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「こんな事って……こんな事ってないよ!!」
アミの声は誰にも届かない。此処は現実世界では無いから。
アミはこれまでの経緯、周りの声、ユキの思考まで全て頭の中に入ってきていた。
“特異点?”
“存在してはいけない存在だから?”
「どうして!!」
彼女にぶつけ様の無い、怒りの感情が湧いてくる。
その怒りは涙となり、頬を伝う。
“どうしてよ……”
彼がどんな想いで、これまで生きて来たのか?
それを想うとアミは涙が止まらなくなる。
泣き崩れているアミの視界が白く歪み、場面が別の所へと変わる。
“まだ……何かあるというの?”
ゆっくりと違う場面が映し出される。
アミは涙を拭き、意を決して立ち上がる。
“それでも私は、最後まで見届けなければならない”
どんな出来事が待ち受けていようともーー
***
暗く、光が射す事も無い地下回廊。
ただ其処にいるだけの存在。
あれからどれ位の時が流れた事だろうか。
父上や母上は此処に来る事は無かった。
ただ誰かが定期的に食事を運んでくるだけ。
衛生も何も無い。
此処はずっと寒かった。
暖かい所へ行きたかった。
外の世界を見て見たかった。
僕はーー
何時まで此処に居ればいいんだろう?
目を閉じても開けても、暗闇だけが広がる世界。
生きてるのか死んでるのかも分からなくなる。
どうか、此処から出してください。
※この世に生まれ落ちてから、五年の歳月が過ぎた日の事。
*
「ユキ……」
暗い闇の地下回廊の中、それでもユキは白銀に輝いていた。
黒と白の対比は、更にその存在を際立たせる。
此処は干渉出来ない世界。
アミはただ眺める事しか出来ない。
ユキの瞳。それはアミが見てきた感情の無い、深く吸い込まれそうな銀色の瞳。
昔も今も、その瞳には虚無だけが広がっている。
特異点として。
この世に存在してはならない存在として。
誰からも愛される事無く、ただ生きているだけ。
「ごめんね……」
触れたくても触れられない、この形の無い世界がもどかしかった。
ーー暫くして、誰かの足音が暗闇の奥から聞こえてきた。
***
一人の男の子が僕を見ている。
僕より少しだけ幼い、黒い髪の男の子。
髪の色や目の色は違うけど、雰囲気ですぐに理解出来た。
この子は僕の弟だ。
僕には弟がいたんだね。
弟は僕のように、存在してはいけない存在じゃない。
良かった……。
僕の代わりに、父上と母上の愛情を一身に受ける事が出来る。
次期当主として、立派に一族を引っ張っていけるだろう。
少し羨ましかったけど、これで安心した。
弟には僕の分まで幸せになって欲しい。
父上と母上、そして一族の事をよろしく頼むね?
弟は不思議そうな目で僕を見つめていた。
弟がいる事を知った日の事。
何も無かった自分に安心出来た日の事ーー
『シュリ様! ここに来てはなりません!』
誰かが声を荒げながら此処に入って来た。
“シュリ”
僕の弟はシュリって名前なんだね。
僕には名前は付けて貰えなかったけど。
次期当主に相応しい名前だね。
『あれは……僕の兄上?』
『シュリ様に兄は存在しません! 金輪際此処に入ってきてはなりません』
一人の男が弟を抱き抱えて連れて行く。
あまり弟に乱暴しないで欲しいなぁ。
でも、もう此処に来ちゃ駄目だよシュリ。
君は次期当主なんだから。
存在してはいけない兄が居てはいけないのだからーー
…