秘密を暴く ノベル版
「第1話高校 」
I県G市、住宅街を真っ直ぐ歩き交差点を左に曲がった所に伊藤麗美が通勤している学校、私立G市中部高等学校がある。伊藤はここの高校の教師になってから早5年が経つ。この高校の教師になる前、伊藤は同市の中学でおよそ8年間勤務していた。伊藤にとって高校を受け持つのは初めてな事だったため、不安もありながらもその心は嬉しさや喜びに変わっていった。
気がつくともう5年も経っている。小さい頃は時間なんて寧ろ遅く感じていたのに、歳を重なるにつれ時間が早くなっていくのは何故だろう。きっとこう思うのは私だけじゃ無いはずだ。顔を上げ、そらを見上げる伊藤。今日は午後に雨が降るからかいつもより雲が多い。2月のこの時期は肌寒い。マフラーとコートをしているが無意識に両手で身体を擦っている。息をするたびに白くなっていく。それを見ていると何故か心地がいい気がした。茶色のブーツを履きながら道を一歩一歩歩いていく。周りには、ランニングをする人、犬の散歩をする人、朝の部活をしている生徒と朝早いにも関わらず既に賑やかになっている。でもこれを鬱陶しいとは思わない。逆に私以外に外に出る人がいると思うと、安心して学校に行くことが出来る。安心とはなんのことだろう。なんにも心配事や不安なんてないのに、でも何故かこの言葉でしか表現出来ない感情になる。一歩一歩噛み締めて歩いていく。いつもこんな風に歩いている訳ではない。今日は教師の方々に報告しなければならないことがある。両親が亡くなったとか、弟が罪を犯したなどのネガティブなご報告では無い。伊藤は、国語教師で3年生のクラスを受け持つ佐々木誠と晴れて結婚することになったのだ。佐々木はサッカーの監督であった為、朝練で伊藤よりも早く学校にいた。伊藤からは「私が着く前に言っちゃダメだからね」と言われている。そんなことわかっている。そもそも自分で言い出せるような性格じゃない。逆に自分から急に伊藤先生と結婚しましたとか言ったら逆に引かれて変な目で見られるに違いない。伊藤が来るまで佐々木は黙っておいた。
午前7:30 学校に到着した。少し考え事をしてしまったのかいつもより遅く着いた。考え事なんてしていない。ただボーっとしていて歩くのが遅くなってしまっただけでも何故か佐々木には考え事をして遅れたと言ってしまった。だがそれを疑う様子は無い。ーそうわかった。と言ってすぐにパソコンに目を向けた。その瞬間本当に愛されているのか不安になる自分がいた。いつもより遅れたのに、怪我や事故の心配もせずあっさりとその場を締める佐々木の荒い性格に少しガッカリしてしまうがこういうところも好きになった一つの要因かもしれない。そしていよいよ佐々木と一緒に結婚報告をする時が来た。そんな事を知らないほかの教員たちはパソコンで資料を作ったり、コーヒーを飲んだり、コピーする為に席を外していたりといつもと変わらない風景。こんな場面で急に結婚報告となると嘸かしみんな驚くだろう。そんな妄想も引き立てる。でもいざとなるととても胸がドキドキしてきた。胸を押さえなくてもわかるほどに心臓が大きく鼓動している。
そして佐々木が立ち上がったあとそれに続いて伊藤も立ち上がった。
「皆様にご報告したいことがあります」
そう言った瞬間教師全員がこちらを向いた。パソコンに向かって集中していた人も一気に緊張感が高まる。
「この度私伊藤麗美と3年2組の担任佐々木誠先生と結婚する事になりました。」
結婚という言葉この2文字を聞いた瞬間多いに職員室が盛り上がり拍手で埋め尽くされていった。まるで自分が受け持つクラスのように。拍手喝采の中伊藤は安堵した。緊張感も拍手を聞くと何故か解けていく。手を叩くと同時に緊張感は綺麗さっぱり無くなった。これからは佐々木の妻として誇りに思えるだろう。そして佐々木も伊藤の夫としてその責任を受け負わなれけばならない。結婚報告と言ったが厳密言うとまだ結婚はしていない。つまり婚姻届もまだ出てないのだ。さっきの言葉も「結婚しました。」ではなく、「結婚する事になりましたと」言っている。この事からまだこの時点で2人は結婚はしていない。婚姻届もだしていないのに職員室で結婚報告をするなんて早すぎるのでないか。でも伊藤はそんなこと気に求めなかった。結局結婚するのだから。
