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ただいま
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刀鍛冶の里から帰ってきた、無一郎、蜜璃、炭治郎、禰豆子、玄弥。
禰豆子を除きそれぞれが負傷していた為、しばらく蝶屋敷で治療を受けることとなった。
玉壺の血鬼術によって受けた毒で、無一郎は高熱を出して寝込んでいたが、 ふわふわした意識の中で、今自分がいちばん聞きたかった人物の声が聞こえていたのを覚えている。
茉鈴は無一郎が帰ってきてから、寝込んでいる彼のところに1日2回程通って彼の世話をしたり手を握ってやったりしていた。
3日目の朝には無一郎と蜜璃は蝶屋敷を後にし、それぞれの家へ戻っていった。
ガラガラッ
「えっ、霞柱様!?」
「おかえりなさい。お身体はもういいのですか?」
屋敷の掃除をしていた隠が驚いたように無一郎を出迎えた。しかし、茉鈴の姿が見当たらない。
「うん、ただいま。…茉鈴は?」
「宝生さんでしたら、今日も霞柱様のところに行くと言って蝶屋敷へ出掛けましたよ」
「えっ、そうなの?」
「はい。すれ違いになってしまいましたね。でも気付いてすぐに帰ってきますよ……って、霞柱様!?」
隠の言葉を最後まで聞かず、無一郎は屋敷を飛び出し、もと来た道を走った。
茉鈴……!
霞柱邸から蝶屋敷へは二通りの道がある。恐らく、茉鈴も無一郎もそれぞれが違う道を通ったのだろう。
無一郎は分かれ道から先程の道と違うほうを進んだ。
そして、ようやく幼馴染みの姿を見つけた。向こうも気付いたようだ。
「茉鈴!」
『あっ、時透様!』
駆け寄る2人。普段と異なるのは、無一郎がそのまま勢いよく茉鈴を抱き締めたこと。
『えっ…、と、時透様?お身体はもうよろしいのですか?』
「…うんっ…、大丈夫……」
なかなか離してくれない無一郎に、茉鈴は何事かとそっと背中を叩く。
「茉鈴…、ごめん、ごめんね……」
『…?』
ようやく身体を離した無一郎。その目は涙で潤んでいた。
『時透様?』
「お願い、茉鈴。むいちろう、って呼んで。……僕ね。記憶が戻ったよ」
『えっ!?』
驚きのあまり声がひっくり返る茉鈴。覆面から覗いた琥珀色の瞳が大きく見開かれる。
「全部思い出したんだ。父さんのことも母さんのことも、兄さんのことも。茉鈴のことも。全部。…ごめんね、忘れちゃってて。茉鈴はずっと僕の傍にいてくれてたのに…」
『…………』
無一郎の話を聞き、黙ったまま俯く茉鈴。その肩が小刻みに震えている。
茉鈴、怒ってる?
無理もないよね。記憶を失くした僕を一生懸命支えてくれてたけど、自分のこと忘れられるってものすごく寂しい筈だ。しかも今更思い出したとか言われたって。
「…茉鈴……、あの…」
『……に?』
「え?」
『…ほんとに、私が分かるの?“無一郎くん”』
ひどく懐かしい、自分を呼ぶ声。姓に“様”付けではなく名前で。
顔を上げた茉鈴の瞳から大粒の涙が零れ落ちて、覆面の布に吸収されていく。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
惜しげもなく涙を流す茉鈴。それを見て堪らず無一郎も泣き出した。
「うん、うん…っ、分かるよ!…君は宝生茉鈴。僕たちが住んでた山の麓の村にある商店のひとり娘…!僕の、大好きな幼馴染み!」
涙で声が震える。
無一郎の言葉に、茉鈴が顔を手で覆った。小さく嗚咽が漏れる。
そんな彼女を、無一郎は再びぎゅっと抱き締めた。山に住んでいた頃はまだ茉鈴のほうが背が高かったのに、今では自分のほうが大きくなっていた。
「茉鈴、ごめんね!ずっと、ずっと、僕の傍にいてくれたのに。支えてくれてたのに。…忘れちゃっててごめん。ほんとにごめん!…許して、茉鈴…」
