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ほどなく王都スタッグへと辿り着く。予定通り、時刻は正午を少し回ったくらい。
スタッグに来るのは二度目だが、やはり王都と言われるだけあって巨大。正面に見える大きな城壁に、ぽっかりと口を開けた南門。その大きさは馬車が三台横並びでも通過できるほど。
入場許可を貰うための待機列の長さに辟易としつつも、大人しく最後尾に並んだ。
恐らくプラチナプレートかアンカース家のペンダントを見せれば、並ばずとも入場出来るのだろうが、それをしてしまうとネストやバイスに連絡がいってしまうかもしれないので、大人しく並んでいることにしたのだ。
今回の目的はギルドでの従魔登録。それだけの為に声を掛けるのも気が引ける。相手は貴族、恐らく忙しいだろう。
待機列の順番が回ってくると、二人の門兵が行く手を阻み、やる気のなさそうな声でお決まりの一言。
「入場許可証は持っているか?」
「ギルドで従魔登録の予約をしている九条という者です。話が通っていると聞きましたが……」
それを聞いて門兵の二人は顔を見合わせると一人は詰め所へと入って行く。
「恐れ入りますが、積荷を拝見させていただいても?」
「もちろん構いませんが、驚かないで下さいね?」
流石にそれには無理があった。
俺同伴で、馬車の幌を少しだけずらして中の様子を見れるようにしたが、中にいるのは魔獣である。しかも檻には入れられていない。
そんな四匹の魔獣から視線を向けられ、平然としていられる者なぞいないだろう。
「ひぃ!」
まぁ頑張った方だ。奇怪な悲鳴を上げるも、最初に驚くなと言われているだけあって心の準備は出来ていた様子。
後ろの馬車も調べるのかと思いきや、積荷の検査はそれで終了。僅かな質疑応答の後、すぐに入場を許可された。
城壁を潜ると、王都の名に恥じない賑わいに懐かしさを覚える。
行き交う人々は皆笑顔で活気に溢れ、立ち並ぶ露店から漂ってくるのは肉の焼ける美味そうな匂い。
それに心を奪われかけるも今は我慢だ。昼食は従魔登録が終わってからでも遅くはないだろう。
「じゃぁ、手続きに行ってくる。ミアはしばらく待っててくれ」
「いってらっしゃい。お兄ちゃん」
馬車をギルドの前で待たせ冒険者ギルドの扉を潜ると、浴びせられるような鋭い視線に一瞬だが気圧される。
やはり大規模ギルドだけあって、冒険者も職員もコット村とは桁違いの人数だ。
「おい、プラチナだ。初めて見たぞ」
「すげぇ……。何か特別な依頼か?」
冒険者なのだから、胸のプレートを真っ先に確認するのは職業病のようなもの。一人が俺のプレートに気が付くと、ざわざわと辺りが騒がしくなった。
噂をするのは構わないが、出来れば聞こえないようにしてほしい。恥ずかしくて仕方がない。
ザッと見渡す限り、開いているカウンターは一カ所だけ。足早にそこへ向かうと、座っていたギルド職員の女性に声を掛けた。
「すいません。従魔登録の予約をしていた九条ですが……」
女性が顔を上げると嬉しそうに声を張る。
「わあ、九条さんお久しぶりです。元気にしてましたか?」
その声と顔……。思い出した。俺の適性鑑定をしてくれた女性職員だ。……いや待て、確かに間違いないが、こんなにフレンドリーな話し方だっただろうか?
