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明彦の家に帰った麗は夜だが、溜まっていた洗濯物を干すため掃き出し窓を開けたときだった。
ビュオオオオオオオーーーー
ものすごい風だ。さすが高層階。
明彦の洗濯物を自分の洗濯物と混ぜていいのかちょっと悩んだが、一緒に住んでる上、好きだと言われたから嫌がられはしないだろうと、節水を選んだ。
だからずっしりと重い洗濯かごを手に麗は立ち尽くした。
ここで洗濯物は干せない。
干せば、もれなく飛んでいった洗濯物を追いかけて裸足で駆けてく陰気な麗さんになってしまう。
広いベランダを見渡すも、珍しい取っ手付きの非常壁しかなく、そもそも物干し竿すらないのだ。
どうしたものか。
「ただいま」
後ろから明彦の手が頭に乗った。
風の音で明彦の帰宅に気づいてなかった。出迎えられず、ちょっと申し訳ない。
「お帰りー、この家、洗濯物干すところがないんやけど、どうしたらいい?」
「洗濯機に乾燥機能ついてるだろう? 風が強くて危ないからあまりベランダには出ないように」
(ぶ、ブルジョワジーめ)
外で干せばタダだというのに、さすが金持ちである。
「わかった。じゃあ乾燥させてくるわー」
そうして振り向いた麗を明彦が見たが何も言わなかった。
(仕方がない。男の人が妻や恋人が髪を切ったことに気づかないものだ。って、テレビで言ってた)
ガッカリしたが勝手に期待したのは麗なので、明彦に責任はない。
「使い方わかるか?」
一人納得していると、明彦は顔を洗濯機のある方向に向け、一度麗を見て、また洗濯機の方を見て、直ぐ様、麗を見た。
二度見というやつである。
「今日、時間があったから化粧品買って、美容院に行ってみたの。……変かな?」
麗はカット1500円(シャンプー代別)の安くて早い美容院の常連だったが、今日のお店はとてもいい値段がした。
結果、肩甲骨辺りまであった髪が肩の上まで切られ、染めたことのなかった黒髪も会社の規則で許されるギリギリの茶色になった。
更に、明彦が帰ってくるまで風呂に入らず待っていたので、化粧品の販売員にメイクを施してもらったままだ。
「似合ってる、ますます可愛くなったな。折角だから週末に新しい服でも買いにいこう!」
「ありがとう」
思っていたよりも熱烈な対応に、麗はちょっとうれしくなった。
だが……
「もしかしたら、ちょっとだけ化粧が濃いかもしれない。ちょっとだけな。ほんとちょっと。それ以外は完璧。可愛い」
明彦が麗に化粧が濃いことを伝えるためにかなり気を使っている。よっぽど濃いらしい。
疲れて帰ってきたのに申し訳ないことをしてしまった。