午前8:40 伊藤は自分が担当するクラス2年3組まで移動した。すると何やら騒がしい。少しだけ扉を開け耳を近づけると
「伊藤先生が結婚したってマジ!?」
「マジマジだって私聞いちゃったもん」
「何を?」
「職員室で伊藤先生が結婚することになりましたって言ってるのが聞こえたから」
「する事になりましたって事はまだ結婚はしていないという意味か?」
「多分ね、婚姻届とかはいつ出すんだろう」
「近々じゃね。それより夫って誰なの?」
「知りたい?秘密〜!」
「なんでだよ!いいから教えろって!」
「もう〜そんなに気になるの?相手はね」
「うん」
「佐々木先生だって」
「佐々木?あー3年のあいつか」
「そうそう3年の佐々木先生」
「俺あいつ苦手なんだよなあ」
「前に俺がやってないのに責められたあげくこっぴどく怒られたことがあって」
「そうなんだそれは災難だったね。」
生徒たちの話をまじまじと聞いていた伊藤は職員室から聞こえていた恥ずかしさよりも佐々木先生の事を非難しているような声がありそれが気になって仕方無かった。
佐々木が怒った?しかも理不尽に?そんな事佐々木本人の口から聞いていない。もしかしたら自分の理不尽さを皆にバレたくなかったのかもしれない。嫌われるのが怖いのか伊藤に呆られ別れるのがいやだったのか。どちらとも可能性はあるが、そもそも佐々木が怒った所は1度も見たことがない。この学校に佐々木は8年いる。伊藤よりも3年長かった。その5年の間1度も怒るところも怒鳴る所もそれどころか生徒に注意している所も見た事がない。伊藤がこの高校に入ったのは佐々木が入ってから3年後その間に怖くて厳しい人から怒らない優しい人になるなんてありえるのだろうか。3年の間に何かしらの事態がないとそうそう人間が180℃も性格を変えることは難しいだろう。佐々木は部活の監督もしている。サッカーの監督だ。1回サッカー部に所属している同クラスの生徒に用があったため、サッカー部の練習の様子を伺ったことはあるがその時も佐々木は、怒った様子は一つも無かった。サッカー部の生徒はみんな笑顔で、チームワークが素晴らしい様に見えた。これもきっと紳士 佐々木のおかげなのだろう。その証拠としてこの高校のサッカー部は色々な大会で優勝している。校舎裏の来客用に使われる玄関の横にはトロフィーが飾っているコレクションケースがあるが飾られているのはほとんどサッカーのものである。怒らないことで様々な成果が出る、そして学校の信用もあがる。もしかしたらこの高校が有名になったのは佐々木のおかげではないかと思ってしまう。
盗み聞きしていたのにも関わらず、呑気な顔をして教室のドアを開ける。自分の席から離れていた生徒はドアが開いた音を聞いた瞬間焦ったように小走りしながら自分の席に戻る。みんなが伊藤の事を見てみんながニヤついている。それもそのはず伊藤が佐々木と結婚するのを知っているからだ。生徒達は先生に聞こえてないと思っていると思うが残念がながら伊藤に聞かれてしまっている上、今伊藤の頭の中ではその会話がループ再生されている。そしていつも通り学校が始まった。
「起立、気をつけ、おはようございます」
「おはようございます」
「着席」
伊藤は今日の連絡を始めた。生徒に背を向ける。白いチョークを手に持ち黒板に書き始める。チョークが小さいからか書きにくい。だけど伊藤は気にもしない様子だ。伊藤の書く字体はチョークで書くには難しそうな細くてシュッとした感じで大人びている字体だ。伊藤は社会を担当しているが国語を担当している佐々木よりも字が上手かった。生徒は黒板に書かれた連絡事項を小さなメモ用紙に書き写した。書き終わった後伊藤は正面を向き、生徒達に結婚する事を伝えようとした。もう生徒にはバレているが自分の口から事実を言わないといつしか噂になり、そのうちその噂は消えてしまう。そうならないためには生徒の前で言うしかなかった。
