テラーノベル
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数日後――
城塞都市ブロックス、客室にて
「お、おい押すなよ」
「いつまでそこで突っ立っているつもりだ。早く行け」
「ならお前が行けよ」
扉の向こうで、何か言い争う声が聞こえてくる。というかアンドリューから話は通っているので、誰が来ているのかは知っているが。
「ヨハンナ、開けてあげなよ」
「おう」
ヨハンナが扉を開けると、前で待機していたジャガーとソニア、セレーネが倒れ込んできた。
「何やってんの、君ら」
「お、おう、久しぶりだな」
「体調を崩していると聞きまして」
「引きこもってるって聞いてな」
ゴホンと、各国の代表者は気まずそうな表情を浮かべつつ天井を見たり床を見たりする。
すっとベッドの上でママ上に膝枕されている俺を見て、ジャガーは驚いた声をあげる。
「お前……また太ったのか」
「なんだお前、久しぶりに来てバカにしに来たのか」
「いや、良かったな。お前がゴボウ並にほっそりしたときは焦ったぜ」
「この数日で戻した。水を与えられた木のように、すくすく膨らんだ」
俺も多分この流れで痩せて、量産型イケメン系ラノベ主人公みたいになるんだろうなと思ったら、全然豚王子のまんまだった。
それもこれも全てはママ上が俺を甘やかし倒すからだな。
俺のカロリーが全てなくなった後は、高カロリー食品のオンパレードで元に戻してくれた。
毎日甲斐甲斐しく看護してもらって、俺もうマザコンでいいと思ったもん。
「その、オレたちなんだ……リガルドを裏切ったのに、助けられてよ」
「その話はいい。俺は悪王子らしく、お前らが惨めになることをしてやったまで。ギャハハハハハ、あぁやばい腰が痛い」
「頑張ってキャラ作んなよ」
キャラちゃうわと思いつつ、先日の戦いで痛めた腰をさする。
「あっ、そうだ手土産だ。コレやるよ」
ジャガーはビンが沢山入った紙袋を手渡してきた。
なんだ、見舞い品か。なかなか気が利いているな。
中身を見ると、歯車のラベルが貼られた発泡アルコール飲料だった。
「ギデオンの連中は、仕事後に必ずこれで一杯やるんだ」
「あぁ俺、まだ未成年だから。こういうの貰っても困る」
「しっかり法律守る悪王子だな、オイ!」
「アクアレムからはこちらを」
今度はセレーネから渡された袋を見ると、中には手帳が入っていた。
開いてみると、そこにはびっしりと何かしら文字が書かれている。
「なにこれ?」
「アクアレムに伝わる、歌の歌詞なのです。非常に美しい歌詞で」
「いらんな」
俺はペイっと手帳を放り捨てる。
「えぇ!?」
「すまんな、俺に美しいものとかキレイなものは似合わないんだよ」
「あっ……」
セレーネは言葉の意味を察し、一瞬寂しそうな表情を浮かべる。
「私からもこれ、つまらないモノだが」
ソニアも、こちらに紙袋を手渡す。
今度はなんぞやと思い取り出すと、ソニアが表紙になった本だった。
「なんだこれ……」
「私のグラビア写真集だ」
「すごいもの持ってきたね君。見舞い品としては、この上なく面白いよ」
自分のグラビアを見舞い品に持ってこれる根性がすごい。
パラパラとめくると、水着姿の大胆なカットもある。
「うわ、こらすごい……ほとんど裸じゃないか」
「ちょちょ、ヌードがあるのか!? オレにも見せてくれ」
「ちょ、ちょっとラウル王子、さっき自分で美しいものは似合わないとおっしゃっていませんでしたか!?」
「いや、これは美しいと同時に、俺等みたいな下賤の輩が見ると非常に低俗なエロ本と化す」
「で、では王子、わたくしの写真集が出たら受け取ってくださるのですね!?」
セレーネは何と張り合ってるのか知らないが、非常に怒っている。
「いやーよくこんな本作ろうとしたな」
「やはり美というものにも種類があって、若かりし時にしか残せない美もある。それを記録として残しているのだ」
「「ナルシストなんだな」」」
俺とジャガーの声が揃う。
「断じて違う、私は美しいもの全てを愛している。絵画や、景色、音楽なんかも。その中に私も入っているだけだ」
それをナルシストと言うのでは?
