テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ちろりーぬ
164
なーさん。です
200
コメント
1件
# 感想 わあ〜文化祭回、めっちゃ楽しかったです!!😭💕 咲茉ちゃんのヤマンバギャル姿、めちゃくちゃギャップ萌え…!あんな派手な格好なのにピアノの音色が優しくて、そこがまたエマちゃんだなあって。兎田さんだけ気づいたのもナイスでしたね!笑 隼くんの心臓バクバクシーン、また来た〜!!「冗談じゃない」の心中、分かりすぎてにやけました。まだ何も動かないのも隼くんらしいけど…次、どうなるんだろう!?続きが待ち遠しいです🌸
文化祭
森ノ宮学園高等部の体育祭は、保育ルームの子どもたちも参加させてもらう形になり、大盛り上がりだった。
夏休みの練習中に倒れてしまった咲茉も、この日は万全の体調で、入場行進と部活動リレーの入場行進での演奏という役目を無事に果たしたのだった。
2学期は学校行事が多い。体育祭に始まり、校内合唱コンクール、文化祭、持久走大会、期末テストなどなど。
体育祭が終わり、ようやくベビーシッター部に顔を出せるようになった咲茉だったが、次は文化祭での演奏の練習の為に、また時々夕方の保育ルームに来られない日が出てきてしまった。それでも、朝や昼休みや吹奏楽部の合奏がない日は“お野菜喫茶”の内装の準備を手伝いに来ていた。
「エマちゃん、折り紙も上手だねえ。本見て折れる人?」
『うーん。本とか説明書とか見て折るのはあんまり得意じゃないんですけど、ちょっと頑張って解読してる感じです』
「へーえ。まあでも、今は動画で折り方教えてくれるのもあるからね」
『はい。すごく助かってます』
兎田とお喋りしながら折り紙の野菜を量産する咲茉。お野菜喫茶の時に壁やカーテンに飾るらしい。
隼は子どもたちを抱えてスクワットしながら、竜一は美鳥のオムツを替えてやりながら、そんな咲茉の様子を眺めていた。
「そういえば、B組は何するの?」
何気なく聞いた竜一の質問に、咲茉の動きが一瞬ぴたりと止まった。
『……さ』
「え?」
『…学生服喫茶』
「「学生服喫茶??」」
遠慮気味に答えた咲茉の言葉を、そっくりそのまま復唱する竜一と兎田。隼も何だそれはと言いたげな目で咲茉を見る。
「学生服喫茶って、文字通り学生服着て接待する感じ?」
『そうですね…。色んな時代とか学校の制服を着て接客するらしいです』
「へえ〜。じゃあ大正時代のハイカラさん風とか?」
『それもあるみたいですよ。ここの中等部の制服着る子もいるし、よその学校の学生服を借りてきて着る子もいるみたいです』
「結城さんは中学は違うとこだったし、そこの制服着たりするの?」
『……それは内緒』
急に情報を教えてくれなくなった咲茉。
『気になるなら当日私のクラスに遊びに来てね』
と、先程までは恥ずかしそうにしていたのに、もう吹っ切れたように笑うのだった。
文化祭当日。保育ルームは“お野菜喫茶”として来客をもてなす。竜一や隼は初めましての熊塚父、猿渡父も娘たちの愛らしい姿を見て喜んでいた。ちょうどその時間、咲茉は吹奏楽部のステージ発表と重なり、奇凛の父から“俺があと15若かったら求婚していた”と口説かれることもなかった。
「…さて。一段落したとこで、俺らも校内見て回りますか〜」
「やったー!」
「わあい!」
「あにぎ!りゅう!いくじょ!」
「兎田てめえ…、サボりてえだけだろ」
「いいじゃんいいじゃん。せっかくの文化祭だし」
「うーん…まあ、そうなんですけどね」
保育ルームの子どもたちも兎田、竜一、隼に連れられて校内を見て回ることになった。
「りゅうにいちゃま!きりん、エマおねえちゃまのおみせにいきたいでしゅ!」
「おれもー!」
「あ、そっか。結城さんまだクラスの当番の時間だよね。みんなで行こうか。きっと喜んでくれるよ。ね、狼谷?」
「あ?…ああ」
「なら、そうと決まればエマちゃんの学生服姿拝みに行くか〜」
