クリスマスプレゼント
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次の日。
お姉ちゃんはバイトのお休みをもらって心療内科を受診した。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)のケアの為だ。
僕たちも一緒に行ってあげたかったけど、母さんが付き添うことになった。
「…お姉ちゃん大丈夫かな」
「母さんが一緒ならきっと大丈夫だろ。…お姉ちゃんにあげるクリスマスプレゼント買に行くか?」
「そうだね。もう明々後日がクリスマスイブだもんね」
仕度をして、兄さんと一緒に買い物へ出掛ける。お姉ちゃんもお気に入りの雑貨屋さん。
ハンドクリームのコーナーに足を運ぶ。
兄さんがこの前、しれっとお姉ちゃんの香りの好みとかをリサーチしておいてくれたから選びやすい。
候補は、柑橘系、金木犀、桃、苺の香り。
置いてあるテスターの匂いを嗅いで回る。
「ん〜……。なんかさ、同じ桃の香りでもちょっとずつ違うよね」
「それ俺も思った。どれにしようか……」
色んなメーカーがそれぞれで同じ香りのハンドクリームを発売しているから結局迷ってしまう。
しかも片っ端から匂いを嗅いでいるから、何が何だか訳分からなくなってきちゃった。
それは有一郎も同じみたいだ。
「…もう香りは1つに絞ろう。で、最終的にテクスチャーとかで決めよう」
「そうだね。何の香りで選ぶ?」
「苺にしよう。お姉ちゃんが作ってくれるジャムみたいな美味しそうな香りの」
お姉ちゃんの苺ジャム美味しいよね。
「分かった」
「何かいいアピール文が書いてあったらそれも重視で」
「うん」
僕たちは一旦お店の外に出て深呼吸し、鼻の中をリセットしてきた。
そして再びハンドクリームのコーナーへ。
“苺の香り”と書いてあるハンドクリームのテスターの匂いを嗅いでは戻し、嗅いでは戻し、を繰り返す。
そしていいと思ったものは手に出し、塗ってみた感じでまた候補を絞る。
そしてようやく、僕と兄さんの意見が合致した商品と出会った。
「あーよかった。…でもハンドクリームだけだと物足りないよね。何か他にもプレゼントしない?」
「そうだな。形に残るものがいいよな」
2人で選んだハンドクリームを買い物カゴに入れて、お店の中を見て回る。
「何がいいかなあ」
「うーん」
アクセサリー、メイク用品、お姉ちゃんが好きなキャラクターのグッズ、可愛いマグカップ、マフラーや手袋、部屋着……。
色々見れば見る程迷ってしまう。
「…前にあげたものと被ってもべつにいいと俺は思うんだけど、どう思う?」
「僕もそう思う。お姉ちゃん何あげても喜んでくれるし。…兄さんは何をあげようと思ったの?」
「んー…何かあったかいやつ。お姉ちゃん寒がりの冷え症だから」
そう。冬のお姉ちゃんの手足は触れたこっちが驚いて飛び上がるくらいに冷たい。
そして寒がりなお姉ちゃんは家の中でもマフラーを頭と耳まで覆って巻いている。“マチ子巻き”ってやつだ。あったかいんだよ、と言ってぬくぬくで笑うお姉ちゃんも可愛いんだけどね。
「じゃあさ、何年か前にプレゼントした部屋着が大分くたびれちゃってるから、それにしよう」
「そうだな。もっとあったかいの買ってあげよう。めちゃくちゃ大事にしてくれてて嬉しいけど、もうそろそろ新しいのに替えたっていいよな」
「うん!」
僕たちは温かいグッズのコーナーに移動して、お姉ちゃんの新しい部屋着を選ぶ。
外側も内側もふわふわで、その上、静電気防止加工がされていて、襟は首が開かないデザインのもの。
それと、ふわふわの靴下も一緒に買った。
ハンドクリームも一緒にまとめてラッピングしてもらい、お姉ちゃんへのクリスマスプレゼント選びは無事に終わった。
