篤人を部屋に招き入れて、会議をすることにした。悟が最初に口を開く。
「こんなところにずっといたら、洗脳されてしまう」
「ああ、そうだな。だけど脱獄をすると捕まってしまうんだろ?」
「ああ、その通り。この監獄の監視はきっちりとしていて、しかもその中には行動を全て把握してくるモンスターもいる。そいつに目をつけられたら大変なことになる」
もしもの架空の話をしたが、彼は信じているようだ。うーんと唸りながら考える。そして閃いたのか、指パッチンをする。
「じゃあどうすればいいんだよ。あ、ひとつ思いついたぜ。お前がモンスターになりすますんだ。お前、この前猫耳と尻尾を生やしていただろ。それでいけるって」
そう言われたとしてももう一人の自分をどうやって出すのかいまだにわからない。寝たら移り変わるわけではなく、何らかの危機的状況になったら現れることが多かった気がする。
その意見を否定する。
「うーん、難しいな。危機的状況にならないと、多分入れ替わってくれないと思う」
「今も危機的状況だろ!?」
「そうなんだけど、体がまだ言うことを聞いてくないからさ。変身しないよ」
「はぁ……使えねえ」
その上から目線の言葉に怒りが湧いてきた。
自分はモノでもないし、利用価値で決められるほど単純ではない。その言葉に言い返す。
「そうかよ。だったら篤人がすればいい」
「え……俺?」
いきなり振られてキョトンとした顔をする。
自分の言葉には責任を持つ必要があると、学校で教わったことがある。だから、自分が言ったことをそのままそっくり言われても文句は言えまい。
篤人はため息をつき、作戦を実行することにした。なんの考えもなしに強行突破だ。それが一番楽だ。なぜなら彼はめんどくさがりで、楽に終わらせたい主義だから。
しかし、悟は強行突破はやめろと切羽詰まった声で言った。そうすれば捕まってしまう確率は高まり、モンスターにさせられてしまう。まさか……。
「俺がモンスターになって、外から出るんだ。それならば、脱出できる!」
思っていた通りのことを言い、血管を浮き上がらせながら強く訴える。
「何考えているんだ!そんなのできるわけないだろ!」
吠え立てて彼を止める。
モンスターになって仕舞えば、自我をなくす。真央のような欲以外のこともするという例外も存在するが、それ以外は欲に従って生きることになる。脱出したいという欲が残っていればできるかもしれないが、なければ難しい。
そのことを伝えたが、彼は意見を変えない。モンスターになったとしても、一緒に脱出しようと考えていた。
「止めるなよ。俺はするから。ゲームでは余裕だったしな」
「ゲームと現実は違うからな」
ツッコミを入れたが、全く聞く耳を持たない。
篤人は生き生きとした表情で、部屋から出る。
相変わらず扉がついていないトイレと、薄い布団しかない硬いベッドは健在だ。寝心地が悪く、どうしても寝付けない。枕も鉄の硬さだ。
寝そべっていたら、檻の横を黒い服を着たモンスターが横切る。ピチピチの服に耳を包んでいるのは、目が一つしかないサイクロプスに似ている。赤い角は二本だが。
何があったのだろうか?あの服は確か、殺し屋が着ていたものと似ている。
調べたいが、ここから出ることはできない。出たいならば、他の科学者に言わなければいけない。しかし、万が一の場合以外出ることは不可能。
目を閉じて、浅い眠りにつく。わからないことを考えてもしょうがない。
次の日。篤人は仕事が始まる時に強引に科学者たちを薙ぎ倒し、出口から出ようとする。しかし科学者の量は多く、篤人に敵うわけがない。そのまま実験室に連れ去られてしまう。
カプセルに閉じ込められて、黒い雨を浴びせられた。そして篤人はモンスターになってしまう。
カプセルから出てくる、気味の悪い怪物が出てくる。体全体にCDを貼り付けていて、手がハサミになっていた。足はコンパスのように鋭い針になり、耳にはヘッドホンをしている。
彼の能力は人々に音楽を聴かせると、洗脳できる力。そして音楽の力で攻撃することができる。
「グフフフ……みんな洗脳して、僕の子分にしてやる」
ニコニコと微笑み、そのまま実験室から科学者に連れられて歩く。そして、人間のいる檻の中に放り込まれる。
彼らは行方不明者だ。モンスターにやられる餌になった。そこにいる人間にヘッドホンをつけて洗脳させ、ナイフを持った彼らを自滅に追い込む。檻の中は血まみれになった。立派なモンスターになってしまったのだ。
目を覚ますと、いつものように仕事をする。仕事場には悟と女八人と男六人いる。後の人間は実験体となるのだ。
実験体になる条件は、ただ一つ。モンスター適合があるかないかだ。ない場合はモンスターの餌になる。黒い雨に打たれたら必ずしもモンスターになるわけではない。ならずに灰のようになってしまう者もいる。
仕事場もいくつかに分かれているし、人間全員がここにいるわけでもない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!