…というわけで、1年B組の教室に来た一同。クラスの中には、様々な学生服を来たB組の生徒がいた。学ラン、ブレザー、着物に袴、ミニスカートにスケ番風のロングスカート、セーラー服などなど。アニメのキャラクターの制服を着ている生徒もいる。そして、教室内のBGMは、持ち込まれた電子ピアノを生徒が演奏していた。
「わあ。生演奏だ。贅沢〜」
「B組の友達にちらっと聞いたんですけど、ピアノを弾ける人が交代で弾いてくれるらしいですよ」
「なら、エマちゃんも弾く時間があるんじゃない?タイミングよくその時間に当たってたらいいんだけどね〜」
話しながら、メニュー表を見る竜一と兎田。隼も無言でメニューを読み、子どもたちの頼みたいメニューを聞いてやる。
「…じゃ、あとはいいね?すみませーん」
竜一が手を挙げる。
『はーい今行きまーす』
小走りで席に来たのは………
「「「!?」」」」
一昔前に流行った“ヤマンバギャル”だった。日焼けした肌に、白い鼻筋とリップ、バサバサの付け睫毛、ギラギラのアイシャドウやラインストーン、盛りに盛った髪の毛。着崩したブラウスにネクタイ、ミニスカートにルーズソックス。
『いらっしゃいませ。ご注文を伺いまーす♪』
子どもたちはもちろん、竜一や隼でも直接見たことのない奇妙な姿の女生徒に、みんな目が点になった。
「…あー、フィナンシェを8個と、アイスコーヒーを3つ、りんごジュースを2つ、オレンジジュースを3つください」
兎田がまとめて注文してくれた。
『はい、かしこまりー♪しばらくお待ちくださーい』
ヤマンバギャルはるんるんと小さくスキップしながら注文を伝えに行った。
「…す、すごかったね……」
「…ああ……」
「あのおねえちゃんオバケみたいだったじょ」
「でもおかおのきらきらかわいかったでしゅ!」
「う。やまんば」
「おれこわくなかったー!」
「かじゅ…かじゅまこわい… 」
「あばーっ!」
口々に感想を述べる高校生と幼児たち。
「俺も直接ヤマンバギャルにお目にかかったのは初めてだったよ」
兎田も笑う。
『お待たせいたしましたー♪こちらがアイスコーヒー3つ、ミルクとシロップはこちらからお取りくださーい。りんごジュースが2つと、オレンジジュース3つですね。あと、フィナンシェ8個と承りましたが、おまけでクッキーも付けさせていただいておりまーす♪それから、そちらのベビたんには赤ちゃん用麦茶をどうぞ』
「え!ありがとうございます!」
「やったー!」
「ありがとうごじゃいましゅ!」
『それではごゆっくり〜♪』
手際よく注文の品をテーブルに並べ、ヤマンバギャルはまた小さくスキップしながら戻っていった。
子どもたちは大喜びで早速ジュースやお菓子を頬張る。
「すごい派手だけど、気遣いも嬉しいな」
「確かにな」
「ねえねえ2人とも。あれさ、エマちゃんじゃない?」
「え!?」「は!?」
竜一と隼は気付かなかったが、兎田には先程のヤマンバギャルが結城咲茉だと分かったらしい。
「だってさ、当番の時間なのに他に咲茉ちゃんの姿見えないし。それに喋り方とかギャルに寄せてるけど声可愛いじゃん。よく聞いてみて。咲茉ちゃんの声に似てるから」
兎田に言われ、2人は他のテーブルで注文を聞いているヤマンバギャルを見る。確かに咲茉の声に似ているし、ギャルの格好をしていても、ふとした時に出る所作が柔らかで普段の咲茉のそれと重なる。
「……ほんとだ。確かに結城さんかも」
「あんな化けるもんなんだな…」
「面白すぎ。エマちゃんますます好きだわ〜」
アイスコーヒーを飲みながら、子どもたちにも気を配りつつ、ヤマンバギャルを観察する3人だった。
演奏が途切れた。奏者が変わるらしい。今までピアノを弾いていた生徒が名前を言い、一礼して交代する。次にピアノの前に座ったのは、先程のヤマンバギャルだった。
ド派手な見た目からは想像もつかないような優しい音を奏でる。誰でも耳にしたことのあるような短いクラッシク曲に始まり、歌謡曲や動揺、ドラマの主題歌やアニメソングなど、その場にいる客の年齢層に応じて弾いてくれているようだった。大人たちは感心し、子どもたちも知っている曲が流れて大喜び。B組の教室はとても和やかな空気に包まれた。
保育ルームのメンバーが食事を終える頃、また奏者が変わるようで、ヤマンバギャルの演奏が終わった。