帰宅すると、お姉ちゃんと母さんが先に帰ってきていて、晩ごはんを作っていた。
お姉ちゃんへのプレゼントの袋を速やかに有一郎の部屋に隠す。
階段を下りると、キッチンからお姉ちゃんがひょこっと顔を覗かせた。
『あ、2人ともおかえり』
「ただいま。お姉ちゃんたちもおかえり」
「病院どうだった?」
『ただいま。定期的にカウンセリングを受けることになったよ。お守り代わりに抗不安薬も処方してはもらったけど、とりあえず今のところは飲まなくても大丈夫そう』
「そっか、よかった」
お姉ちゃんはいつもの明るい表情でスープを掻き混ぜている。
「有一郎と無一郎は手洗いうがいしたの?」
「あ、まだだった」
「すぐしてくる」
母さんに言われて、僕たちは洗面所へと駆けていった。
晩ごはんの時間。
仕事から帰ってきた父さんも一緒に、5人で食卓を囲む。
「苺歌、有一郎、無一郎。クリスマスプレゼントは何が欲しい?」
父さんが聞いてきた。
「俺は新しいスニーカーが欲しい」
「僕はコートがいいかな」
「分かった。24日は休みが取れたから、プレゼントを買いに行こうか」
「「うん!」 」
僕たちは去年、サンタさんの正体を知らされたから、今年のクリスマスからは普通に欲しいものを買いに連れて行ってもらうことになった。
「苺歌は?」
『私?その日はバイトだから一緒に行けなさそうなの』
「ああ、それは残念なんだけど、そうじゃなくて。欲しいものは?」
『特にないよ』
即答するお姉ちゃん。
「苺歌。毎年そう言ってるけど……、我慢しないで欲しいものを教えて?我儘言っていいのよ?」
母さんが困ったように眉を下げる。
『うーん。ほんとに欲しいものが浮かばないの。気を遣ってるってわけじゃないんだよ』
父さんと母さんが顔を見合わせる。
「…ほら、可愛いアクセサリーとか、ブランドのバッグとか、何かないのかい?」
『アクセサリーはお気に入りのがあるし、ブランドにも執着ないからなあ……』
お姉ちゃんも困った顔で笑う。
『それにね』
にっこり笑うお姉ちゃん。
『欲しいものはもう既にもらったから、ほんとに何も要らないの』
「「「?」」」
『このお家に来た時にもらったよ。…私ね、“家族”が欲しかったの。お父さんとお母さんと、弟が2人もできて。ものすごく素敵な家族ができたから、私もう何も要らないの』
お姉ちゃんの言葉に、母さんが目を潤ませる。
『…施設での生活も楽しかったよ。お兄ちゃんもお姉ちゃんもいたし、弟も妹もいたし。先生たちも優しかった。でも私、時透家の一員になって、今がほんとに幸せ。ありのままの私を受け止めてくれて。…このお家に来たあの日から、一生分のプレゼントをもらったと思うくらい毎日幸せなの』
「…っ…苺歌……」
お姉ちゃん……!
堪えきれずに涙が溢れる。
母さんも有一郎も泣いている。
父さんだけは涙を零さないように辛うじて瞼の淵でとどめていた。
『…もう…泣かないでよ〜!』
お姉ちゃんが困り顔で僕たち4人にティッシュを差し出す。
「苺歌。そう思ってくれるのは嬉しいけど、“何も要らない”はナシだ。欲しいもの言ってくれなきゃ、苺歌の苦手な空豆を大量に買ってきちゃうぞ」
にやりと父さんが笑う。
それを聞いたお姉ちゃんが慌てふためく。
『あっ、そ…それは勘弁して!空豆は皮はどれだけでも剥くけど、食べるのは無理!』
「じゃあ、欲しいものを何か絞り出して教えてちょうだいね」
涙を拭きながら、母さんも笑う。
『うーん……。じゃあ、ネットを色々見てみて考えるね』
「分かったわ」
「金額も気にせず言うんだよ」
『うん。ありがとう』
ネットを見ないと思い浮かばないくらい、お姉ちゃんは物欲がないのか……。
『あ』
何かを思いついたようにお姉ちゃんが口を開いた。
『24日お買い物に行くなら、ついでにクリスマスケーキ買いに来てね!お店の外でも販売してるから』
お姉ちゃん……。
