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ダークライン防壁事件から約1年が経過――。
ダークライン補修と同時に、リガルド、ギデオン、トリスタンを主軸にした侵攻作戦も展開され、10に分割された区画内の第1区と第2区の完全制圧が完了。第3区の攻略も始まりつつある。
前線は安定を見せ、アンドリューや各代表の側近に指揮を任せても大丈夫なところまで来た。
その為、俺達王子が砦に居座っている必要もなくなり、各々の軍にダークライン攻略を任せて帰国することになった。
帰国した俺は、すぐにメッサー王に呼び出され、リガルド帝国王宮へとやって来ていた。
高い天井と壮麗な装飾が施された謁見室へと通されると、既にメッサー王が玉座で待機しており、俺はすぐさまその場で跪いた。
父王は玉座に肘をかけて頬杖をつくと、暗い紫色を宿した双眸を俺に向けた。
「ラウルよ、まずは長きに渡って前線維持ご苦労と言っておこう。ダークラインでの報告は、アンドリューから受けている。防壁の補修だけでなく、魔獣に奪われた領地を奪還していると」
「はっ、各国と連携を行い開拓を進めている最中です」
メッサー王の視線が、すっと細くなる。
「……貴様、ダークラインでとれるコアメタルをギデオンに無償で渡していると聞くが?」
「ギデオンの技術力は高いですが、エネルギー事情で困窮しております。反面我らリガルド帝国は、国土にエネルギー資源が潤沢にあるため、コアメタルの重要性は低いと考えられます。機械製品に必要なコアメタルを流すことで、ギデオンの製造業が安定化し、リガルド帝国に対しても機械製品が輸出されてきています。ゆくゆくはギデオン国の武器輸出規制撤廃を目標に、外交交渉をしたいと思っています」
「リガルドがコアメタルを独占し、ギデオンと交渉すれば良いのではないか?」
「ギデオンのエネルギー事情は逼迫しており、国内では計画停電を行って電力を節約しているほどでした。この状況で、我々が締め上げるのは命を締め上げるのと同義。命の外交をするより、リガルドの懐の広さを見せたほうが良いと判断しました」
「では、トリスタン王国にダークラインで発見された遺跡や、文化品を渡しているとのことだが?」
「ダークラインの土地は、大本を辿ると約半分がトリスタンの土地です。ダークラインから出土した物品は、トリスタンの先祖が残したものと考えられます」
「それを我々が返してやる理由は?」
「出土した物品は、どれも破損しておりリガルドにとっては価値が低いものです。しかしトリスタンの人間にとっては、先祖が残した遺品。高い価値を見出しています。この前出土したもので、壊れたバイオリンが見つかりました。我々にとってはただのゴミでしたが、トリスタンにとっては王家の秘宝にも等しいものだったそうです。彼らは数ヶ月かけて修理を行い、大昔の美しい旋律を奏でるバイオリンに戻したそうです」
「そのバイオリンを直すのに、帝国から技師を呼んだり、資材を集めたと聞いているが?」
「技師を呼んだのは、トリスタンの楽器技師から技術を盗むため。資材を集めたのは、トリスタンの田舎者に集めさせると3年かかるとわかったからです。ソニア王女は修復されたバイオリンを見て大層喜んでいました。私を信用させることに成功したのです」
「恩を売っていると?」
「はい。トリスタンは歴史や文化を重んじます。手を組むことが必要になった時、小手先の賄賂では絶対に応じません。このように恩を売る形が一番効果があるかと」
「…………そのかいあってか、長らく中止されていたトリスタンの交響楽団が演奏ツアーにリガルドを含めたと聞く」
「リガルドの貴族も喜ぶことでしょう」
メッサー王は、眉間に深いシワを寄せたまま深くため息をついてみせた。
「ラウルよ、貴様、言い方で誤魔化しているが、お前には随所から甘さがにじみ出ている」
さすが本物の悪王、バレてるな。
メッサー王も頬杖をついたまま、やめさせた方がいいのか、そのままやらせるべきなのか困っているように見える。
「ラウルよ、恩を売っても仇で返す輩もいる。情に流され判断を見誤るな。助けた相手に後ろから討たれて滅んだ国も多い」
「心得ております」
「いろいろと問題はあるがラウルよ、ギデオン、トリスタンとの国交の正常化、ダークラインの奪還、未確認魔獣の捕獲、お前の功績を認めぬわけにはいかぬ」
「ありがとうございます」
「その功績を認め成人を認める」
「ありがたき幸せ」
ありがたき幸せと言っているが、頭の中では「成人???」と?でいっぱいである。
「それに伴い、ハーレムの使用を認める」
「ハーレム……でございますか? 甘美な響きがあります」
「使い方は後で聞け」
「はい」
ハーレムを使うってどういうことだろう? 実は隠語というオチでは?