「実は皆さんにお伝えしたいことがあります」
「おー!なんだ!なんだ!」
顔を大きく見上げ俯いていた生徒も伊藤の顔を見てまるで獲物を捉える猫のようにみんなの目が輝いていた。どうせみんな伊藤が結婚することを知っているのに、あたかもそれを知らないような顔をして、そんな顔をしても無駄なのに何故か子供たちはバレないと思っているのか知らないフリの演技で通り越そうとしている。いや、これはまだみんなが本当に伊藤は結婚するかどうか不審に思っているため、その事実確認ができるのではないかと興味を持っているのかもしれない。伊藤は何故か職員室で報告する時よりも緊張した。職員室は当たり前だが大人ばかりで同年代の教師もいたため、緊張はしたがあまり抵抗はなかった。だが今目の前にいるのは自分よりも小さい生徒だ。小さいといってももう全員高校2年生であるが、伊藤からしたらまだ小さい未熟な子供だと思っている。伊藤は女性としては珍しい175cmの身長で佐々木よりも背が高い。175cmというのは色々とメリットもある。高身長と褒められたり、生徒の目線を簡単に合わせられたりと困ることはあまり無い。だが前に、身長が145cm位の生徒に話をされた為顔を下に向けると
「はぁ?私の事見下してんの?」
「なにそれ最悪。先生のことせっかく好きでいてやったのに」
「もう知らない。先生とはもう喋らないからねバイバイ」
そう言って帰ってしまった生徒もいる。別に見下していた訳では無い。ただその生徒の身長が低いため顔を見るために下げただけなのにそれを見下されると認識されるなんて、心外と思った。そもそもお前のことを友達でも仲間でも思っていないただの生徒。なのにせっかく好きでいてやったとは一体何様のつもりなんだ。最初からお前のこと好きでもないのに逆に大きなお世話だ。自意識過剰な生徒、まるで自分はモテまくるナルシストのような風貌で堂々と廊下の真ん中を歩いているバカ、そんな生徒がちらほらいる。
そんなことを考えている中、生徒から
「どうしたんですか?先生早く言ってくださいよ」
急かされる伊藤。分かっている。でもなかなか口に出せない。さっきは結婚という2文字は何の抵抗もなく言えたのに、誰かに首を絞められているような圧がかけられているような気がして言いづらくて仕方なかった。でも伊藤は力を振り絞って発言した。
「この度 佐々木誠先生と結婚する事になりました。」
このフレーズを言うのは今日で2回目だ。しかもこんな短時間で、もうこのフレーズを言うのは二度とないだろう。このフレーズを聞いた瞬間生徒は立ち上がり、大きく拍手をして隣のクラスからも聞こえるような大きい声で祝福された。あれはもう大きいを超えて、うるさかった。耳を塞ぎたかったが、そんなことをしたら生徒にどんな目で見られるのか大人になった自分なら分かっていた。
「みんな、ありがとう」
この一言で一瞬で静まり返った。まるでロボットのように。でも生徒達は、伊藤が結婚することを知っているはずなのに態々、あんなオーバーリアクション並の祝福をしてくれるとは。そんな場面が頭の中でよぎる。でも何故だろう。顔を赤くそめその顔を両手で覆い被せた自分が今いる。生徒たちも動揺しているようだった。そんな中1人の教師が扉をノックし、親切に両手でゆっくりと音が立てないように扉を開けた。佐々木だ。その目の前には、同クラスの生徒、田中だ。田中は今まで1度も遅刻なんてしなかった。そもそもそんな下劣なことをする生徒ではないと思ったのに、今日はどうかしたのかと思い、親でも無いのに1番に心配した。でも佐々木と一緒に出てきたので、佐々木に呼び出されただけだと分かり安心した。こんな感情になるのは、今日で二回目だ。朝にもかかわらず疲れている自分がいて驚いた。生徒に態々お辞儀をしながら佐々木は教卓がある前の方へ向かっていく。そして生徒の前に振り向き、
「皆様にご報告したいことがあります。」