『ご清聴ありがとうございました。ただいまの演奏は、1年B組結城咲茉が担当させていただきました』
最後は丁寧な言葉遣いと普段の声色で挨拶する。教室内に拍手が響いた。笑顔で一礼して、咲茉は仕切られたカーテンの向こうに消えていった。
「ほら。やっぱりエマちゃんだった」
「普段の結城さんを見てるからあの姿は新鮮でしたね」
「そりゃ“内緒”って言うわけだ」
納得の3人。子どもたちを連れ、B組の教室を後にしたのだった。
文化祭の翌日。保育ルームは普段通り活動している。
『おはようございます』
「あ、エマちゃんおはよ」
「結城さん、おはよう」
『おはよう。鹿島くん、狼谷くん』
「おう」
白い肌に色素の薄い髪、それと同じ色の長い睫毛。着崩すことなくきちんと身に着けられた制服。“あの”ヤマンバギャルと同一人物なのが信じられない。
「あれ?マスクして、結城さん風邪ひいた?」
『ううん。昨日のメイクで肌が荒れちゃって』
「えっ」
咲茉がマスクを外し、前髪を上に上げる。彼女が言った通り、頬や額が赤くなっていた。
「あちゃ~、可哀想に。病院行かなくて大丈夫そ?」
『たぶん大丈夫と思います』
「せっかく綺麗なお肌なのにね。早くよく治るといいけど」
本心からの言葉だろう。いつも気怠げでおどけたような態度を取る兎田が珍しく眉を下げている。
『まあ、どうにかなりますよ。…それはさておき、昨日はB組に来てくれてありがとう』
「びっくりしたけど楽しかったよ!兎田さんしか結城さんに気付いてなかった」
『みんなの反応見るのが面白くて、笑いを堪えるのに必死だったわ。くじ引きでヤマンバギャルすることになった時はどうしようと思ったけど、決まったからにはなりきって楽しもうと思って』
「…ピアノもすげえな。そこにいる奴らの年齢に合わせて弾いて」
『ありがとう。あれ結構好評だったんだ』
隼の言葉に咲茉が嬉しそうに微笑んだ。
まただ。また心臓が大きく跳ねる。
夏休み中に咲茉への自分の気持ちに気付いた隼だったが、これといってアクションを起こすわけでもなく。周りに悟られないよう、咲茉に対して今まで通りに接するよう努めていた。
「エマおねえちゃま!」
『どうしたの?』
「きのうのおけしょうはじぶんでしたんでしゅか?」
『うん。自分でなんとか頑張ったよ』
「きりんもやってみたいでしゅ!やまんばめいく!」
『えぇっ!?』
奇凛の要望に戸惑う。
「おれもやってみたいじょ!」
「おれとかずまもー!」
「う!」
「やってみたい…」
「あーぶ!」
まさかの他の子たちも賛同してきた。この年齢の子どもは、何でも真似をしたがるものなのだけれど。
『えっと……。ヤマンバメイクは私みたいに肌が荒れちゃうかもしれないし…。あっ、代わりに綺麗なお化粧でどう?』
「うん!それでいいでしゅ!」
「きまり〜っ! 」
“ヤマンバメイク”がしたかった筈の子どもたちは、そのことをすっかり忘れて普通の“綺麗な”メイクをしてもらう約束に大はしゃぎしていた。
次の日。咲茉がキッズコスメを買ってきた。ブラシやチップ等も100均でいくつも買い、衛生面にも気を遣ったのが窺える。
放課後、順番に咲茉にメイクをしてもらう子どもたち。完成した顔を鏡に映して喜んでいる。
『よかったら3人もどうですか?』
「え、いいの?」
咲茉の声掛けに、意外にも竜一が嬉しそうに目を輝かせた。そして咲茉にメイクをしてもらう。
「…………」
子どもたちの時にも思ったが、メイクをしている間、かなり顔が近い。客観的に見てもそう思うのだから、してもらっている本人は更にそう思うだろう。しかし竜一は特に気にしていなさそうで、完成した顔を鏡で見て、すごいね!と笑っていた。
『兎田さんは?』
「んー、俺はいいわ。みんなの写真撮って保護者に売りつけよーっと」
『そうですか。…えっと、狼谷くんは?』
「俺もいい」
『…そうだよね』
ちょっと見てみたかったなー、と咲茉が笑う。
冗談じゃない。あんな至近距離で見つめられたら心臓がもたない。
隼はメイクアップした鷹と虎太郎と竜一の写真をスマホで撮影し、メッセージアプリを開いて竜一とのトークルームに送信するのだった。
つづく