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ちろりーぬ
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なーさん。です
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お客様は神様
この日、竜一は珍しく弟抜きで隼や他の友達と遊びに出ていた。
「なあ、ちょっと小腹が空かねえか?」
「確かに。軽く食べるか」
「賛成〜」
嘘川と穴熊が勝手に盛り上がり、竜一と隼もそれに付き合うことになった。
近くのファミリーレストランに入る。外は木枯らしが吹いていたので温かい店内がありがたい。
『いらっしゃいませ。何名様で……あっ』
「あれっ、結城さん」
『鹿島くん、狼谷くん、あとC組の…』
「嘘川です!」
「穴熊っていいます!」
『よろしくね。…4名様お席にご案内いたします』
咲茉の案内でテーブル席に着く。
「結城さん、バイトしてたんだ」
『うん。そんなにたくさんはシフト入れないけどね。もちろんちゃんと許可取ってるよ』
「そっか。すごいなあ。勉強と部活とバイトまで頑張ってるなんて」
『ありがとう。ぼちぼちだよ。……ご注文がお決まりでしたら、そちらのタブレットからご入力くださいね』
笑顔で会釈して、その場を去る咲茉。
「…やっべ〜!初めて結城さんと話したわ。マジで可愛すぎる! 」
「お前らいつもあの天使と保育ルームで過ごしてんのかよ。羨ましすぎるだろ」
顔を赤らめて興奮気味に話す2人に、竜一は困ったような笑顔で、隼は呆れ顔でメニュー表を開いた。
それぞれ好きなものを注文する。料理を運んできたのは人間ではなく配膳ロボットだった。咲茉が料理を運んできてくれると勝手に思い込んでいた嘘川と穴熊は、席にやって来たロボットに大層がっかりしていた。
「……ところでさ…」
嘘川が恐る恐るといった様子で口を開いた。
「狼谷って、実は結城さんと付き合ってたりするのか?」
「「!?」」
思い掛けない質問に、竜一と隼は危うくスプーンやフォークを落としそうになった。
「夏休みの練習中に倒れた結城さんをお姫様抱っこして保健室に運んでやったの見ててさ」
穴熊も興味深そうに身を乗り出す。
確かに竜一も隼が咲茉を抱きかかえて行くのを遠目に見た。自分が知らなかっただけで、実はいつの間にか2人はそんな関係になっていたのだろうか。だとしたら、兼部とはいえ、同じ部活に入ってくれた2人の気持ちの変化に気付けなかったほど、自分は超鈍感ということになる。友達だと思っていた2人が恋仲であることを自分に内緒にしていたとしたらそれはそれで寂しい部分もあるけれど。
「付き合ってなんかねえよ」
普段より僅かに低い声で隼がきっぱり答えた。
「担架取りに行ってもらって戻ってきてまた保健室に運ぶより、直接連れてったほうが早えと思ったからそうしただけだっつの」
パスタをくるくるとフォークに巻き付けながら、隼が淡々と話す。
「そっかー!なら、2人は付き合ってないんだな?…ってことはまだ俺にもチャンスがあるってことだよな!」
「お前…、牛丸さん狙いじゃなかったのかよ」
嘘川が嬉しそうに、それに対して穴熊が呆れたように笑った。
竜一もちらりと隼を見る。どうやら本当のことを言っているらしい。
「…けど、もしほんとに狼谷と結城さんが付き合うことになったら、俺は応援するからな!」
「なんで今の話からそうなるんだよ。違うっつってんだろが」
笑顔で言った竜一の腕に、隼が軽く肘鉄砲を食らわせた。
「マジで〜!!」
「ギャハハハ!!」
少し離れた席の、一際大きな声で話す2人組の若い男。見るからにやんちゃしていそうだ。
「さっきからあいつらうるせぇな…」
「周りの迷惑考えろよな…」
「俺、ちょっと注意してくるよ」
「バカ!やめとけ。危ねえぞ。ああいうのは店員さんがどうにか対処してくれるんだから」