御報告とはなんの事だろう。もし結婚の事なら既に生徒のみんなには報告してしまっている。もう少し早ければ一緒に報告できたのに、こういう所は鈍いのかもしれないでもそれも愛しく思ってしまう。だが伊藤が思っていたものとは違っていた。次の一言を聞いて何故か伊藤も何故か納得する顔になった。
「実は、田中友樹くんが漢字検定1級を合格することになりました。」
「本当に嬉しく思います。徹夜して勉強した成果が出るのはとても嬉しく思いました。」
田中がこのクラスで初めて漢検1級を取ったらしい。それは担任教師でもある伊藤でもとても誇らしく思った。親でもないのに、田中と同じか分からないが田中と同じ嬉しい思いになった。そもそも漢検1級を取るのは確かこの学校の生徒だと僅かに3人程度であり、しかもその3人は全員3年生であったが2年生の田中が取ることは初めてな事だった。2年生が今まで取っていたのはせいぜい3級くらいであったが1級を取るというのは今回が初めてだ。しかも自分が担任している生徒が1級を取るなんてなんとも鼻高々である。それと同時に田中に漢字を教えてくれた佐々木にも感謝したい。こんな人と結婚出来る事を改めて嬉しく感じた。実は、田中は国語が5教科で唯一苦手な分野であり、テストの成績も国語が1番低く52点である。50点以上なんて高いと思っている生徒もいたが、ほかの教科では95点以上出している田中にとっては著しく低い点数だった。点数の低い国語のテストを見る度に溜息を吐く田中。顔を傾げ、眉間のシワがいつものように寄っていた。その時に佐々木が田中に声をかけてくれたという。最初は鬱陶しいと思っていた田中だったが仕方なく佐々木が言った勉強方法や対策をしているとその内に漢字が自然にインプットとされていったという。そのおかげで田中は1級を獲得することが出来たのだ。合格通知を受け取った時、田中は嘸かし嬉しかった事だろう。涙を流しながら合格通知表を握りしめている様子が頭に浮かぶ。
田中が自分の席に戻る。リュックを机の横にあるフックに掛け椅子に座る。高さがあっていないのか身体を動かすと僅かに揺れる。これは先生に言った方がいいのだろうかでもこれで朝のSTの時間が省かれるのはみんなにも迷惑をかけてしまう。すると1人の生徒が田中に話しかけてきた。サッカー部の1人である中川智と美術部の佐藤優奈が田中に対して執拗に近づいてくる。
「1級取るなんてすごいね!」
「やっぱお前はできると思ったんだよ!」
「ありがとう、そこまで言ってくれて」
「いやいやこんなに言うのは当たり前だよ」
「で、合格する時に貰える合格証書って無いの?」
「あ〜あるよ見る?」
「うん!」
田中がリュックを全開で開け、長年使っている色が薄くなってきたファイルの中から証書を取り出す。そこには正真正銘田中の名前と1級に合格したことが記載されていた。この証書は経歴書を作る時必要となるものだ。そのため汚したり、破いたりしてはいけなく充分な注意を払わなくてはならない。証書を見た中川と佐藤は初めて見た証書に目を奪われた。証書に目を奪わるというのはあまり聞いたことがない。証書に感動したというよりも1級という合格率の低い試験に田中が合格しているという確かな情報が目に見えているためその衝撃が走ったのだろう。でも誰も漢検を受けようとする心は無い。1級も受かるとなると誰も嫉妬心は芽生えなくなるのかもしれない。1級が最上位だから?田中は2人に見せたあと、閉まってあったファイルにシワが出来ないように慎重に入れ直した。
午後 16:10 薄黒い雲が青い空を覆い、今にも雨が降りそうだ。そういえば今日雨が降ると言っていた。生徒が使う傘置き場には傘がほとんどささっていない。折り畳み傘が多いのか、そもそも今日雨が降るのを知らなかったのか。
「今日雨降るの?」
「そうだよ?えっ?もしかして傘忘れた?」
「うん、まじ最悪ー!」
「うぇーw乙ーー!w」
