをスプーンの上に乗せ口へと運ぶ。
「はい、あーん」
素直に開けられた口から覗く赤い舌にスプーンを乗せる。無意識にも情欲を煽る猿山に対してなかむの独占欲は数倍の大きさまで膨れ上がったことを猿山は知らない。
Σ
上記の出来事から幾分かたった日の深夜1時、医者や看護師の待機場所のような役割をしているナースステーションにひとつのコールが入った。聞きなれたその音は相変わらず甲高く鳴り響いている。焦りを顕にしながらひとつのライトが光る機器に視線をやった看護師がなかむへと声を掛けた。
「なかむ先生、304号室の患者さんからのコールです。」
「…あぁ、はい。すぐに向かいますね」
椅子から立ち上がりすぐさま病室へ向かう。弧を描く口元を袖で隠しながら304の扉を開けるとぶわりと甘いフェロモンがなかむを包み込んだ。甘党のなかむにとって1番と言っていいほど欲をそそられるそれ枕を抱きしめ体を丸めている猿山から溢れ出てきている。
「なかむ、さぁ?」
「もう、大丈夫ですからね」
デフォルトより長い袖の白衣で包み込むように日々の日課になったハグをする。首元に鼻を寄せ深く深呼吸をすれば神経から痺れるような感覚に陥った。孕ませたい、コレは俺のΩだと本能が発している。
「ん、ふぅ」
「きついですか」
「ちょっと、つらいです」
血色の悪い體が全身赤に染まり、触るだけでも熱いほどになった体温からギリギリまで我慢していたことを察するのは容易い。背中を優しく撫でてやれば、なかむの耳元で意味をなさない母音がこぼれた。
「猿山さん」
「はい、……ぁえ?」
優しく白いシーツに押し倒す。不思議そうな顔をした猿山の患者衣の間に手を差し込みながらなかむは猿山に接物を落とした。
(あぁ、やっと)
喉から手が出るほど欲しかった物を手に入れられたことへの喜びか、なかむは抵抗することのなくなった雌をうつ伏せにし、首裏へと舌を這わせた。
「ぃ”あ”っ……」
盗られてなるかという感情を精一杯込め白く輝くそこに歯を這わせた。途端に濃くなったフェロモンの強さに目眩が起こるがそれすらもその後の行為の言い訳に使えばいいと自己に暗示を掛ける。夜は開けることの無い闇へと変貌した。