「ってことは、俺みたいなのは嫌われてるんじゃないの?」
「いや、美しさとは外見的要素だけで決まるものではない。先日のそなたの戦い、民を守らんとする背中は美しかった。惚れ惚れするほどだ」
「オレも魂を感じたぜ」
「はい、あれこそ王族の気高き精神だと思います」
「「それでなんだが……」」
三人は珍しく言いづらそうにごにょっている。
「その……三国で話し合ったんだが、リガルドさえ良ければ魔獣防衛会議をもう一度開きてぇんだが」
「えっ、お前らもう4国同盟破棄してきたのか?」
「するだろ。あのラストの亀対決で、協力できない奴とは手を組めない」
「グローリーか?」
「そう、あいつリガルドに親殺されたのか? ってくらいリガルドへの憎悪で動いてる」
「まぁリガルドも兄上みたいなのがいるしな」
恨まれてても致し方なし。
「その、アクアレムはまだ同盟破棄には至っていなくて、オクタスの反対が強く……申し訳ありません」
「いや、続けるかどうかは国の自由だしな。よし、じゃあもうここで会議やろうぜ。防衛壁の修理は急ぎたいんだ」
「それな。修理はギデオンが担当しようと思っている」
「修理中の護衛はトリスタンが」
「アクアレムは、オクタスと話し合ってからになると思います」
「それはしょうがないとして、防壁の修理が終わったらダークライン進行計画を考えてるんだがどうだ?」
「ダークライン進行計画?」
「そう、ダークラインの中をエリア分けして、比較的奪還できそうな第1区画から徐々に戦線を広げていく」
俺の意見にジャガーは「なるほど」と頷く。
「確かに、第5区のど真ん中から開拓を始めたのは絶対間違いだったな」
「コアメタルの採掘もできるし、トリスタンも魔獣から土地を取り返したいだろ」
「リガルドの見返りはどうするんだ?」
「ウチは聖剣と呼ばれる武器を探しててだな。ダークラインの魔獣が持ってるみたいだから、それを見つけたい」
「なるほど、じゃあそれぞれ利害は一致しているか」
話がまとまりかけている最中、アンドリューが急に部屋へと入ってきた。
「ご会談中失礼致します。王子、急ぎでお耳に入れたいことが」
「それは内緒話?」
「いえ、公式発表ですので誰が聞いても問題はないのですが」
「じゃあ言っていいよ」
「はっ、ガレス共和国から声明がでました。ダークラインでの魔獣退治の功績は我が国にあり。防壁は我らガレス共和国が死守した為、崩壊の危機は当面の間ないと」
「野郎、手柄横取りしてきやがったか。いっちばん何もしてねぇくせに」
ジャガーは舌打ちを一つ入れる。
「また、ダークラインの破損原因は、リガルド帝国が無闇に魔獣を刺激したことにあるとも」
「恥知らずとは、このことか。我らのことも無様な裏切り者と言っているだろう」
「いえ、声明は以上です」
「まーたウチだけ悪者にされてるわ。アンドリュー、一応抗議しといて」
「畏まりました」
アンドリューは頭を下げて部屋を出る。
「またリガルドが世界の嫌われ者になっちゃったよ」
俺は茶化して言ったつもりだったが、ジャガー、ソニア、セレーネは苛立ちに満ちた表情を浮かべていた。
「あまりにもガレス共和国のやっていることは卑怯です。わたくし、今回の件で悪と呼ばれる存在を、しっかりと勉強しなければいけないと学びました」
「王族として、一方の意見だけを鵜呑みにしてはいけない。己の目で見て、耳で聞いたものを信じ善悪を判断しなくてはならない」
「色々話すつもりだったが、一旦拠点帰るわ。ギデオンも声明出さねぇと」
「トリスタンも即刻抗議を行う」
「アクアレムは、早急にガレスとの同盟破棄の意見をまとめます」
三人は急ぎ部屋から去っていった。
『なんだか、他の国の王子たち頼もしいね』
ナハトはにひひと笑みを浮かべる。
「ある程度の信頼関係はできたのかもな。ヨハンナ、ママ上、俺ちゃんと王子できてるかな?」
「ええ、とってもよくできてるわ。花丸」
「あたしも難しいことはよくわかんねぇけど、王子のおかげで4国はまとまったんだろ。ちゃんと任務は果たせてるじゃねぇか」
「ならいいんだけど」
「それよりラウルちゃん、ご飯食べる?」
「食べる食べる。3時間も食べてないと痩せちゃうからね」
悪役王子、聖剣を抜く
第二章 了
ありんす
760
#牛肉
コメント
1件
第34話、読み終わりました。各国の代表が揃って見舞いに来るシーン、それぞれの手土産のチョイスにキャラが出てて笑いました。特にソニアのグラビア写真集は予想外すぎて吹きました(笑)。でも一番印象に残ったのは、三人が口を揃えてラウル王子の“背中”を美しいと言ったところですね。悪役を名乗る彼が、しっかり信頼を勝ち得ているのが静かに沁みました。ガレス共和国の手柄横取りでまた一騒動ありそうですが、今のチームワークなら乗り切れそうな予感がします。