様々な生徒の話し声が聞こえる。今は帰りのSTの時間だ。伊藤が喋ってる中、生徒たちは躊躇なく友達としょうもない話題で盛り上がっている。そんな中伊藤は生徒に1枚の紙を配った。それは学費の明細書だ。この学校は、4ヶ月間学費を滞納(1ヶ月約3万円)してその翌月に支払うというものだった。紙と一緒に入金する銀行名と口座番号が記載してあるものも貼付してあった。まぁいつもの事だ気にする事はない。学費の値段は妥当かは分からないが、そのお金は家族が払っているところもあれば自分で働いて稼いだ金で払っているところもあるだろう。この学校はアルバイトは一応できる。雨が降ってきた。土砂降りとまではいかないが、時間が経つにつれ強くなっていくような気がする。まだ16:00にも関わらず辺りはすっかり暗い。自転車はライトで道を照らし、雨をかき分けながら走っていく。今日は雨は強いため、外で行う部活は休みだ。
午後19:00 仕事を終えた伊藤は佐々木よりも先に退勤することにした。佐々木はまだ資料作りが終わっていないためまだいるという。佐々木に向かって手を振る伊藤。だが集中しているからかそれに気づく様子は無い。あまり気に止めることでは無いためそのまま職員室を出た。職員専用玄関に置いてある靴に履き替え、赤色の傘を指し、職員専用駐車場にまで走っていく。茶色のブーツが雨の雫で濡れて薄茶色に濃茶色の斑点が現れた。遠慮なく水溜まりを踏んだためか。全速力で走っていく。やっと着いた。鍵をバックから取りだしスイッチを押す。ライトが点滅しドアを開けた。運転席に座った後に傘を閉じた。少しでも濡れないために。肩に掛けてあったカバンを助手席に置き、中に入ってあったハンカチを取り出す。僅かに濡れてしまった肩をハンカチで拭いた。ハンドル横にあるスタートを押し、エンジンをつける。ライトが雨を照らし、その雨は何故か輝きを放ち、その様子をまじまじと見ていた。
午後7:30 とある女性がある場所の駐車場に車を停めた。高級レストラン「Kaguya」だ。今日はとある人と待ち合わせをしているらしい。雨が凄かったため先に女性は店内に入っていった。入口から近いテーブルを選びそこに座った。携帯を開いてメールを送信する。
「久しぶり。」
「何時に来れる?」
「もう私は着いたけど」
既読は着くが返信は無い。運転中なのか、返信がめんどくさいのかだが、女性はその人の性格を1番にわかっている。きっと返信がめんどくさいのだろう。でもこれも長年一緒にいた証でもある。すると目の前に突如現れたのは今日待ち合わせた男性だ。女性はスーツにハイヒール髪型も整えメイクもしてきたというのに、待ち合せた男性は卑猥な Tシャツとデニムのラフな私服ネックレスをして汚れが目立つシューズで髪もボサボサ。高級レストランとは割に合わない汚らしい格好。一番にその人の性格が出ているファッションと感じた。頭を掻き、もし分けなさそうに頭を何回も下げる男性。席に座ってと女性が促す。席に座った男性は目の前にあったメニューに目を通した。こういうところのメニューは名前だけであり、写真は載っていない。意味のわからない横文字が何列もありそれを想像するというのは難解だと感じた。適当に美味しそうな名前を選び、店員を呼んだ。
50分後 お会計をしに席に立ち、伝票に書かれた値段を見るとその値段に驚愕した。コース料理では無いのにほとんど3000円を超えている。やはり高級レストランじゃなければ良かったのか。でもとっくに終わったことで後の祭りだ。レジに向かう2人今日は、女性が奢るらしい。だが女性の財布にはあまり現金が入っていなかった。何で払うつもりなのか。すると財布から取り出したのは、クレジットカード。女性はこれで支払いを済ませた。雨はもうとっくにやんでいた。先程の大雨が嘘かのように雲が無くなり、水溜まりに夜空と都会の夜景が写っている。今日も忙しい日々が続いた。上を向き黄昏ながら日々の思いを巡らせる女性。たばこを吸おう。そうすればきっと、今日のことは忘れるはず。この煙が私の侮辱だ。
翌日 今日はいつもより早く目が覚めた伊藤。2人は同じベットで寝ているが、朝になるといつものように佐々木は居なくなっている。今日は早いがきっともう佐々木は居ないのだろうと思いつつ振り返った。いる。佐々木がまだいる。どうしたのかと尋ねると、