3人がひそひそ話すのを聞きながら、隼もいつ奴らの胸倉を掴んで注意してやろうかと考えていた。
『お客様。恐れ入りますが、少しお声のボリュームを落としていただけるようお願い申し上げます』
聞き覚えのある声。騒ぐ2人組に注意したのは、つい先程自分たちの会話の話題に上がっていた人物だった。ちょうど、2人組の近くの席の客が退店したのでそのテーブルを片付けたところだったようだ。持っていたお盆を一旦置いて客に話し掛けている。
「あぁん?」
「何だよお姉さん。随分と偉そうに。こっちは客だぞ?お・客・様」
『他のお客様のご迷惑となりますので』
毅然とした態度で注意する咲茉。
「なあ、こんな言い方したらいけないけど結城さんであの2人大人しくなると思わないんだけど…」
「お、俺も。別の店員さんいないのかな。ごっついおっさんとか……」
竜一もハラハラしながら見守っている。どうやらそれは店内に散らばった他の席の客も同じなようだ。でも誰かが助太刀に来てくれる前に咲茉が危ない目に遭ったら?友達としてそれは絶対に阻止しなければならない。何より、咲茉は女の子なのだから。
バクバク鳴る心臓を落ち着かせようと努めながら、竜一が立ち上がった。それと同時に隣の隼も立ち上がっていた。
「えっ、おい狼谷…」
「鹿島まで。危ねえぞ」
顔を青くする2人を、隼がギロリと睨みつけた。
「うっせえなあ!お客様は神様だろうが!!」
「「「「!!」」」」
逆ギレした男の1人が咲茉に殴りかかる。
この距離では間に合わない。
ダァンッ!!
「ふぇ???」
殴りかかった男が床にひっくり返っていた。自分に何が起こったのか、理解が追いついていないようだった。
『…だから、迷惑だって言ってるでしょうが!』
普段の柔らかな、鈴を転がすような声とはかけ離れた低い声で言い放つ咲茉。
「てめぇ!お客様は神様だろ!!こんなことしていいと思っんのか!!あぁ!?」
相方がやられて怒りを爆発させたもう1人の男が咲茉の胸倉を掴んで殴ろうとした。
ぐりっ
「ギャッ!?いでででで!?」
瞬きひとつの間に咲茉が男の腕を捻り上げていた。
ドスッ
ダァンッ!
びしゃっ
更に1人目と同じように軽々と床にひっくり返す咲茉。そして、2人組に注意する前に一旦置いたお盆にあったグラスの水を、床に伸びている2人にぶっ掛けた。
『他の善良な神様方のご迷惑となりますので、悪さをする荒神様はどうぞお引き取りくださいませ』
そして、テーブルに備え付けてある塩をびしょ濡れの2人に振り掛ける。
パチパチパチ……
店内に拍手が鳴り響いた。
「ゆ…、結城さん……」
「…………」
今起こった出来事に唖然とする竜一たち。
ウゥゥ〜〜〜
誰かが通報したのか、パトカーがサイレンを鳴らしながら店にやって来た。
「結城さん」
「大丈夫か?」
同じ部活の仲間が駆け寄ってくる。
『う、うん。大丈夫だよ』
そう言うわりに、少し顔を青くしている咲茉。返り討ちにしてやったとはいえ、やはり怖い思いをしたのだろうか。
『迷惑な人たちだけど、さっきのはやり過ぎちゃったかな』
「だっ、大丈夫だよ!みんなが迷惑してたのは事実だし」
「そうそう!拍手してたぞ!」
合流した嘘川と穴熊もがフォローに入る。
『うーん……』
2人組は駆けつけた警察官によってその場で逮捕された。なんと、彼らは最近、無銭飲食を繰り返し、度重なるカスタマーハラスメント、迷惑行為、店員への暴行、傷害事件を起こしていたというのだ。防犯カメラにギリギリ映らない場所で問題を起こしていた為、なかなか逮捕に至らなかったそうだ。2人が床に伸びているのを見て警察官は不思議そうにしていたが、その相手がこの少女だと知って驚いていた。
当然、咲茉も事情聴取を受けた。そして、証人として同級生4人と他のテーブルの客、ホールにいた他のスタッフも数名。2人組の迷惑行為や咲茉がきちんと口頭で注意したところ逆ギレして手を上げたという証言もあり、更には彼らを逮捕する一助となったということで、咲茉には一切のお咎めがなかった。
