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刀鍛冶の里へ
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炎柱の煉󠄁獄さんが、上弦の参と戦い、命を落とした。
記憶を保てない無一郎くんのことも気に掛けてくれて、彼を追って鬼殺隊に入った私のことも、煉󠄁獄さんはたくさん可愛がってくれていた。
明朗快活で温かな彼のことを、私は兄のように慕っていたし、心から大好きだった。
一緒に任務にあたっていた炭治郎くん、善逸くん、伊之助くんは己の弱さに打ち拉がれてしばらく落ち込んでいた。悲しくて悔しくて。お見舞いに行った私も、堪えきれず彼らにつられて泣いてしまった。
でもいつまでも悲しんでちゃいけない。失っても喪っても、私たちは、鬼殺隊は、前を向いて戦い続けなければならないの。それは剣士も隠も同じ。
炎柱の訃報から数ヶ月後。炭治郎くんと善逸くんと伊之助くんは、音柱の宇随さんと共に、遊郭に潜んでいた上弦の陸を倒した。
けれど、宇随さんは左目と左腕を失い、柱を引退することとなった。これからは3人の奥様たちと、穏やかに暮らすのだそう。
9人いた柱は、7人になってしまった。かつて煉󠄁獄さんと宇随さんがいた席は空いたまま。誰か柱に相応しい者を…といっても、なかなかそんな隊士がいなかった。
そんな中、ありがたいことに再び私のもとに柱就任のお声が掛かった。
でも、少し前の上弦の伍と戦った時に受けた毒のせいか、左の膝から下に痺れが残ってしまった私。立てるし歩けるし、日常生活に支障はないけれど、咄嗟の時に全身を満足に動かせないことで皆の足を引っ張りたくない。そのことを打ち明けると柱の穴埋めの話は振り出しに戻ったのだった。
「ねえ、茉鈴」
『時透様。どうなさいました?』
「刀が大分刃こぼれしてるから打ち直して欲しいんだけど、いい刀匠知らない?」
何度も刀鍛冶の里へ行っている無一郎くんだけれど、覚えていないので毎回聞いてくる。
『それでしたら、刀鍛冶の里でお願いしましょう。鬼殺隊員の日輪刀を打ってくれるところです。明日早速、里に連絡しますね』
「うん。頼むね」
次の日、霞柱が刀鍛冶の里へ赴くことを鴉たちや案内役の隠に伝える。
「茉鈴は一緒に行かないの?」
『里へは何人もの隠が交代でお連れするので、私の分まで人を手配すると大変なんです。私はここで時透様のお帰りをお待ちしています』
「そうなんだ……。分かった」
その日のお昼前から無一郎くんが出発するので準備を整える。
『時透様。刀鍛冶の里には温泉が湧いているそうですから、ゆっくり浸かっていらしてくださいね』
「温泉…….。いいね」
無一郎くんが微かに目を輝かせた。
「それでは霞柱様。里へと参りましょう」
「うん。……茉鈴」
『はい』
「帰ってきたらまたふろふき大根食べたい」
『作ってお待ちしていますね。お気をつけて』
「うん。行ってきます」
『行ってらっしゃいませ』
無一郎くんは目隠しをして、案内役の隠におぶわれて刀鍛冶の里へと出発した。
何となく胸の中がざわつく。
どうしてだろう。無一郎くん、里へは何度も行っているのに。
言いようのない漠然とした不安が頭の中に渦巻く。
…きっと気のせいよ。刀鍛冶の里は厳重に守られているもの。案内だって何人もの隠によってされているし、里を常駐で警備している隠だってたくさんいる。大丈夫。大丈夫よ。
私はそう自分に言い聞かせて、主不在の霞柱邸で普段手の届かない部分の掃除に取り掛かった。
目隠ししているから何も見えない。何人もの隠に交代でおんぶされて、揺られて。いつの間にか眠っていたみたい。
隠の声で目を覚ましたら、いつの間にか刀鍛冶の里に着いていた。
現地の人に案内され、里長に挨拶する。
僕の担当の鉄井戸って人は少し前に病気で死んでしまったらしく、新しく担当になったのは“鉄穴森”という人だと聞かされた。
宿でひと息ついてから、案内された温泉に浸かる。気持ちいい。身体の芯から温まった。
