星が良く見える真夜中の路地裏
白い息が口元から零れ,肌寒い冬の風が男の頬をなぞった
静かな夜.男の履く革靴の足音だけがよく聞こえる
次第に男はある店の前で足の動きを止めた
真夜中の、星が美しく見える夜のことだ。壊れかけた街灯が照らしていたのは___あのBARだった
__あんた…何者なんだ?_🥀𓈒 𓏸
店に入ると鈴の綺麗な音がチリン…と鳴り響いた
「いらっしゃいませ。お客様お待ちしておりました」
BARに入るとあのバーテンダーが男をいつもの顔で出迎えた
分かりやすい下手な笑顔だ
「……今日来るなんてあんたに伝えた覚えなんてないが?」
「言ったでしょう?私のカクテルを飲んだお客様は、私のお客様です。」
あの日にBARに来てから、5日間わざと間を置いた
この男が本当に顔を覚えるのか調査するために、俺にとっては長い5日だったが、真相にたどり着くためには…_だがどうやらこの口ぶりは嘘では無いようだ。
バーテンダーの男は再び無言で腕を差し出してきた
俺はあの日と全く同じようにコートと帽子を男に渡した
「席はこちらになります。」
俺は前と同じ席に案内され、椅子に腰を落とした
「お客様、本日のカクテルは如何なさいますか?」
「……おい、ニコニコ笑うその顔、辞めてくれないか?…」
「今夜はショートカクテルなど如何でしょう?」
バーテンダーは指摘されたことにまるで耳を傾けず,カクテルのビンを指先で軽く突っつく
「……今日はカクテルはいい,前言ったあんたの仕事やらを見に来たんだ」
「そうは行きませんお客様,お時間は限られています。さぁ…カクテルを」
頑なにカクテルを飲ませようとするバーテンダーに男は溜息をつきながらもこの前頼んだカクテルを1つ注文した
かしこまりました。と笑顔でバーテンダーはジン・トニックを作り始めた
その間にお客の男は話しかける
「仕事……見せてくれるんだろうな?」
「えぇ…お約束ですから」
目の前に出された、カクテルのグラスを手に持ち、男はバーテンダーを横目に中身を飲み始めた
「お客様…お名前は?」
「……?俺の名前か?」
「とても真剣に私を目視してらっしゃるのですから…色々私も知らなければと思いましてね」
「……知る必要など無いんだが?」
視線がわかり易すぎたのか…又はこいつの感が鋭いのか……あまり見すぎるのも良くないな
だが、少しでもこいつの情報を知れれば好都合だ
「ダレイだ、ダレイ・パイレント」
「おや……どこかで聞いたことある名ですね?」
「気の所為だろう…」
カクテルを飲みながら俺は静かに心を落ち着かせた
このBARは深夜にしか営業しない。一日の疲れを休むこと無く、ダレイはそのままお店に来てる為、小さな時間の内でも休ませなければいざと言う時に体が持たない
「そろそろ…頃合ですよ」
バーテンダーの男がグラスを拭く手を止め、静かに目を休ませた
なんの事かと質問をしようと口を開く
するとその瞬間…__
BARの扉が開き、誰かが入ってきた
ダレイが視線を向けると,若い綺麗な女性が立っている
ロングヘアのサラサラな黒髪にナチュラルな化粧 白いシンプルなワンピースに小さめのバッグ,サンダルを履いている
「いらっしゃいませ,初めましてお嬢さん」
カウンターからまたもやいつの間に出てきた男は女性の前に立つ
女性は男の顔をじっと見つめた後、伸ばされた腕に目もくれず、荷物を持ったままカウンターのイスに腰を落とした
バーテンダーはニコニコと笑いながらカウンターから女性を1度見つめ、そして注文もされてないのにカクテルを作り始める
(変な女だ…いや、この男も同じように変な感じがする……似たようなものか)
「ねぇ……お兄さん…貴方も…なの?」
突然横の女性がダレイに話しかけてくる
しかし会話の内容がなんの事なのかさっぱり分からない、驚きと疑問が頭にのしかかる
「そちらの方はただのお客様でございます」
カクテルを作っている途中の男が女性を見ながらニコニコとまた笑う。結局のところ、ここに居る2人が何を言ってるのか…理解が出来なかったが
そう…と女性は再びカウンターに向き直った
(しかしなぜこの時間に1人で…)
*正直な所、バーテンダーの男の仕事内容が見たかったダレイは別の客の女性に邪魔をされ少し苛立ちが残る。*時間は限られている…まさにその通りだ。出来ることならすぐに男を___
「お待たせしました。」
女性の目の前にカクテルが置かれる
じーっとカクテルを見つめながら,女性は何かを思い出すかのように話し始めた
「……好きだった…男性がいたんです。片思いでした。」
「成程」
「彼はとても優しくて…ずっと私に良くしてくれて居たんです…彼には好きな人がいるって知っていたけれど…私、諦めきれずに告白して……振られてしまったんです」
「お気の毒に」
その割にはずっと顔を変えずに話の内容にまったく合ってない顔で女性と会話を続けている
(せめて同情の顔は見せろよな……)
冷えたグラスのカクテルを飲みながら、あまり良くないと思いつつ、女性の話を聞く
「断られれば諦められる……と思ったのですが,私には無理でした…だから夏…彼の前でめいいっぱいお洒落して…海に誘おうと思ったのですが」
夏……季節外れだな……
そう思い再び女性の姿を見る
…改めて見るが女性の容姿…何かがおかしい…そして……なんだか見覚えがある
ふと、昔見た新聞の記事を思い出した
内容は…__
(……!?まさか……!!)
