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ゼノがクルト王子に頭を下げて部屋を出た。
僕もクルト王子に礼を言う。
「いろいろとありがとう。どうかお元気で」
「貴様もな」
「はい」
「兄上」
僕の肩を抱きながら、リアムも頭を下げる。
「国や民のことを、よろしく頼む。俺に手伝えることなど無いだろうけど、困ったことがあれば呼んでくれ。俺もすぐに駆けつけるから」
「いらぬ。おまえの顔を見なくて済んで、せいせいするのだ。二人で何も憂うことなく暮らせばよい」
「ははっ!相変わらずだな。どうか身体には気をつけて」
「ああ」
リアムが僕から離れ、クルト王子に抱きついた。でもそれはほんの一瞬のことで、すぐに僕の元へ戻ってくる。
「気色の悪いことをするな」と悪態をつくクルト王子に笑って、リアムが僕と共に部屋を後にする。
僕達の後にラズールが続いて部屋を出ると、扉がゆっくりと閉じた。
「リアム、寂しくない?」
「ん?なぜ?フィーが傍にいるのに寂しいわけないだろう」
「でも…ずっと暮らしてきた城を出るんだよ」
「フィーだってそうだろ?俺はバイロン国にいるが、フィーは国を出てきたじゃないか。おまえこそ寂しくはないか?」
「ない…と言えばウソになるけど、リアムといる方が幸せだから。リアム、やっと会えたね」
「ああ、長かった。腕はどうだ?動くか?」
「ほら、この通り!動くでしょ?」
「そうか…よかっ」
「よくあるものか」
すんなりと王城を出て、クレンさんの店に戻った。そこで馬車に乗り、王都を出た。
向かう先を知ってるゼノが御者台で馬を操り、僕とリアムが箱に乗っている。ラズールは馬車の後ろを、馬に乗ってついてくる。
天気がよく風が気持ちいいから、幌を上げている。そのため、僕とリアムの会話がよく聞こえるようで、ラズールが口を挟んできた。
「ラズール、入ってこないでっ」
「フィル様、第二王子はあなたの恋人なのでしょう?恋人にウソをつくのは、よくありません。正直に話した方がいい」
「なにおまえ。僕に背くならついてくるなって言ったよ」
「背いてはいません。忠告をしているだけです」
「なんか怒ってるの?意地悪ばかり言う…」
「怒ってはいます。ですが自分にですよ…」
「ラズール…お願いだから、少し離れてて」
「…かしこまりました」
ラズールが、馬の足を遅らせた。
会話が聞こえない距離に離れたラズールを見ていると、リアムに髪を撫でられた。
「フィー。ラズールが言った通り、正直に話してほしい。俺を想ってのことだとしても、ウソは無しだ」
「うん…。ホントは左腕…まだ少し、痺れてる」
「うん」
「それに、力も入れづらい」
「うん」
「雨の日は…ズキズキと痛くなる」
「そうか…ごめんな」
リアムが僕の左腕を手に取り、赤く残る傷跡にキスをした。
好きな人の力ってすごい。リアムに触れられキスをされたら、左腕の痺れが消えたように感じた。
リアムが僕の腕を優しく撫でながら悲しそうに言う。
「跡が残ってしまったな…。キレイな肌なのに」
「そんなに目立たないから大丈夫だよ」
「フィー、痛かっただろう?俺は一番守りたい人を傷つけた…。自分を許せない」
「許してよ。そもそもは、リアムが僕に剣を向けるように仕向けた、僕のせいなんだから」
「それでもダメだ。なあフィー、俺を殴ってくれないか?」
「ええっ!無理だよっ」
「頼む」
「…仕方ないなぁ」
僕が座り直すと、リアムが目を閉じた。
右手を振り上げて、勢いよく振り下ろす。手のひらがペチッとリアムの左頬に当たり、僕はリアムに顔を寄せてキスをした。軽くキスをして顔を離す。
リアムが目を大きく開いた後に、僕の肩に頭を乗せて苦笑する。
「フィー…もっと強く叩かなきゃ」
「いいんだ。僕にはこれが精一杯。これでもう終わり。二度と自分のせいとか言っちゃダメだよ」
「はぁ…おまえは優しいな。フィー、愛してるぞ」
「僕も、愛してるよ」
二人で顔を見合せて、ふふっと笑う。
幸せだな。こんなに穏やかな気持ちは、久しぶりだ。だけど、身体の痛みが幸せな気持ちに水をさす。少しづつ、痛みが強くなってきている。もう少し、もう少しだけ待ってほしい。もう少し幸せな気持ちを感じていたい。リアムの傍にいたい。
今度は僕が、リアムの胸に頭を寄せて目を閉じる。
「眠いのか?」
「うん…」
僕の髪を撫でるリアムの手が心地いい。馬車の振動も手伝って、本当にこのまま眠ってしまいそうだ。
「着いたら起こしてやるから、少し眠れ」
「…ありがとう。リアムはどこに向かってるのか知ってる?」
「知ってる。ゼノから聞いてないか?向かっている場所に、俺が準備した家がある。いつかフィーと住みたいと思って」
「そうなの?隠れ家ですとしか聞いてない…」
「あー…ゼノは気が利くからな。俺の口から説明する方がいいと思ったんだろう」
「リアムと…僕の家…。ふふっ、嬉しい」
「とりあえず必要な物しか置いてないんだ。これからフィーが好きに変えればいい」
「うん…ありがとう…」
リアムの目を見てお礼を言いたかったけど、まぶたが重くて目があかない。なんとか口を開いて感謝を伝えると、僕は眠りについた。