「宣伝しなくたって、ちゃんと買いに行くよ」
僕が思っていたことをそっくりそのまま、有一郎が口に出す。
「苺歌。ケーキの件は別よ。分かった?」
『はぁい』
だめか〜、と言わんばかりに、お姉ちゃんが笑った。
12月24日。クリスマスイブ。
その日は午前中に終業式があって、給食なしで帰ってくる。心待ちにしていた冬休みの始まりに、みんな浮き足立っていた。
学校が終わり帰宅して、急いで昼食を済ませて、4人でショッピングモールへ。
案の定、たくさんの人で溢れていて少し疲れたけど、無事に目当てのものを買ってもらえた。
帰りに、お姉ちゃんが働くケーキ屋さんに立ち寄る。
「クリスマスケーキ、いかがですか〜!」
「家族や恋人と、お友達と、お一人様用もございまーす!」
同じ制服を着たお姉さんたちが呼び込みをしている。
『いらっしゃいませ!』
よく知っている声が聞こえてそちらを見ると、白い息を吐き、鼻の先を赤くしたお姉ちゃんがいた。
『ありがとうございました!素敵なクリスマスを』
ケーキを買ったお客さんに、とびきりの笑顔を向けて見送っている。
いつものバイトの制服に、サンタクロースの衣装のような赤と白のポンチョを羽織って、頭にはサンタ帽を被ったお姉ちゃん。足元は普段のローファーではなく、編み上げのロングブーツを履いていた。
「苺歌、お疲れ様!」
「苺歌〜!可愛いぞ!」
『あっ、いらっしゃいませ!来てくれたのね』
父さんがお姉ちゃんの写真を撮りまくる。
『ちょっ…お父さん恥ずかしいからっ…!』
慌てたように牽制するお姉ちゃん。
「いや、だってクリスマス仕様の制服の苺歌が可愛くてさあ」
父さんが口を尖らせる。
ほんと娘大好きだよね。
「苺歌、その格好はクリスマス限定?」
『うん。今日と明日の2日間だけなの』
「お姉ちゃん可愛い!」
「ちゃんとあったかくしてる?」
『ありがとう。カイロは背中とお腹に2つずつ貼ってるよ。でも顔とか耳とか首が寒くて。マチ子巻きしたい』
その格好にマチ子巻きかあ……。あったかいだろうけど面白い姿になっちゃいそう。
「さ、クリスマスケーキ、どれにする?苺歌も忙しいだろうから、ぱぱっと決めて退散しましょ」
母さんの言葉に、僕と有一郎がケーキのサンプルを見る。
王道の生クリームと苺、チョコクリーム、チーズケーキ。
今年の時透家のクリスマスケーキは、白い生クリームとつやつやの苺の乗ったケーキに決定した。
お会計を済ませて、お姉ちゃんからケーキを受け取る。
『ありがとうございました!気をつけて帰ってね』
「苺歌もあと少し頑張るんだよ。勤務が終わる時間にまた迎えに来るからね」
『うん、ありがとうお父さん』
「じゃあ、後でねお姉ちゃん」
「苺歌、頑張ってねー!」
お姉ちゃんに手を振ってその場を後にする。
そこでふと思い立って、僕はまたお姉ちゃんのところへ引き返す。
『あれ?むいくんどうしたの?』
「お姉ちゃん、これ持ってて」
僕が手渡したのは、ポケットに入れていた貼らないカイロ。
『えっ、いいの?』
「いいの!寒いでしょ?ただでさえお姉ちゃん冷え症なんだから。これでちょっとはマシになるといいんだけど」
『ありがとう、むいくん。嬉しい。……ああ…あったかい…』
ほんとに嬉しそうに微笑んだお姉ちゃんを見て、僕は安心して父さんたちのところに戻った。
夜7時。
父さんがお姉ちゃんを迎えに行って、そして2人で帰ってきた。
短い距離でも娘と2人だけのドライブが余程嬉しかったのか、帰ってきた時の父さんはにっこにこだった。
「おかえり!お姉ちゃんお疲れ様」
「寒かったでしょう?早速ごはんにしましょ」
『ただいま。いい匂いね!お腹空いちゃった』
お姉ちゃんはまだ鼻とほっぺたが赤いままだ。
あんな寒空の下、ずっとお店の外でケーキを売ってたんだから仕方ないよね。
