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瀬名 紫陽花
MIRAN@新作短編集公開!!
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【回復予想】
夜の神社。
風は、少しずつ落ち着きを取り戻している。
駿は、門の前に立ったまま、胸元のお守りを握りしめている。
神社の空気は静かで、でも、どこか緊張を孕んでいた。
「……あの子、戻ってくるのは、いつ頃ですか」
駿の声は、震えていない。
でも、底に不安が隠れている。
九尾さんは、ゆっくりと尾を揺らす。
目は遠くを見つめていた。
『……予想でしかないが』
駿は、息を整え、うなずく。
「……はい」
九尾さんは静かに口を開いた。
『……三日ほどで、回復の兆しが見えるだろう』
「三日……」
駿は、少し息を吐いた。
指先が、微かに震える。
『……完全に戻るのは、もう少し先かもしれぬ』
駿は唇を噛みしめる。
でも、目は真っ直ぐ神社の門を見ている。
「……そうですか」
九尾さんは、尾をゆっくり揺らす。
空気が、少しだけ重くなる。
『今は、焦るな。
回復の時間は、お前の心配とは関係なく、確実に進む』
駿は小さくうなずいた。
そして、胸元のお守りを握りしめ直す。
「……分かりました」
九尾さんは、低く言う。
『だが、もし何か異変があれば、
その時は知らせる』
駿は、すぐに答えた。
「……お願いします」
夜の神社に、静けさが戻る。
でも、駿の胸の奥には、まだ少しの緊張が残っている。
——三日後。
——その先に、戻る日がある。
駿は、きっと待つだろう。
どんなに時間がかかろうと、あの子が戻るその瞬間まで。
————————————————————
三日後。
夕方の神社。
空はまだ明るいのに、影だけが少し長い。
駿は、自然と足がここへ向いていた。
理由なんて考えなくても分かっている。
門の前に立ち、無意識に見上げる。
「……」
風が、ふっと変わった。
その瞬間だった。
「……よ」
聞き慣れた、軽い声。
少しだけ、間の抜けた——
あの声。
駿の心臓が、強く跳ねる。
「……っ!」
顔を上げると、門の上。
そこに、座っている影があった。
「……駿」
姿は、いる。
確かに、いる。
でも——
「……無事、なのか?」
駿がそう言った瞬間、
門の上の僕は、少しだけ首を傾げた。
「んー……」
その声が——
微妙に、ずれている。
いつもの軽さはある。
タメ口も、いつも通り。
でも、どこか
音が歪んでいるみたいで、
一拍、遅れて聞こえる。
「……あー……多分?」
曖昧すぎる返事。
駿は、すぐに察した。
「……まだ、完全じゃないんだな」
「ん、まぁね」
僕は笑おうとする。
でも、その笑いが、途中で途切れる。
「……っと」
一瞬、僕の耳元で
小さく、嫌な音が鳴ったように見えた。
——キィン。
僕は、ぎゅっと片目を閉じる。
「……大丈夫か」
駿の声が、低くなる。
「んー……バグ、残ってるっぽい」
あっさり言うけど、
明らかに無理してる。
「時間、ちょっと掴みづらいし
声も……ズレてるだろ」
駿は、黙ってお守りを握る。
「……聞こえてたか」
「え?」
「俺が、話しかけてたの」
僕は、一瞬だけ黙ってから、
少し照れたみたいに目を逸らす。
「……あぁ」
「うるさいくらいにな」
駿の胸が、きゅっと締まる。
「……じゃあ」
「うん」
「戻ってきてくれたんだな」
僕は、いつもの調子で言おうとして——
一瞬、言葉に詰まる。
「……まだ、完全じゃないけどさ」
そして、ちゃんと潤を見る。
「戻るって約束、破ってないだろ?」
その瞬間、
風が、はっきりと同じ向きに流れた。
駿は、小さく笑った。
「……声、おかしいぞ」
「うっせ」
でも、その返しも
ほんの少し、遅れる。
「……無理、するな」
駿がそう言うと、
僕は一瞬だけ、真面目な顔になった。
「……潤がそう言うなら」
「ちゃんと、休む」
門の上で、僕は足をぶらぶらさせる。
「だからさ」
少し歪んだ声で、でも確かに。
「……もうちょい、そばにいろよ」
駿は、迷わず答えた。
「当たり前だ」
バグは、まだ消えていない。
声も、力も、完全じゃない。
それでも——
繋がった。
確かに、また。