いや、そのまさかだった…迷宮入りの事件となった夏に起こった女性の死……新聞記事に取り上げられるほどの奇妙な事件だった。
証拠も何も無いあの事件
立ち入り禁止の海での死亡。
どうやって侵入したのか、はたまたそれが本当に自殺なのか、詳細は全く分からないままだった
白いワンピースに小さいバック、サンダルにロングヘアの綺麗な髪
亡くなった女性と今、BARの隣に座っている女性と瓜二つだ
それもおかしい……死んだ人間が普通の人間と喋れるのか、幽霊は存在するのか、?
謎だらけのこと現象に一つ言えることは
真冬のこの寒さに,この女性の格好はおかしい……との事だ
(まさか……本当に…!!)
だが不思議な事に,体を動かす事も、声を出す事も出来なくなっている
次々と起こる事がまるでハプニングだ
(気付け……!その女は人間じゃない…!!)
目で訴えようと男を見るが、バーテンダーは女性を静かに見つめながらゆっくり口を開く
「その先の海で……あなたの生涯は終わったのですね」
にっこり笑いながら,バーテンダーの男は答えた
(……!?)
「ミーナ・ペティさん…貴方は去年の夏…当時好きだった男性の……妹に海で殺されましたね」
「……!!」
バーテンダーの男は突然,女性が話したわけでない話を急に話し始めた。適当に言ったのか,数秒思えたが,女性の反応からして嘘では無さそうだ
「殺された原因は,好きである兄を、あなたに取られたと勘違いされたから…そうですね?」
「あ……っ…」
女性の目からポロポロと涙が溢れる
白いワンピースは徐々に濡れていき、次第にサンダルは片方消え,髪の毛からは水がぽたぽたと垂れた
「……そうです…ッそうです…ッ私は彼の妹に……」
「大丈夫です。復讐せずとも、解決致しますよ」
「…?本当ですか…?」
バーテンダーはゆっくりと目を開き、優しい目が女性をじっと見つめた
まるで嘘偽りのない彼の目は虜にしてしまいそうになるほど綺麗で、美しい
「…保証致します」
そう告げると、BAR内は暫く沈黙が続いた
そして、意を決したかのように女性はカクテルを飲んだ
その様子を静かに見守るバーテンダー
暫くすると女性はどんどん薄くなっていくように見える
「噂通りでした…あなたのカクテルは世界一ですね…冷たいはずなのに、とても暖かいです」
今まで悲しそうにしてた顔は、いつの間にか綺麗な笑顔で…女性は消えていった
「驚きましたか?お客様」
謎の金縛りが解け、情けなくカウンターにベッタリと身を預けるダレイ
「驚くに決まってるだろう…!動きは止まる声は出ない、死んだと思うだろ」
「おや,見かけによらずビビりで……」
くすくす笑いながらへばっている男から視線を逸らした
もはや言い返す気力も無い、聞かなければいけない事だらけだ。
どこから聞けばいいのか,いや、そんなの決まっているようなものだ
「あんた……何者なんだ?」
「…私ですか?」
このタイミングで質問されるとは思ってなかったのが少し驚いた反応を見せる
しかしまたにっこりと笑うと,一言…
「ただの…バーテンダーですよ」
「ろくな回答じゃねぇな……」
「そんな事より今日での出来事見たのですから、協力の方よろしくお願いしますよ?」
「?…」
「私はただのバーテンダー…あの綺麗な方には綺麗なままあの世に行って欲しかったのですよ。」
ダレイの私物を持ちながら、バーテンダーの男は目の前にやってくる
「初めから分かっていました。あなたの写真の友人さんは今も生きています。そして最後に会ったのは今日で、場所はあなたの職場……貴方は私を調べようと偽装した」
驚きを隠せない…こいつは何者だ…?
彼の腕がダレイの前に差し出されると、お店が閉まる音が店内に鳴り響いた。
「後始末…頼みましたよ、刑事さん」
コメント
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この後が楽しみ😊