「もう一つ。お前が成人を迎えたことで、今までに寄せられている見合い話を解禁する」
「見合いでございますか?」
「成人したことによって、婚約が可能になった」
「はい」
「…………」
えっ、説明それで終わり?
「この後しばらくは休むつもりであろう。その時釣書に目を通せ」
「畏まりました」
俺は釣書ってなんだろうと思いつつ、腰をくの字に折り曲げたまま玉座から退室する。
「ふぅ……相変わらず酸素の薄い部屋だ」
ギデオンとトリスタンのこと詰められると思ったけど、やっぱり詰められたな。なんとか舌が回って、切り抜けることができたが。
一息ついていると、背の高い文官が俺を待ち構えていた。
「ラウル様、王よりハーレムの使用許可が降りましたので、ご説明を」
「ハーレムってあれですか? 女性をはべらす的な」
「ここで言うハーレムとは、正妻、側室の住まう宮殿のことでございます。ラウル様は成人を迎えられ、婚約が認められます。ハーレムに興味のある女性を迎えられると良いでしょう」
「それ、別にハーレムじゃなくてよくないですか? ウチのムカム島でも」
「ハーレムは、空間遮断魔法陣による、完全なるプライベートが守られた場所となっております。どのような女性との交際も、外部に漏れることはございません」
「はー……」
それって王様用のラブホでは? 江戸時代には大奥と呼ばれる将軍の側室や正妻を住まわせる場所があったと聞くが、それと同じだろう。
「でも、俺しばらくムカム島に帰りますよ? ハーレムって、場所どこなんですか?」
「既にムカム島で建設が行われております。帰った頃には完成しているでしょう」
仕事が速すぎるだろ。
「それとこちら、ラウル様に婚約を申し出ている女性たちの釣書です。いずれも家柄の優れた貴族達でございます」
文官は数十冊の見合い書類を俺に手渡す。
「これが釣書か」
ドラマとかに出てくる、写真付きの見合い用の履歴書だな。
「こんな急にいっぱい貰っても困るんだが」
「ですので、気に入ったものをハーレムに呼ばれると良いかと。お呼びになられる女性の数に制限はございませんので」
「はぁ……」
文官はそれではと、俺に礼をして去っていく。
「ハーレムか……」
『ラウル、まさかとは思うけど僕を差し置いてハーレムづくりするとかありえないよね? こっちは年単位でお預けくらってるんだよ』
腰にさした聖剣から、ナハトの怖い声が聞こえてくる。
「まさか、今のとこママ上達以外呼ぶつもりはないよ」
俺は手渡された見合い写真の一つを開くと、とんでもない美人が映っていた。その顔写真は、どこか緊張で強張っている。
「相手は俺の容姿知ってるだろうし、もはやトロルに嫁ぐような気持ちで写真撮ってただろうな」
とりあえず、そのハーレムとやらはママ上とナハトで使うことになるだろう。
さて、父上に報告も終わり、ようやっと愛しのムカム島に帰れる。
そう思い城のロビーに向かうと、待っていたヨハンナと合流する。
「おっどうだった?」
「お褒めの言葉2割、説教7割、褒美1割って感じ」
「いいじゃねぇか、怒られてないだけ。その重そうな本は何だ?」
「見合い写真」
「結婚すんのか?」
「しない。あっそうだ、ヨハンナ俺のハーレムに入りなよ」
「お前、割とすごいこと言ってるぞ」
コメント
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読み終えたわ!ラウルが帰国してメッサー王に詰められるシーン、めっちゃ緊張感あって好き。外交の裏事情とか「甘さ」を指摘されながらも、ちゃんと説明して切り抜けるのがかっこよかった。ハーレムの話は予想外で笑ったけど、最後にヨハンナに「入りなよ」って軽く言うラウル、それ割とすごい発言だぞ(笑)。ナハトの嫉妬も可愛かった。次回、ムカム島でどうなるか楽しみ!