温泉から出た後は宿に戻ってごはんを食べる。美味しいけれど、普段茉鈴が作ってくれるごはんが恋しいと思ってしまった。
里に滞在中、竈門炭治郎という隊士に会った。彼が言った言葉がどこかで聞き覚えのあるもので。
けれど話している最中、上弦の鬼と対峙し戦うことになった。
どうやら先程吹っ飛ばされた鬼とはまた別の鬼もやって来て里を襲っているらしい。
“玉壺”と名乗る上弦の伍の鬼と対峙し、僕は苦戦を強いられた。
身体に刺さった毒針で全身がズキズキ痛む。
壱ノ型の突き技でも破れない水の鉢に閉じ込められ、段々と空気が薄れ、朦朧とした意識の中で、懐かしい赤い瞳の人物が僕に語り掛けた。
小鉄くんが送り込んでくれた空気が肺に満ちていく。
思い出した。両親のことも、兄のことも、大好きな幼馴染みのことも。何もかも全部。
弐ノ型で水の鉢を脱出した。
“無一郎の無は無限の無”
有一郎の言葉が頭に蘇る。
それと同時に、全身が、頬が、カッと熱くなった。
思い出せ、あの煮えたぎる怒りを。
最愛の兄の死を目の前に、僕は手を握ることしかできなかった。
悲しくて悲しくて胸が張り裂けそうで。僕はそれから記憶を閉ざした。
自分を気に掛けてくれていた前任の刀鍛冶の顔と言葉が脳裏に蘇る。
鉄井戸さん、ごめん。心配掛けたなあ。でももう大丈夫だよ。全部思い出したから。自分が何者か分かれば、両の脚を力いっぱい踏ん張れる。
早くこの気色の悪い鬼を倒して帰るんだ。茉鈴が待っている屋敷に。
茉鈴……。僕は今、君が1人で戦った鬼と対峙しているよ。絶対倒すから。こいつの毒のせいで茉鈴は左足の自由が効かなくなってしまった。再び柱就任の声が掛かるくらい強いのに、足のことが原因でその話は流れてしまった。悔しい。
大事な幼馴染みを傷つけたこいつを、僕は絶対に許さない!何としてでも倒す!
“真の姿”を現した上弦の伍。ますます気色悪い。
この姿を見せたのは僕で3人目だとのこと。僕の前に見せたのは柱の屋敷にいた琥珀色の瞳の小娘だと言っていたから、茉鈴が2人目で間違いないだろう。
さっさと倒さなくちゃ。
「ねえ、君はさ。どうして自分だけが本気じゃないと思ったの?」
漆ノ型で相手を惑わせ、僕はついに鬼の頸を斬り落とした。
醜く罵詈雑言を吐き散らす上弦の伍。不快で仕方ないので奴の言葉の途中で残った頭部を粉々に斬り刻んだ。
ああ、終わった………。
毒が回った身体に限界が来て、僕は泡を吹いてその場に倒れ込んだ。
鉄穴森さんと小鉄くんが何やらわちゃわちゃしているのが遠い意識の彼方で聞こえる。
“ほら、全部上手くいった”
懐かしい声が聞こえた。見上げると、大好きな父の姿。
隣で優しく微笑む母さん。
そして。
“無一郎…、頑張ったなあ……”
兄さん…!
会いたくて堪らなかった大好きな家族。僕の目からは熱い雫が零れて鼻筋を伝い、地面にしみを作っていった。
声が聞こえた先を見ると、炭治郎と禰豆子が上弦の肆を追いかけているところだった。
炭治郎、刀は!?
僕は鋼塚が一心不乱に研いでいた刀を奪い取り、炭治郎に向かって力いっぱい投げた。
「炭治郎!!それを使え!!」
炭治郎は僕が投げた刀を握り、ついに上弦の肆を倒した。
太陽に灼かれてしまったと思った禰豆子が、とことこと炭治郎の元へ歩いていく。それを見て泣きながら禰豆子を抱き締める炭治郎と、もらい泣きする里の人たち。
小鉄くんたちの肩を借りながら僕も彼らの元へ行く。
「炭治郎、ありがとう。君のおかげで大切なものを取り戻した」
心からの感謝を彼に。
そこへ桃色のヒヨコの甘露寺さんが駆けてきて、崖を下りてきた玄弥も合流して。
甘露寺さんが僕たちをいっぺんに抱き締めて、勝利の喜びを分かち合った。
茉鈴…!勝ったよ……!
早く帰りたい。茉鈴に会いたい。
今回の戦いの件は、きっと鴉たちから本部に伝達が行っているだろうから。知らせを聞いて茉鈴も心配しているかもしれない。
里が襲撃されてしまったので、里の人たちは大急ぎで空里に移動するらしい。
僕たちもまた目隠しをして、案内役の隠におんぶされて、刀鍛冶の里を後にした。
続く