そうして、麗は化粧の仕方を一から教えてもらい、ついつい言われるがまま、化粧品を買ってしまった。
そして、何を考えたのか、そのまま調子に乗って飛び込みで美容院に入ったのだ。
「こんにちは、カリスマ美容師デッス! 今日は、イメチェンしたい感じ??」
突然お願いすることになった、見た目強面スキンヘッドの自称カリスマ美容師に、麗は小さく頭を下げた。
カリスマは刈り上げではなく、スキンヘッドである。自分の髪では一切遊ばない主義なのかもしれない。
「そうなんです。よろしくお願いします」
「どんな感じにしたいか決まってる? それとも、このカリスマに任せてみちゃう?」
親指で自身を指し、ウインクしてみせたカリスマ美容師に麗は頷いた。
完全に彼のペースである。あまりにも明るいキャラクターに、陰キャの自覚がある麗はたじろいでしまっていた。
「はい……それで」
「OK! 可愛くしてあげるからね、ところで、どしたのどしたの? 女のコがイメチェンするってことは、ヤッパ、恋かな??」
「えっと……私、地味でお洒落とかしたことがないので、夫に恥をかかせないように変わりたくて」
「愛だね! なるほど任せて! ヒューウィーゴー! イエぇ!」
「いぇー」
腕を高く上げたカリスマに合わせて麗も小さく手を上げた。
すると、突然表情を無にしたカリスマが麗の髪を分け、素早く切り始めた。
ざっくりバッサリと髪の量が減らされていく。
その様子をついついじっと見つめていると、鏡越しにカリスマと目があった。
すると、カリスマははたと気づいた顔をしてにっこり笑う。
(施術中は無言になる職人気質のカリスマが、無理してキャラを作っているのかもしれない)
『この世は舞台、人は皆役者だ』と、シェイクスピアも言っていた。
(いや、テレビの知識で、シェイクスピア観たことないけど)
麗は、そっとカリスマに会釈し、暇つぶしに用意されている雑誌を手に取った。
だが、ファッション誌というものの読み方が麗にはわからない。
美人がいっぱい並んでいて、眼福ではあるが、どこを参考にすればいいのかすら理解できないのだ。
その上、着回し紹介をみていたはずなのに壮大な物語になっており、不倫やら、幽霊やら、果ては宇宙人に遭遇し始め、もうこれはなんの雑誌かすらわからない。
だから、麗は視線だけ雑誌に向けて、読むのを止めたのだった。