『むいくん、カイロありがとう。すごく嬉しかった』
「役に立ったならよかった!お疲れ様、お姉ちゃん」
お姉ちゃんが着替えてきてから、食卓につく。
フライドチキンはお店で買ってきた。サラダは母さんと僕が、スープは有一郎が作った。
グラスに飲み物を注いで、みんなで乾杯する。
両親はスパークリングワインを、姉弟3人はシャンメリーを喉に流し込む。
お肉もサラダもスープも、全部美味しかった。
食後にお待ちかねのクリスマスケーキ。
5人家族だけど6等分する。余ったひと切れはお姉ちゃんに食べてもらおうと思ったのに、もうお腹いっぱいって言うから毎年の如く、僕と有一郎で半分こすることになった。
そこで中座したお姉ちゃんが、大小様々なサイズの袋を4つ抱えて戻ってきた。
僕たちが半分こしたケーキを食べ終えたのを見計らって、抱えた袋を両親と有一郎と僕に差し出す。
『はい、これ。クリスマスプレゼント!』
「わ!ありがとう!」
「えっ!苺歌…!?」
「ありがとう…。私たち、まだあなたから欲しいもの教えてもらってないのに……」
『それは後で言うから。とりあえず、あげたがりの私からのプレゼント受け取って』
「何だろう?」
お姉ちゃんの言葉に、袋に結ばれたリボンを解く。
父さんは温かそうなニットのベスト、母さんはハンドバッグをもらったようだ。
「ありがとう、苺歌」
「大事にするわ」
『うん!いっぱい使ってあげてね』
僕たち兄弟には、色違いのシルクのパジャマだった。
「わあ!気持ちいい!」
「つるつるだ!」
『シルクは夏は涼しくて冬はあったかいんだって。あと、寝返りも打ちやすいから寝てる時の身体のストレスも軽減してくれるらしいの』
そうなんだ。すごく気持ちいい。
僕たちも3人へのプレゼントを持ってきた。
「はい、これ俺たちから」
「まあ!ありがとう」
「何だろうな?」
『ありがとう。嬉しい!』
3人がラッピングを開封する。
父さんには魔法瓶の水筒、母さんにはピアス、お姉ちゃんには数日前に選んだものたち。
「2人とも、ありがとう」
「早速仕事に着けて行くわね」
「うん!」
「えへへ」
お姉ちゃんが袋から取り出した部屋着と靴下の触り心地に、うっとりした顔になった。
『ふわふわだ〜!気持ちいい。あったかそうだね。ありがとう!』
「お姉ちゃん、俺たちが何年か前にあげた部屋着ヘビロテしてくれて嬉しいんだけど、さすがにそろそろ買い替え時かと思ってさ 」
「もっとあったかいの選んだから使ってね」
『嬉しい。ありがとう!』
花が咲いたように笑うお姉ちゃん。
そして、袋に残ったもうひとつのプレゼントに気が付いたみたい。
『あ、ハンドクリームだ。“苺の香り”って書いてある……』
「それ、介護とか調理業務とか、しょっちゅう手を洗わないといけない人でも使える成分のハンドクリームなんだって」
「テスターで匂い嗅いで、いい匂いだったから。お姉ちゃん、苺の香りは好きって言ってたし」
『そうなんだ。ありがとう!』
お姉ちゃんが何かを思い出したようにこっちを見てくる。
『…この前ゆうくんが香りの好みを聞いていたの、これを選ぶ為だったのね』
「うん、参考にさせてもらったよ。…お姉ちゃん、大分手が荒れてたから……」
「一昨年みたいにぱっくり割れしないようにしっかりケアしてね」
『……うん、ありがとう…』
ほんの少しだけ、お姉ちゃんの澄んだ瞳が潤んだように見えた。
「さ!苺歌。あなたの欲しいものを教えてちょうだいな」
「言ってくれないと空豆だぞ」
『ちゃんと言うから空豆は勘弁!』
父さんと母さんの言葉に、慌てるお姉ちゃん。
『…あのね、家族写真が欲しいの』
「「「「家族写真??」」」」
予想していなかった答えに、見事に4人の声が揃う。
『うん。スマホで自撮りとかセルフタイマーで撮るとかじゃなくて、写真館みたいなところでプロのカメラマンに撮ってもらった家族写真が欲しいな 』