『…うっ……、無一郎くんっ…』
茉鈴が無一郎を抱き締め返した。
いつか記憶が戻ると胸の中にあった淡い期待。それと同時にこのまま自分を思い出してくれないかもしれないと、ほんの僅かに諦めていたのも正直な気持ちだった。
そんな中、全部思い出したと言う無一郎。夢のような今の状況に、涙はなかなか止まってくれない。
『よかった!…ほんとによかった…!』
「茉鈴っ…、 今までいっぱいありがとう。ほんとにありがとう。もう忘れない。絶対に忘れない…!」
そっと身体を離した。2人とも目が真っ赤だ。
『嬉しい……。思い出してくれて。ほんとによかった…』
「怒ってないの?」
『なんで怒るのよ……。嬉しくて仕方ないわ』
茉鈴が指先で涙を拭う。でも拭ったそばからまた雫が零れてくる。それに構わず茉鈴が涙の残る瞳で微笑んだ。
『おかえりなさい、無一郎くん』
「!…ただいま…っ」
再びお互いを強く抱き締め合った。
『…里が襲撃されたって聞いて。すごく心配してた。みんななんとか帰ってきてくれたのはよかったけど、無一郎くん傷だらけだし熱は高いし。気が気じゃなかったよ』
「ごめん。戦いの中で全部思い出して。茉鈴を傷付けた鬼、上弦の伍…だったよね?あの下手くそな壺の気色悪い奴。倒したよ。茉鈴のことも覚えてたみたい。あんなの相手にしたんだね。茉鈴はほんとにすごい」
『ううん。結局逃げられちゃったから。…無一郎くんがあいつをやっつけてくれたのね。よかった。ありがとう。さすが柱ね』
抱き締め合ったまま会話をする2人。
『……無一郎くん、お腹空かない?』
とんとん、と茉鈴が軽く無一郎の背中を叩いてたずねる。
「お腹空いた。茉鈴が作ったごはん食べたい」
目と鼻を真っ赤にした顔の無一郎が答えた。
『お屋敷に帰ってお昼ごはんにしよう。もう仕込みは終わってるから温め直すだけなんだ』
「そうなんだ。ありがとう」
そこでようやく身体を離す。頬に残った涙を拭い、2人はぎゅっと手を繋いで霞柱邸へと歩いていった。
無一郎の屋敷に着いた。2人して泣き腫らした顔をしていたので、他の隠が驚いてどうしたのかとたずねてきた。
事情を説明すると、2人の関係性を知る者はよかったよかったと泣き、知らなかった者もつられて泣いた。
午前中の早い時間に仕込んでいた昼食を温め直す茉鈴。
器に盛りつけ、食卓に並べる。今日も無一郎の大好物のふろふき大根が大皿に乗って机の真ん中に鎮座していた。
「いただきます」
料理を口に運ぶ無一郎。
「美味しい!」
記憶がなかった頃には見られなかった、歳相応の少年の顔。
「…っ、ほんとに美味しい…!茉鈴の作るごはんがずっとずっと大好きだった…」
食べながら無一郎の目から涙が溢れ出す。
それを見てもらい泣きする、茉鈴と他の隠たち。
『嬉しい。…もう、いま涙腺が緩みまくってるんだから……。ちょっとしたことで泣いちゃう…』
「2人とも泣かないでくださいよ〜!」
「こっちまで泣いてしまいますよ」
その場にいる全員が泣いて、もう大変な状況になった。
「…ふふ…、ごめん。みんなも一緒に食べよう。茉鈴の料理すごく美味しいんだから 」
「よく存じていますよ」
「今日はお言葉に甘えますか」
「いただきまーす!」
霞柱直々の誘いに、他の者も涙を拭いて食卓についた。
『今日はいつもより多く作っちゃったんです。でもよかった!おかわりもありますからいっぱい食べてくださいね』
まだ少し瞼の腫れが残った茉鈴が嬉しそうに目を細めた。
柱も隠も関係なく食卓を囲んだその日の昼食は、その場にいた全員にとって特別な思い出となったのだった。
続く
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この作品ほんとに面白すぎて600いいねおしときましたー!! 続きまってますねー!☺️💗