『姫。姫ってさ、なんでずっとショートなん?』
『…え?』
ワカが後ろから突然聞いてきた。
『こだわり?』
『…別にそういうわけじゃねーんだけど…実はさ』
『千壽!起きろっ!』
『んむ…ハル兄うるさぁぃ…』
『学校遅れるぞ!!!』
『それはやだ~!』
『はやく、髪結ってやるからあっち向いて』
『ん…』
毎朝毎朝ジブンを起こしてくれるハル兄。
ジブンを起こして、髪を結ぶ。
その髪を結ぶのが、とっても丁寧で綺麗で。
嬉しかった。
『おし、出来た』
『わぁ、ありがと!』
『…いつも思うけどそんなキラキラさすなよ、目』
『だって凄いんだもん!!キレー!』
『はいはい、早くランドセル背負って。行くぞ』
『はーい!!』
少し荒っぽい性格だけど、ジブンの面倒を見てくれて…そんなハル兄が大好きだった。
大好きなハル兄を、ジブンは悪者にした。
『…あ、もう遅刻しちゃった…』
『…髪…結ぼう』
ハル兄が居なくなってから寝坊しちゃうし、
『…やっぱり汚い…』
そう、髪が結べない。
タケ兄にも結んでもらったけど、タケ兄も無理だった。
『…ハル兄…』
『ごめん…ッまた…髪、やってよ…』
そんな願いは惜しくも叶わない。
どれだけ名前を叫んでもハル兄は戻ってこない。
何よりジブンがハル兄を狂わしてしまった。
『ごめん、ごめん、ごめん』
どれだけ謝っても、過去は変わらない。
『実は…髪、ジブンで結べないんだ。』
『へぇ、オレがやってやるのに』
『毎朝は大変だろ笑』
7月7日
『約束…守ったぞ。』
『千咒ッ…!!!!!』
最後に頭に浮かんだのはハル兄だった。
まだ謝れてない、まだ会えてない。
まだ、まだ、まだ。
…また…髪、結んでよ。
千咒がショートの理由───。