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ryok side
高校を卒業してから、しばらく経った。
校門の前を通ることはもうないのに、
たまに、あの二人のことを思い出す。
正直に言えば、
最初から気づいていた。
元貴の視線が、
若井の声を追っていないこと。
それなのに、
若井の姿だけは、やけに正確に捉えていたこと。
「ああ、これか」
そう思っただけだった。
踏み込むほど、子どもじゃなかった。
元貴は、危うかった。
音じゃなくて、
自分を失いそうな意味で。
聞こえないことより、
「迷惑だと思われること」を
一番怖がってた。
だから、
一人で耐える方を選ぶ。
ああいうのは、
放っておくと壊れる。
若井は、無自覚だった。
自分が、
どれだけ人を引き留める存在か。
ただ隣に立って、
当たり前みたいに守る。
あれは才能だ。
努力じゃない。
僕ができたのは、
線を引くことだけだった。
「助ける」でも
「導く」でもなく、
二人が選んだ関係を、否定しないこと。
それが、
先に行く人間の役目だと思ってた。
大学の帰り、
偶然、二人を見かけた。
駅前のベンチ。
若井が何か言って、
元貴が一瞬だけ首を傾げる。
「え?」
聞き返して、
すぐに笑う。
若井は、 昔と同じ速度で言い直してた。
その距離が、
もう完成しているのが分かった。
音が戻ったとか、
病気がどうとか、
正直、 どうでもよかった。
あの二人はもう、
「聞こえなくても続いた」
という事実を、
ちゃんと共有してる。
それは、
簡単に壊れない。
俺は、少し離れたところで、
それを眺めてから、歩き出した。
もう声をかける必要はない。
守る必要も、
繋ぐ必要もない。
二人は、
自分たちで世界を作った。
帰り際、
ふと若井がこっちを見た気がした。
目が合ったかどうかは、分からない。
でも、
元貴が笑ってた。
それで十分だった。