「今日の躾はこれでお、し、ま、い」
勿体振った言い方が勘に障るが、ようやく開放されたのだ。
俺はこの時程、心底ほっと安堵した瞬間は無い。
さあ早く戒めの開放を――
だが次の瞬間、地獄行きを宣告される事となる。
「今日はこの状態で過ごしてね。明日の朝には楽にしてあげるわ。嬉しいでしょ? それまでいっぱい溜め込んでてね」
女は世にも恐ろしい事を、さらりと言いのけていた。
「ブォブゥオッ! ボォォォォォォッ!!!!」
『ふざけんな! 開放しろぉぉぉぉ!!!!』
余りに理不尽な仕打ちに絶叫する。冗談じゃない。
このままでは本当に壊死しかねないし、何より狂う。
「でもこのままじゃ溜まらないわね?」
人の話を聞け。
「そうだわ! 良い事思いついちゃった」
だから何故、こいつの良い事は不安しかないのだろう。
女は『ちょっと待っててね』と聞きたくもない台詞と共に、此所を駆け足で跡にする。
そして直ぐ様、意気揚々と右手に何かを握り締め、戻って来た。
「これな~んだ?」
女は小悪魔な微笑みで、右手にある物を俺の眼前に突き付けた。
それは薄桃色の玩具。凡人共の御用達。
勿論俺がそれに頼る必要は無い。
「買っといて良かったわぁ。これは電動式の特別製よ」
遠隔リモコン式のそれを、ぶらぶらさせながら意味深な笑み。
まさか……まさかまさかまさか!?
「本物に近いみたいだし、嬉しいでしょ? いつか貴方と私、一つになれる時が来るまで、私も辛いけどこれで我慢してね」
不安は的中する。
どうしてこいつは、こんな信じられない事を平気で考え付くのか。
もしこの状況で、そんな“モノ”を装着されでもした日には、その時は――
「この粘り様……本当に似てるわね」
奴は何処から取り出したのか、糸引く透明な液体を“アレ”に流し込み――
「準備完了! さあいくわよぉ!」
ゆっくりと近付けて来た。
「ブモォォォォ!!」
『やめろぉぉぉ!!』
俺は絶叫する。何時になったらこの口の戒めは解かれるのか?
「うふふ……悦んでる悦んでる」
何処をどう読み取れば、俺が悦んでいるように見えるのか。言葉に成らぬこれが恨めしい。
せめて膨張さえ鎮まってくれれば――
「――ッ!!!!!」
しかしその願いも虚しく、あっさりとそれは装着された。
シリコン製の為、それはジャストフィット。限りなくそれは“本物”に近かった。
これで鎮まれと言うのが無理からぬ事。
「おほほほほ! こんなのに先を越されるなんて、ちょっと妬けちゃうわ……」
お前でも同じ事だ。俺の精神の純潔がこんな形で奪われるなんて、俺を慕う全人類の雌は夢想だにしないだろう。
「でもジョンの為スイッチオン、OK?」
本当にそれだけは止めてくれ。しかもOK? って。選択肢は存在しないだろお前には。
俺が拒否を示す前に、あっさりと女は遠隔スイッチを入れた。
「――ォゴォォォォ!!」
途端に襲い掛かる振動。瞬時に訪れる絶頂。
しかし決してそれが途絶える事は無い。
「じゃあ明日まで頑張ってね~」
女は俺をそのままに、此所を跡にする。
その後ろ姿に思うは殺意ではない。
それ処か俺に残されていたのは、無限悦楽地獄という現実と、思考を覆い尽くす絶望のみだったーー。