「今日は君と一緒に行きたくて」
なんて愛らしい言葉なんだ。こんな言葉付き合ってから1回も言われたことが無かったのになぜ今日なのか伊藤には分からなかった。目を擦り、手元にある携帯で時刻を確認する。布団を捲り上げ起きる準備をする。すると何故か上半身がブラジャー姿になっていた。佐々木の格好もパンツだけを履いてる。昨日の夜何があったのか思い出せなかった。すると佐々木がある一言を言った。
「昨日は楽しかったよ」
「結構激しかったからびっくりしちゃった」
その言葉で察した。やらかしてしまった。付き合ってもう長く結婚予定だったが、結婚するまではそんな事しないと自分の心に誓ったのに、きっと酔っ払ったせいでその勢いに乗ってしまったのだろう。頭を振り、立ち上がった。今日はいつものように焦らなくていい。ゆっくりと準備が出来る。その時間は数少ない佐々木との2人きりの時間だ。夜は佐々木が残業で遅くなることがあり帰ってきた時にはとっくに伊藤は寝ているのであまり喋ることは無かったが昨日の夜は、いろいろとしでかしてしまったことは事実だ。あの姿を見て何も無かったとは言えない。2人で玄関に行き、靴に履き替えた。
午前8:40 いつもの時間に教室に入ると、やけに静かだ。いつもは隣の教室からも聞こえるほど騒いでいるのにどうしただろう。だがあまり伊藤は気にする様子が無い。教卓の前に立ち、前を向くと扉の隙間から手を振っているのが見えた。私のことを読んでいるのだろうか。その手に引き寄せられる様に扉の方に歩いていく。扉を開けると手を振っていたのは佐々木だった。すると佐々木の顔が不安な顔をしているのが伺えた。佐々木がこんな顔をするのは初めて見た。どうしたのかと尋ねると、
「俺が持ってるカード使ってもないのに勝手に金額が減ってて」
「誰かに使われてるってカード会社の人に言われたんだ。」
「何か知らない。」
一瞬肩がビクッとした。私は知らないと何故か震えた声で言った。だが佐々木は用が済んだのかありがとうの一言を言った後にすぐに帰って行った。佐々木のクレジットカードが誰かに使われてる?考えるだけで恐ろしい事だ。詐欺にでもあったのかそうなれば佐々木もいや、伊藤の身にも危険が及ぶかもしれない。教室に戻り、教卓の中に入ってあったプリントを取り出す。取り出した瞬間何かが落ちてきた。それは写真の様なもの。中川がその写真を手に取った。写真に写っていたのは、伊藤ともう1人私服を着た男性がいた。高級レストランの様な所でカードで支払いをしている伊藤の姿が激写されていたのだ。その写真と一緒にもう1枚紙があった。それはカードの明細書。いつ、どの位使ったか分かるのだが、とんでもない金額が使われていた。実は伊藤がレストランで使っていたカードは佐々木の物でありいままでも佐々木の財布からカードを抜き取っては、いろんな買い物をし豪遊していたのだ。伊藤は、自分に溜まったストレスを買い物ををしてお金を使うことで発散していたのだが、お金を使い込んだため無くなってしまい、借金をしようとも考えたがそうなれば結局返さなければならいということで、いちばん身近な佐々木のカードを勝手に利用するという考えに出たのだった。
それはとても最悪と言うしかないものでこれからの伊藤はどうなるかもう想像出来るものだろう。そもそもこの写真を撮り、勝手に教卓の中に入れたのは誰なのか。伊藤と関係がある人でなければこんなことは無理なはずだか、教師か、生徒かでもこんな事をする生徒は果たして居るのだろうか。そんなこと想像もつかない。すると1人の生徒が白いカーテンを開ける。開けた瞬間日差しが教室に入り、ほんのわずか暖かくなった。そしてそのガラスにはもう1枚紙が貼ってあった。督促状。そう書かれてある。督促状が何故ここに?だが分かっている生徒とどう意味か分からない生徒がいるようだ。佐藤はその督促状の紙を見るとその紙に名前が帰ってあった。その名前は確実に見覚えがある名前だった。それは校長の名前だった。まさか校長が借金をしていたなんて。しかもその借金返済額がとんでもない金額だった。