そろそろ勤務が終わるとのことだったので、4人は咲茉が出てくるのを待って、途中まで一緒に帰ることにした。
「あ、来たきた」
「結城さん、お疲れ!」
『ありがとう。みんな、今日は嫌なもの見せてごめんね』
申し訳なさそうに眉を下げる咲茉。
「いやいや、結城さん格好よかったよ!」
「何かやってたのか?」
『少しだけ、合気道をやってた』
聞けば、女性や子どもでも、身体の造りや力の流れを利用することで、体格や力の差がある相手にも対処できる護身術なのだそうだ。
「すげえ!今度教えてほしい!」
「俺も!」
「うんうん!喧嘩はしたことないけど、それを知ってたら何かあった時に虎太郎も守ってやれるし」
嘘川と穴熊、 竜一が目を輝かせる。
『で、でも、私師範免許は持ってないから……』
「急に真面目かよ。金とるわけじゃないんだからべつに大丈夫じゃね?」
慌てふためく咲茉に、隼が突っ込む。
『そっか。じゃあ、いいのかな?簡単なのくらいは…』
少し安心したように咲茉が笑った。
T字路で嘘川、穴熊と別れ、同じ部活の3人となった帰り道。
「…でも、結城さんよく1人で相手しに行ったよね。合気道習ってた経験があるとはいえ、怖くなかったの?」
「他の店員に対処してもらってもよかったんじゃねえか?」
『うーん……。まあ、全然怖くなかったって言ったら嘘になっちゃうんだけど。今日はリーダーのおじちゃんはお休みだし、ホール担当は女性スタッフしかいなかったから…』
「そうだったんだ…」
『口で言って静かにしてくれたらいちばんよかったんだけどね。逆ギレされるのも一応想定内ではあったから。まあ、どうせ私は女の店員だから舐められてるだろうなとは思ってた』
咲茉の言った通り、あの2人組は完全に彼女を下に見ていた。だからこそ一瞬で返り討ちに遭って固まっていたのだろう。
『あの人たちの他の事件のことは知らなかったけど、逮捕のきっかけになれたから結果オーライかな。でも正直言って、お客様をひっくり返してお水とお塩ぶっ掛けちゃったからバイトクビになるかと思った』
「…それで青い顔してたのか」
「やっぱり怖い思いをしたのかと思って心配してたよ」
『ごめんね』
「他の店員さんとかお客さんたちを守らなきゃと思ったのは分かるし、そんな結城さんの優しいところはすごく素敵だと思うけど、無茶はだめだよ。いくら護身術の経験があったとしても、結城さんは女の子なんだから」
竜一の言葉に、咲茉がほんの少し顔を赤らめる。
『ありがとう。視界の隅に2人が立ち上がってたのが見えててね。もしかして助太刀しようとしてくれたのかなって思って。嬉しかったよ』
「「!」」
結局間に合わなかったし咲茉が1人で対処していたけれど。
「…とにかく、また何か迷惑な客いたら男の店員に任せろよ。ホールにいないんだったら厨房の奴引っ張っていってでもいいから」
『うん、できるだけそうする』
ぽん
『!』
「結城さん、頑張ったね」
なんと竜一が咲茉の頭を撫でていた。
『…ちょ、ちょっと鹿島くんっ……』
一瞬で咲茉の顔が赤く染まる。竜一の大胆な行動に隼も驚いた。
『虎太郎くんたちと同じ感じで見たでしょ!』
「あ、ごめん。ほんとにそんな感じだった」
ぱっと手を離す竜一。
『ふふ。でも誰かに頭を撫でてもらうなんて久し振り。ちょっと嬉しいと思っちゃった』
そう言って咲茉が悪戯っ子のように笑った。
『2人とも、送ってくれてありがとう。また学校でね!』
「うん、またね」
「じゃあな」
手を振りながらマンションのエントランスに入っていく咲茉を見送り、竜一と隼はそれぞれの帰路に着いた。
つづく
コメント
1件
わあ、咲茉ちゃんすごかった…!普段は優しいのに、いざとなったらあんなに格好いいなんて。合気道やってたんだね。「お客様は神様」って言い返すシーン、痺れました。でも最後に顔青くしてたの見て、やっぱり怖かったんだなって。竜一くんが頭撫でるところ、なんか甘酸っぱくてドキドキしたよ🥀