父さんと母さんが顔を見合わせる。
「苺歌がそれでいいなら……」
『それ“で”じゃなくて、それ“が”いいの』
「そうか。…じゃあ、次にみんなの休みが重なる日に撮りに行こうか」
『うん!』
お姉ちゃんが嬉しそうに笑った。
翌日。
冬休みが始まり、家でゆっくり過ごしていたら、お昼過ぎにお姉ちゃんが帰ってきた。
両手にはスーパーの袋を下げて。
『ただいま〜』
「あれ?お姉ちゃんおかえり!」
「バイトは?」
『クリスマスケーキが完売したから帰っていいよって言われたの』
「そうなんだ!お疲れ様!」
『ありがとう』
部屋着に着替えたお姉ちゃん。昨日あげた部屋着だ。夜洗濯して、浴室乾燥機を使って乾かしていた。
あったかそうだし、可愛いパステルカラーもよく似合っている。
『ゆうくん、むいくん。これすごくあったかいよ!ありがとう。大事に着るね』
「よかった!くたびれたらまたプレゼントするからね」
「お姉ちゃんその色すごく似合うね!可愛い!」
『ふふ。ありがとう。2人のセンスが光るね』
白い頬を淡いピンク色に染めて、お姉ちゃんが微笑む。
そんなお姉ちゃんからは苺ジャムのようないい香りがした。
僕たちがあげたハンドクリームを、早速使ってくれているみたい。
嬉しくて、僕と兄さんは顔を見合わせて笑った。
その日の晩ごはんはお姉ちゃんが作ってくれた。
ポットパイに、サラダに、クリスマスケーキまで。
昨日お姉ちゃんのお店から買ったのは白い生クリームのケーキだったけれど、今日お姉ちゃんが作ってくれたのは、チョコレートクリームを纏ったブッシュ・ド・ノエルだった。
薪の表面を模した模様に、薄く振り掛けられた粉砂糖。ところどころ金箔が乗っている。
“Merry Christmas”と書かれたチョコプレートと、小さなサンタクロースの人形のピックまでつけられて、 パティシエ顔負けの出来栄えに僕たちも両親もすごく感動した。
「美味しい!」
「2日連続で違うケーキが食べられるなんて嬉しすぎる!」
『よかった。来年は一緒に作ろっか』
「「うん!」 」
優しく微笑んだお姉ちゃん。
今日はなんて幸せなクリスマスなんだろう。
寝る前にお姉ちゃんの部屋に行った。
ノックをして室内に入ると、ハンドクリームのいい香りがした。
『あ、むいくん。パジャマ早速着てくれたのね。嬉しい』
「うん。今日朝イチで洗濯して乾かしたの。すごく気持ちいいね!分厚くないのにあったかい」
『よかった』
お姉ちゃんはプレゼントしたハンドクリームを手に塗って、その上から薄手の手袋を着けている。
『このハンドクリームもすごくいいよ。ベタベタしないし、スッと馴染んでくれる。いいものもらっちゃった。ありがとう』
にこっと笑うお姉ちゃん。
僕の大好きな優しい笑顔を目にして、心が温かくなる。
僕はぎゅっとお姉ちゃんに抱きついた。お姉ちゃんも僕を抱き締め返してくれる。
「…お姉ちゃん。大好きだよ」
『私もむいくんだーいすき!』
あったかい。苺ジャムのような甘酸っぱい香りが僕を包む。
「…お姉ちゃん」
『なあに?』
「久しぶりに、一緒に寝てもいい?」
『うん、いいよ。枕持っておいで』
「うん!」
僕はいそいそと自室に枕を取りに行き、お姉ちゃんの部屋に戻ってきてベッドに潜り込んだ。
そして、お姉ちゃんは小さい頃してくれたみたいに、僕の頭を優しく撫でてくれた。
ああ、神様。
苺歌お姉ちゃんと僕たちを家族にしてくれて、本当にありがとうございます。
世界一のお姉ちゃん。僕たちだけの、たったひとりのお姉ちゃん。
優しくて美人で頭もよくて、でも空豆が苦手でその話題になると大慌てする可愛いところもあるお姉ちゃん。
大好きだよ。
つづく
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