思い立ったら即行動。
木兎は犯人についての情報を集めた。
赤葦が監禁されていた部屋は犯人の自宅だったと聞いていたので1日張ってみたら今も住んでいることが確認できた。
赤葦の両親は持ち家を売り払って引っ越したというのにあいつは普通に暮らしているなんて…と怒りを覚えた木兎は何としても遂行させようと決めた。この殺害計画を…
木兎が入手した情報によればあの犯人は毎週決まった曜日に出かけている。
そこを狙って人のいない所まで誘い込む…という作戦だった。
「待ってろよ赤葦。あいつは俺が始末しといてやるからな…」
これが片付いたら赤葦に会いに行って再び愛の告白をしようと決意した木兎は2年前の赤葦の写真に向かって微笑んだ。
赤葦は数週間後に行われるテストのために勉強していた。
そのテストというのは赤葦1人のために行われる卒業試験だった。
木兎達の卒業式前日に赤葦が行方不明になってから一年以上が経った今は9月。
6か月前に赤葦の同級生たちは卒業し、就職や進学をしている。
やむを得ない事情から留年にはならなかったが高3の1年まるまる通えてない赤葦は卒業するにはさすがに単位が足りなかった。
その為に特別に試験に合格で卒業、という形になった。
特にやることもないので今日もテストに向けてコツコツ勉強に励んでいるとスマホが鳴った。
ディスプレイに表示されたのは木葉の名前。
「よぉ!赤葦、今平気?」
「はい。卒業試験の勉強してたとこですけど」
「うわっ大変なやつだ…3年の内容今からやんなきゃなんだろ?大丈夫?」
「俺も心配してたんですけど解いてみたらなんか知ってる内容ばっかりで…」
「あ〜!お前木兎に教えてたもんな!」
「…そうだったんですか。」
「俺教えてやれる自信なかったから良かったわ。んで本題なんだけど、今月の30日空いてる?」
「ちょっと確認します。…..空いてますよ。」
「俺が誘うのも変だけどその日俺の誕生パーティーしてくれるらしくて、梟谷のメンバーで。だからお前ももし良かったらって感じ?」
「行きます。」
「オッケー、また場所とかは決まったら鷲尾辺りから来ると思う!」
分かりました。と返事してから会話が途切れこれは切った方がいいのだろうかと赤葦が画面越しの相手の様子を伺っていると再び木葉の声がした。
「お前 あれから木兎に会った?」
「いえ、入院中に急に来なくなって以来一度も」
「だよな…赤葦、お前は木兎のことどう思ってんの?」
「どうって…そりゃ 思い出したいですよ。避けられてしまってるようですが…会いたいです。」
「…30日、木兎も呼んである。来るかはわかんねーけど、会えるといいな。」
勉強の邪魔して悪かった!頑張れよ!と最後に言って通話は切られた。
話している間握りっぱなしだった自分では買わなそうなデザインのシャーペンを机に置いて赤葦は呟いた。
「木兎さん…会いたいです。」
そして迎えた9月30日。
「行ってきます。」
赤葦は家を出て電車に乗った。
しばらくして電車から降り改札を抜けて目的地の方向をキョロキョロと探していたところで目に飛び込んできたのは逆立てられた特徴的な銀髪だった。
「…木兎さん!」
混雑した交差点。
赤葦の声が届くことはなく信号は無情にも赤へと変わった。
「なぁ、誰か赤葦から連絡来てない?」
本日の主役である木葉がそう不安げに尋ねた。
約束の時間から5分ちょっと経ったが赤葦が到着していなかった。
たった5分、しかし基本5分前行動な赤葦だ。
もし遅れるのならとっくに連絡が来ていそうなものの誰の元にも連絡は届いていない。
「木兎ならまだしも赤葦がね…もうちょいしたら電話してみる?」
「あぁ、つか木兎に関してはここ最近 返信がないんだよな…」
赤葦は木兎らしき人物を追って静かな小道へと迷い込んでいた。
信号が変わった瞬間人の波をかき分け木兎が曲がって行った道に入ったはいいものの既に木兎の姿は見えなくなっていた。
そこからとりあえず進んでは見たが木兎どころか人っ子一人いない周りを見てもしかしてさっきのは見間違いか自分の幻覚だったのではとも思い始めていた。
この道の突き当りまで行って何も無ければ引き返そう。
そう思いながら赤葦が歩いていると小さな広場が見えた。
今どき不用心にも入口付近に壁があって中の様子が見にくい。
近づいてみると揉めるような男の声が2つ聞こえてきた。
その声の1つが木兎のものだと気づいた赤葦がさらに近づいて広場の入口にたどり着いた頃にはあたりはしんと静まり返っていた。
不思議に思いながらも広場へと踏み込み、中の様子を伺った。
そこで赤葦が目にしたのは返り血に染まる木兎の姿だった。
「木、兎…さん?」
「…?あっ!赤葦だ〜!」
木兎は無邪気に笑い持っていたナイフから手を離し地面に落とす。
「久しぶり、赤葦。会えなくて寂しかったよ。」
赤葦は木兎の後ろを見た。
倒れている男の下には血だまりができ始めている。
「あのね、赤葦の怖いもんはもうなくなったよ。だから…」
木兎は何か話しているようだが赤葦に木兎の言葉はもう届いていなかった。
流れる血、どこかで見たことがある。これは何の記憶…?あの時は、俺の腕から流れてた。
あの男は…
どれだけ考えても頭が痛くなるばかりだ。
上手く繋がらない記憶だがその恐怖は赤葦を襲った。
「やめて…」
「赤葦?」
「いやッいやだぁぁ!!」
わけも分からず叫びながら赤葦は足元のナイフを手にしていた。
自分が何に脅えているのか、何をしているのかわからないまま目の前の相手にナイフを振るった。
何度も、何度も。
完全にパニックに陥っていたのだ。
飛び散る血液が赤葦の服も汚した。
今度は目の前で流れた温かい液体が彼の手をも汚す。
それを見る度に何かが引っかかる。
分からなくて、怖い。
次の瞬間、赤葦は強い頭痛を感じた。
先程まで狂ったように叫んでいた赤葦が現実へと引き戻されていく。
途端に力が抜けナイフは手から滑り落ちた。
「木兎さん…?あ、俺、全部…」
思い出したんだ。
赤葦は力なく倒れ込んでいる木兎を包むようにして抱えた。
いくつもの傷ができていてそこから血が流れている。
「ごめんなさッ…木兎さん、ごめんなさい、ごめんなさいッ…ごめんなさい」
静かな広場には赤葦の泣き声だけが響き渡っていた。
end.
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