テラーノベル
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「――おはようジョン」
開かれる地獄門。姿を現すはルシファーの再来。
だが俺はその姿に、何の感慨も沸かなかった。
と言うより、あれから遡る事幾星霜――無限悦楽の刻に、俺の脳のキャパシティは既に許容範囲を超えていた。
正常な思考を判断出来ない。
“神経回路断裂。シナプス60%カット。第五、第六ブレイン制御システム異常。ゲシュタルト崩壊まで臨界値99.5%をオーバー”
“全エンチメンタル自我融解遮断カット、カットカットカット!”
「よく我慢したわねぇ……。良い顔してるわジョン」
今の俺の顔はきっと、薬漬けの廃人のようになっているに違いない。
「今、楽にしてあげるからね」
先ずは俺の口の拘束から外された。
「あ……ああぁあ……」
これでようやく言葉を口に乗せる事が出来るが、永らくの拘束と思考低下で呂律が回らない。
それに何より、罵倒する気すら失せていた。
脳に酸素と覚醒を。一刻も早く元の神の姿へ。
最後まで僅かに残った理性が望むはそれ。
「さあ仕上げよ」
奴はあのビデオカメラを、俺の一メートル前へと設置する。
何を企んでいるのかは分かっている。
だが抗わない。解放こそが、今最も望む事だからだ。
女は未だ振動が続くそれを剥ぎ取り、俺の背後へと回り込むと、銃身を掴みながら照準をカメラへと合わせた。
「こんなになるなんて凄いわぁ……。きっとジョンが史上初ね、おめでとう」
きっとエネルギーは200%超、人の限界すらも超えてるだろう。
膨張を続けた恒星は、もはや超新星爆発間近。
「さあ……思いっきり解放しちゃいなさい」
ようやく楽になり、全てが終わる。
宇宙の終焉と再生の刻だ。
縛り付けられた戒めが、ゆっくりと解かれた。
「うぅっ!」
刹那――放たれる可粒子砲。
かつてこれ程の出力は有っただろうか?
否、少なくとも俺の幾千の経験から遡っても、これ程の射出は存在しなかった。
その余りの突き抜ける衝撃に、思わず意識まで飛びそうな程――
「凄いわ! 何て威力……」
その膨大な量の粒子の着弾に、レンズまでぶちまけていた事実に女は驚愕の声を上げていた。
それも当然。
その尋常ではない量と勢いは、人の許容範囲を超越していたのだから。
これが俺が神足る所以。
このアルティメットフィニッシュを撃ち込まれて、理性を保てる女は存在しない。
「はぁ……ふぅぅ……」
戒めの呪縛が全て解き放たれ、俺はようやく戻って来た。
“思考回路オールクリーン”
“ハーモニクス全て正常値”
覚醒、浸透していく脳髄を実感し、俺は確信に至った。
ようやくだ……。
ようやく神の姿へと戻ったのだ。
これまでこいつの一方的な行状を赦してしまった感はある。それは素直に認めよう。
此処までは俺の一方的な敗戦だ。
だが此処から先はそうはいかない。
本気を出してやる。そして奴を後悔せしめよ――
「ククククッ」
口から溢れた微笑はビクトリー。
俺のゴッドアブソリュートタイム(絶対時間)、即ち神の逆襲が始まる。
――先ずは食事だ。
一番搾りだろうが何だろうが構う事はない。
「私の“生”をそんなに美味しそうに飲むなんて……。私は感激よ」
奴の御期待通りに俺は完食する。
「今度は“直”で飲ませてあげるからね」
それは即ち、奴から直接吸飲する行為を意味する。
だがそれもやぶさかではない。
以前の俺なら、絶叫で抗っていただろう。
だが俺は既に人である事を捨てたのだ。
俺は神の写し身になる。否、既になっていた。
神の前ではあらゆる現象が無意味。
脳がこれまでに無い位、冴えて冴えて冴えまくっている。
もはや俺に怖い物等、何も無い。
「さあ! 今日の躾を始めるわよぉ! もうすぐでジョンは私の“モノ”になるわ」
奴は嬉しそうにテンションを上げるが、それも望む所だ。
全てが徒労に終わる事を思い知るがいい。
「ウフフ。今日はね……」
女は勿体振るように、ある“モノ”を近付けて来た。
そのある“モノ”とは――。
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