5億円
聞いた事も無い数字。億超をする借金をする人なんてあまり見た事が無いのにまさか近くにいたなんて。なぜ5億も借金をしたのかは分からないが、きっと何かしらの理由があって借りてしまったという金額では無い。億なんて滅多にない事だ。もしこれでギャンブルなどをしていたらこれこそ最低だ。きっと校長はクビになり人生も急転落するだろう。毎日借金を返さないと行けない日々が校長に襲ってくるのだ。そしてこの紙を貼ったのもさっきの写真と同じ人がやったものだと思われる。
生徒の携帯が鳴り響く。この学校は休み時間に携帯を使うことが許されている。だが授業中の時は電源を切らなければならない。まだ電源を切っていない生徒が多く、驚いたがそんな事も忘れるような映像が送られきた。きっとこれも同じ人の仕業だろう。映っているのは、とある部屋。壁の真ん中にディスクがあり、その上にはパソコン。右にはプリンターがあった。誰かがそのパソコンを開くと、出てきたのはPhotoshopの画面。その画面にはこんなものが出てきた。それは田中の漢字検定1級合格証書だった。これを見た生徒はすぐにこの部屋が田中の部屋だとわかった。でもこの映像はどうやって取られたのかまさか誰も居ない時に侵入して、この映像を撮った犯人がいるのか?それとも両親?でも両親はパソコンのパスワードなど知らないはずだ。そんなことより生徒が気になったのは、Photoshopの画面、田中は合格証書を作っていた。つまり1級に合格出来なかったのだ。確かに徹夜まで勉強していたもののやはり苦手なものは苦手でその上佐々木からの執拗な応援。田中にとってとても厄介な存在だった。漢字を見る度に佐々木の侮辱の様な応援が頭の中を過り、そのせいで殆ど覚えることが出来ず。試験は失敗してしまったのだ。だが佐々木の悲しむ顔を見たくなった田中は時間をかけ、Photoshopで合格証書を作りプリントした。この時間の方が1番頭を使ったという。
そして手作りの合格証書を見せた。その時佐々木は嬉しさのあまり涙を流したという。余計に心が苦しくなった。だがあいつは余計なことをしたそれは、浮かれたように田中のクラスまで行き、自信満々に田中が1級を合格した事を。そのくらい嬉しかったのは分かるがその時の行動に田中はうんざりしたという。生徒全員これで終わりだと思っていると。ロッカーの中に何故か卒業アルバムが入っていた。表紙には2022と書かれている今は2024年だが何故2年前のものがここにあるのか理解出来なかった。ページを次々と開いていくと、とある人物に目が止まった。そこには中川智の姿が写っていた。一体どういう事なのか。たまたま映っているだけか分からないすると中川からある発言をした。なんと中川は2年間留年しているらしい。つまり2年生を3回していることとなる。だったらこのアルバムが卒業アルバムと書かれているのはおかしい。きっとこれも誰かがわざと書いたに違いないだろう。中川は1年の時から成績が悪くその時はギリギリ単位が足りたため進級することが出来たが、2年生の頃に遊び過ぎた為単位が足らず進級することが出来なかった。
高校2年生は1番余裕をこいて浮かれまくっている時期だと言われている。それが仇となったのか中川は進級ができなかった。しかも2年連続で、だがこの時学校側は退学させないのだろうか。もしも見せしめで退学させてないのならばどうかとも思ってしまう。この学校は一体何があったというのか。伊藤のクラスの生徒にこんな事が起きていたなんて知る由もなかった。ショックと同時に担任にも関わらずそれに気づかなかった自分を悔やんだ。もう少し気づけばこんな事にはならなかったはずなのに自分のせいで秘密にしていた生徒がみんなの前でバラされるなんて。しかも自分もこんな被害に会うなんて。一体誰がこんなことをしたのだろう。警察に捜査をお願いしたがまだ犯人は分かっていない。そういえば最近生駒を見ていない。
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