自分の寝室に戻り、眠りについた。全く眠れない。あの時、たくさん寝たからだろう。
ベッドから這い出て気分転換に庭へ行くと、一人の男が立っていた。その男にそろそろと近づく。挨拶をされた。
「やあ、初めまして」
「どちら様ですか?」
「さあ、君は知らなくていいよ」
背後にいた大男たちに口を塞がれてしまい、睡眠薬を嗅がされる。そのまま意識が遠のいていき、気を失ってしまう。
目が覚めると、ベッドの上に寝そべっていた。しかもその場所はかなり寒くて震え上がるほど。体を縮こませて小刻みに震えていたら、スピーカーから声がする。
「ようこそ、新人の人間の皆さん。あなた達はモンスターになってもらいます」
「はっ!?ふざけるな!僕はモンスターになりたくない」
そう叫んだとしても、スピーカー越しなので聞こえていない。
モンスターになれば我を忘れて欲に溺れてしまう。そうなって仕舞えば制御することはできず、欲のまま行動することになる。食欲だったり怠惰欲だったり。
だから悟はここから出ることに決めた。ここから出て、いつもの生活を送ってやるんだ。
そう決意した瞬間扉が開き、モンスターの一人が入ってくる。目が一つしかなく、手足が何本もあるモンスターだ。
「悟くんはモンスターと人間の両方のオーラを感じるから、後回しにします。それよりも儀式を見にいきましょう」
「儀式?」
理解できずに彼女についていくと、そこには他の人間達も並んでいた。
真ん中にある小さな部屋に人間が閉じ込められている。「出せ!」と叫びながら助けを求めていた。科学者はその声を無視して一人レバーを引くと、シャワーから黒い雨が降り注ぐ。
それに打たれた人間は鋭い爪が生え、足がタコのように長くなっていく。肌も緑色に変化して鱗が生え、鋭い牙が口から生えてくる。どうやら手のある蛇男になったようだ。
周りの人たちは皆暗い顔をして見ていた。なんのリアクションも取らず、何も喋らない。まるで魂が抜けたように口を開かない。人間がモンスターになる様子を見れば、叫びや呻き声を出すはずなのに。
気味が悪くて、顔が真っ青になる。
小さな扉を開くと、蛇男が出てきた。それに一人の女が放たれて、彼は首を噛み彼女に毒を入れた。女はそのまま抵抗するわけもなく、意識をなくして倒れてしまった。毒が強くて死亡する。
しかしその様子を見ても無反応で、なんの行動も起こさない。驚くことも悲しむこともなく、ただ処理されていく物体を眺めていた。
そんな中、驚いている人間が三人いる。最近やってきたばかりの新人だ。人が倒れたのを見て、驚き慌てている。この反応が普通である。
特に夏人は困惑していた。
「ひっ!こんなのってないっすよ。死にたくない!」
「それは言えてるな」
悟が頷くと、夏人に泣きつかれた。
「助けてくださいよ!」
「と言われてもな……僕と一緒に脱獄する?」
「はい!脱獄しましょう」
そんな会話をしていたが、聞かれてしまったようだ。夏人の目の前に蛇男がやってくる。彼は逃げ惑うように逃げたが逃げられず、蛇に噛まれてしまう。毒を流し込まれてしまい、そのまま気を失った。死んではいないが、他の人と同じように無表情になる。
怖くなった悟は立ち上がる彼に恐る恐る声をかける。
「夏人……?」
「…………」
何も答えることはなく、そのまま部屋に戻ってしまう。噛まれた場所は緑色に染まり、そして見えていないのか無視する。
スピーカーから男の声が響いた。
「では皆さん、お帰りください」
「な、なあ。これ現実なんだよな」
篤人に声をかけられて、こくりと頷く。彼は青ざめた顔のまま、視線をずらす。
どうやら脱獄の話は出さない方がいいようだ。もし脱獄してこのことが記事にされたりでもしたら、問題になるからだ。
ここにいる人間は全員行方不明とされていた人たちが集められている。そして人間からモンスターに変える実験をしているのだ。とても非人道的で、受け難いものだ。絶対に許せない。
両方の握り拳を握りしめた。
部屋に戻ると、昼食が用意されていた。
大量の麦飯と漬物、そしてレタスときゅうりのサラダ。器たっぷりのシチューに、牛乳だ。
お腹が空いていたので食べると、とても美味しく病みつきになりそうな味がした。特にシチューは濃厚で、チーズの味わいが口の中で広がる。全てを平らげてしまった。
食べ終わった後はモンスターがやってきて、労働場所に連れて行かれる。そこはたくさんの人間が働いていて、皆目が死んでいた。
「ここが仕事場です。仕事内容はここの地面に穴を掘ってください。そして掘った穴にまた土を被せてください。これが仕事です」
それを聞いて意味のない仕事を永遠とやらされることを知り、逃げ出したくなった。しかし逃げれば殺されるかモンスターにさせられてしまうだろう。仕方なく従うことにする。
穴深く掘っていき、そしてまたそれを埋める作業を何度も繰り返さられる。頭がおかしくなりそうだ。それに水を運ぶ仕事もさせられたが、それも意味がない。
ただ土を濡らすだけであり、持ってきた理由もない。こんな仕事をずっとさせられると、気が狂いそうになってくる。逃げ出したい。