「ええ。まぁぼちぼち……」
当たり障りなく返事を返すと、目の前に数枚の紙が広げられる。
「こちらが従魔登録の概要です。読んでおいてください。このあと登録に必要な試験があります。それに合格すれば、申請用紙に必要事項を記入していただいてアイアンプレートの支給となります。……何か質問はありますか?」
「試験があるんですか?」
「はい。概要にも記載されております通り、街中でも連れて歩けるようになるため、最低限飼い主の言うことを聞くのが条件になります。その見極めは必要ですので……。それと申し訳ないのですが、|魔獣使い《ビーストマスター》用の試験はないので、|獣使い《ビーストテイマー》用で行うことをご了承ください」
「わかりました。それは何時頃?」
「こちらは準備が出来ていますので、何時でも」
「では、今すぐでお願いします」
「かしこまりました。では、登録を希望する従魔を地下訓練場へとお連れ下さい」
すると、それを聞いていたであろう冒険者達と数人のギルド職員が、地下への階段を降りていく。
俺の試験に興味がある――といったところか……。訓練場は出入り自由、何時でも見学が可能だが、出来ればあまり騒ぎ立てないでくれると助かるのだが……。
一度馬車へと戻り、ミアと御者に状況を伝える。
「ミア。何か試験があるみたいなんだが……」
「うん、知ってる。簡単だよ?」
「そうか。じゃぁ悪いんだが、皆を地下訓練場まで案内してやってくれるか?」
「わかった!」
ミアは馬車から降りると、全ての馬車の幌を開け、獣たちと一緒にギルドの中へと入っていく。
その突然の光景に、通りを行き交う人々は息を呑み、思わず足を止める。
驚愕のざわめきが広がり、誰もが目の前の異変から視線を離せずにいるその様子は、失礼だが少々滑稽であった。
「馬車はこのまま待機で頼む」
「わかりました」
御者に待機をお願いし、最後に四匹の魔獣が馬車から降りると街の人々は悲鳴を上げ、一目散に逃げて行く。
「……これが普通だよな?」
「うむ。ミア殿の胆力には目を見張るものがあるな」
お互い顔を見合わせるワダツミとコクセイ。ミアの知らない所で、二匹からの評価が上がった様子。
訓練場では獣たちがミアの言い付け通りに並び、行儀よく座っていた。
それを見ていた冒険者たちは、ミアの方が主人なのではないかと疑うほどだ。
「一体何匹登録するんだ?」
「ひい……ふう……みい……。キツネとウルフを合わせると八十二匹もいるぞ……」
「八十二!? 八十二匹同時に操る獣使いなんか初めて聞いたぞ……。歴代最高じゃないか?」
そこへ遅れて登場したのは四匹の魔獣。更に騒然とする場内。
とはいえ、そこは冒険者。一般人とは違い、驚きこそすれ逃げたりはしない。
「なんだあれ……。やべぇだろ……」
「魔狼に魔狐……。あれが人に懐くのか? 信じられん……」
冒険者たちの下馬評が続く中、俺は地下訓練場に懐かしさを覚えていた。
以前ロイドと模擬戦をした場所。天井に刺さった盾は抜かれていたが、それを引き抜いた跡であろう傷が生々しく残っていた。
それ以外はいつもの訓練場といった雰囲気であったが、その中央付近に何か丸いトレーのような物が重ねて置いてあるのが目に付いた。
サラダボウルのような、深さのある入れ物。あれを何かに使うのだろうか?
訓練場の舞台中央で待っていると、三人のギルド職員がやってくる。
一人は支部長のロバート。もう一人は先程カウンターで従魔登録の案内をしてくれた女性。最後にインテリクソ眼鏡のマルコだが、何か大きな袋を肩に担いでいた。
ロバートは相変わらずふくよかな体つきをしていて、体が重そう。マルコはロイドの担当だったが、現在はどうなのだろうか?
まぁ、さほど興味はないが、相変わらずミアを睨んでいるのが気に食わない。まだ根に持っているのだとしたら、器の小さい男である。
ミアとマルコの間へと入り、その視線を遮った。……そしてカガリとぶつかった。
どうやらカガリも同じことを考えていたようで、お互いが顔を見合わせると、クスリと笑みがこぼれる。
ロバートは連れの二人に何かを指示し、俺の前へとやってくると笑顔で右手を差し出した。
「お久しぶりです、九条様。お元気そうで何よりです」
「ええ。今日はよろしくお願いします」
それに答え、握手を交わす。
「それでは九条様。さっそくですが、これから行う従魔登録試験についてご説明させていただきます」
左手に持っていた紙を読み上げるロバート。
「試験は三種類行います。見てわかります通り、二人の職員がお配りしているのは従魔用の飼料です。いずれも最高級の素材を使った逸品。ですがそれを食べないよう、従魔に命令して下さい。食べてしまったらテストは不合格となります。制限時間は五分間です。これをクリアできれば、次の試験へと進みます」
女性職員がサラダボウルのような物を獣達の前に置き並べ、マルコが持っていた大きな袋を傾けると、ザラザラと流し込まれる飼料。
元の世界で言うところのカリカリのようなペレット状の餌である。
ぶっちゃけると拍子抜け。てっきり戦闘訓練のようなことをするんじゃないかと思っていたのだが、まさかこんな基本的なことだったとは思わなかった。
ミアが簡単だと言っていたのも頷ける。
「これは|獣使い《ビーストテイマー》の従魔テストなんですか? 俺専用じゃなく?」
「ええ、その通りです。まったく同じです。プラチナだからと贔屓したり、逆に厳しくするようなことは致しません。簡単だと思われるかもしれませんが、これはまぁ基礎的なものですので。最後の試験は難しいですよ?」
徐々に難易度が高くなっていくシステムのようだ。
確かにこれでは|獣使い《ビーストテイマー》どころか、それなりに躾の行き届いている一般のご家庭のわんちゃんでもクリアできそうである。
ギルド職員の女性とマルコは、怯えながらも魔獣の三匹には山盛りに飼料を盛った。
「準備出来ました」
全ての獣達に飼料を配り終えると、二人の職員はロバートの横に並び立つ。
実害がないので特に口にはしなかったが、俺の前を横切るマルコのにやついた表情が、腹立たしくもあった。
試験が終わればコット村へと帰るのだから放っておけばいいものを、それすら我慢できないのだろうか?
「では九条様、準備はよろしいですかな?」
「ええ、大丈夫です」
ロバートはポケットから砂時計のような物を取り出すと、それを地面に置いた。
「それでは、始め!」
開始と同時に静まり返る場内。
元々地下にある訓練場ということもあり、扉を閉めてしまえばほぼ無音。耳鳴りがしそうなほど静か。
……当たり前だが、誰もそれを口にはしない。茶番もいいところである。
ズラリとならんだ獣達はピクリとも動かない。
そもそも目の前に盛られた飼料にさえ興味を示していないのだ。これを五分間見続けなければならないのは、若干苦痛である。
「九条殿。ひょっとして我等はバカにされているのか?」
「いや、恐らく至って真面目だ。すまんが耐えてくれ……」
ワダツミがそう言うのも無理もない。俺でさえそう思っている。
何も起きず、目の前に置かれた砂時計の粒子がサラサラと流れ落ちて行くのを見ているだけ。
ロバートは動かない獣たちをジッと見つめている。仕事一筋で真面目な所は相変わらずのようだ。
隣のギルド職員の女性は俺と目が合うとニッコリと微笑み、胸の辺りでヒラヒラと手を振る仕草を見せる。
どう返していいかわからず、軽く一礼してからその隣へ視線を泳がせると、マルコは俺を見つめ、未だにニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
そして何事もなく砂時計の中身が全て下へと落ち切ると、ロバートが終了の合図を出す。
「そこまで! ……ふぅ。さすがです九条様。一つ目の試験は全員合格です」
「「おぉー……」」
さすがと言われても、なんというか素直に喜べない。
周りで見ていた見物人達からは感嘆の声。それと同時に、パチパチと拍手が送られる。
ドン引きだ。逆に恥ずかしくなってくる。
「では、九条様。次の試験に移行しますが、よろしいですか?」
「ええ。どんどんお願いします」
軽く咳払いをするロバート。
「では、次の試験です。目の前に盛られている飼料を食べるよう命令して下さい。但し、半分だけです。正確でなくても結構なので、残すよう指示して下さい。全て食べてしまったら失敗とみなします。制限時間は同じく五分間です」
簡単すぎて欠伸が出そうになった。もう寝ててもいいんじゃないかと思うくらいだ。
だがこれも皆の為である。退屈かもしれないが獣達には我慢してもらおう。
それに食費が浮くのはありがたい。
「それでは第二試験、始め!」
地面に置かれた砂時計を逆さにして、再度地面へと置くロバート。
――しかし、獣達は一向に目の前の餌を食べようとはしなかった。